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パワーリフティング
[エレイコカップ]世界記録保持者ラーマンと日本のトップ7選手が競演
「ラーマン、ラーマン!」
体重170kgを超える巨体をベンチプレス台に横たわらせると、大きな音を響かせながら息を吸い込み、シアマンド・ラーマンは自身の名前を2度叫んだ。
重量を290kgに設定した4本目の試技だった。260kgでスタートし、2本目の275kgも難なくクリアした後、3本目で審判に「止めが甘い」とジャッジされて失敗に終わった重量を、今度は軽々と持ち上げた。290kgの成功。会場は拍手や歓声でどよめいた。
世界最強の気合の入れ方
生まれつき運動機能に障がいがあるラーマンは、ロンドンパラリンピックとリオパラリンピックのパワーリフティング107kg超級の金メダリストであり、イランのスター選手だ。310kgの世界記録を持つが、ほぼ同条件で競技を行う健常者の記録は、いまだ300kg超えを果たしていない。そんな“超大物”をイランから招いて行われたエキシビジョンマッチ。来場者は、一瞬で集中力を高めてとてつもない力を発揮するラーマンの姿を通じ、パラパワーリフティングの醍醐味を体感した。
「あげるときにとにかくバーに集中する。『これをあげるんだ』という気持ちが大切だと思っている」 大役を終えたラーマンは、ステージ上で自らのスタイルについて明かした。
ラーマンの圧巻のパフォーマンスは、東京パラリンピックに向けてさらなる記録更新を目指す日本の選手たちも刺激した。
男子72kg級の日本記録保持者で、胸から下の感覚がない佐野義貴は、「ラーマンはじめイランの選手は、気合の入れ方に迫力があってすごい。障がいの程度は全然違うが、ちょっと自分でもやってみたいなと思った。自分のルーティンはベンチ台を睨んで静かに乗り移ることだが、これからは変化も必要かもしれない」と話し、含みを持たせた。
感嘆の声を漏らしていたのは、障がいのある選手だけではない。このエキシビジョンは、7月25日から27日まで開催されたスポーツと健康産業における日本最大級の総合展示会「SPORTEC」のなかで行われたこともあって、多くのパワーリフティング選手も来場していた。
客席で観戦していたベンチプレス93kg級で世界3位の長谷川直輝さんは、「強い!」と一言。「あげかたがきれいなところも、世界最強と感じた」とほれぼれとした様子だった。
歓声の中で日本の選手もベストパフォーマンス!
今回のエキシビジョンカップは、試合形式で行われた。日本パラ・パワーリフティング連盟の吉田進理事長が選手の特徴や見どころを解説しながら進めていく。
競技は独特の緊張感の中で試技が行われるため、声援を送るべきか迷う人もいるかもしれないが、「皆さんが声を出した方が選手は燃えます」と吉田理事長。
実際、パラリンピックのロンドン大会やリオ大会では、地鳴りのような歓声と足踏みで熱気に満ちていた。
この日は、桜美林高校チアリーディング部HOPPERSが盛り上げ役として参加。選手の名前を連呼するなどして来場者をリードし、応援しやすい雰囲気作りに一役買った。
そんななか、女子50kg級のマクドナルド山本恵理は、自信の持つ日本記録50kgを上回る53kgにチャレンジ。同じステージにラーマンがいる影響なのか、イベントの盛り上がりからなのか、非公式ながら自己新記録を成功させ、記録更新とならなかった10日前のジャパンカップの悔しさを晴らした。「今日は軽く感じた」と試合後は、笑顔を全開にした。
その他、女子45kg級の日本記録保持者・小林浩美、リオパラリンピック出場の西崎哲男、ジュニアの部107kg級の松崎泰治、先のジャパンカップで男子80kg級の日本記録186.5kgをマークした実力者の宇城元ら7人が登壇。それぞれ自慢のパワーを見せてパラパワーリフティングをアピールした。
また、男子49kg級の三浦浩は、自信が作曲したという曲にあわせて登場し、この日は120kgを挙上。エキシビジョンにふさわしいエンターテイナーぶりを発揮していた。
9月にはメキシコで世界選手権が開催され、来年9月には北九州でアジア選手権が行われる。“世界一の力持ち”シアマンド・ラーマン、そして彼に刺激を受けた日本選手らの記録更新に期待がかかる。
text by Asuka Senaga
photo by X-1