車いすテニス・小田凱人が“特別な”木下グループジャパンオープンで初タイトル!
車いすテニス界のニュースター小田凱人が、有明のショーコートに集まった2200人の観客を前に、高々と優勝トロフィーを掲げた。「木下グループジャパンオープン2023」で初優勝。世界ランキング1位の重圧もある中、ほっとした笑顔をたたえた。
決勝は日本人対決!
「車いすのカッコよさを見せられたと思います」と優勝者のスピーチで堂々と話した17歳は、小中学生に対しても発信。「夢を持っていたら絶対にあきらめないで。僕も、小さいころからでっかい夢を見てやってきたので(ここまで来られた)」と熱っぽく語りかけた。
眞田卓との日本人対決になった決勝は、序盤からフォアハンドの強打を連発。その後も勢いは止まらず「思った以上にワイドのサーブが効くなと思った。風も吹いていてそれも利用できた」などと振り返ったとおり、攻めのスタイルで世界ランキング8位の眞田に主導権を譲らない。最後は、フォアのストレートを決めて6-3、6-3でストレート勝ち。勝利が決まると、車いすでくるりと回って喜びを表現し、ラケットをギターに見立てるパフォーマンスを披露した。
多くの観客を集めてプレーするということ
「去年優勝できなかったので、今年は優勝できてすごくうれしい」と記者会見で率直に喜びを語った。昨年の決勝は約2時間半に及ぶ激戦を演じ、フルセットの末、自身が目標としてきた国枝慎吾に敗れただけに、初優勝は喜びもひとしおだ。
「去年のオンコートインタビューで(観客の皆さんに)『また帰ってきます』と言って。それが1年間ずっと(頭の中に)あった。それ(この舞台に帰ってくること)を実現でき、さらに優勝者として話すことができたのはすごくうれしかったです」
例年、春に福岡で開催されるジャパンオープンはグランドスラムに次ぐ「スーパーシリーズ」であり、海外選手も多く来日する。だが、そのジャパンオープンは車いすのみの開催で、ATPツアー同時開催の今大会のような開催規模ではない。今大会は、グレードはITF2だが、東京2020大会の会場にもなった有明で華々しく行われ、「グランドスラムより観客が多い」と小田は言う。
「ここにしかないものがある。ここに来てランキングが上がるかというとそうではないけど、そんなのは全然関係ないです。ポイントを取れるかどうかよりも、(一般の人の来場がしやすい東京で)車いすテニスを観てほしい思いで出場している」と今大会の意義について言及した。
世界ランキング1位の重圧を背負って
小田が笑顔をはじけさせた理由は、特別な大会だったことのほかにあと2つが挙げられるだろう。ひとつは、世界ランキング1位のプレッシャーに負けずに好調を維持できたことだ。
グランドスラム3連勝を期待される中で出場した9月の全米は初戦でステファン・ウデ(フランス)にストレート負けを喫した。今大会も初戦から敗退が頭をよぎる中で戦ったというが、「今の僕には若さを生かした熱いプレーが必要」だと再認識したと明かす。「(世界ランキング)80~90位の頃は、もう食っていくぞという感じだった。1位になってその熱が消えていくのが怖いなって。自分は1位だけど、相手は年上なので。ガンガン攻めていくという熱を持ってやっていくことが一番かなと思います」
世界ランキング1位の凱旋試合を優勝で飾ったことについて、「ホームで戦うプレッシャーはない」と話し、今回は「(1位の)プレッシャーをうまくパワーに変えて試合ができた」と手ごたえをつかんだ上で、「自分らしいプレーができた」とコメントした。
アジアパラ前最後の大会で勝った意味
最後は、優勝すればパリ2024パラリンピック出場資格を得られる杭州アジアパラ競技大会 (中国)を控え、最大のライバルになる眞田に勝利したことだ。
「3週間連続で試合があるのですが、すごくいいスタートを切れたと思う。(24日に初戦を迎えた)アジアパラは勝てば正式にパリが決まるので、ものすごく楽しみです。(決勝で)眞田選手と当たる可能性も高いと思うので、そういった意味でも、今日勝てたのは大きな意味がありました」
小田にとって初の総合大会であるアジアパラは、日の丸を背負って戦う。
「今日(の決勝)のように、しっかり勝って、金メダルを獲ってパリを確定できたら一番嬉しいです」
見据える先はパリ。そして、その先にある大きな夢を叶えるために、小田は再び海を渡り決戦を迎える。
text by Asuka Senaga
photo by Jun Tsukida