アスリートも絶賛! 競技力を伸ばす「視る力」の鍛え方
うまくボールをキャッチできない、一生懸命練習をしているのに伸び悩んでいる……スポーツに励む我が子がこんな悩みを抱えていたら、その原因はもしかすると「視る力」にあるかもしれない。「競技力」と「視る力」の関係性に注目し、今までにない新しいスポーツクリニックプログラム【V-Training】×Sports Clinicを提供しているECHO株式会社の西村祐介さんと、プログラムの開発に関わった株式会社東京メガネSV事業の山田敬生さんにお話を伺った。
「視力」と「視る力」は違う
ビジョントレーニングはもともとアメリカ空軍のパイロット訓練用に開発されたトレーニングとされ、1930年代にスポーツと視覚に関する研究がアメリカで行われたことに始まる。
視るチカラを高め視覚と身体機能の結びつきを最大限に発揮させることで、運動能力の向上をはかり、最高のパフォーマンスを発揮、競技成績に繋がる成果があり、スポーツ界でも取り組まれるようになった。
「指導者が選手や子どもたちに『ボールが見えているか?』と聞いたときに『見えている』と答えたとしても、それは視力の話で、全員の見え方が同じとは限りません。たとえば、最近の学校の視力検査はABCD評価になっていて、視力が1.0以上だとA評価がつくので、本人も保護者も安心してしまいます。しかし、たとえば右目が1.0、左目が1.5でA評価がついた場合でも、左右差が大きいので、距離感がうまくつかめずボールを上手にキャッチできないといったことが起こりえます」(山田さん 以下同)
つまり「視力」は単純に「どれくらい見えているか」ということだが、「視る力」はものを目で捉える力や、捉えたものを正しく脳に伝えて認識し、体を自分のイメージ通りに動かしたりする力のこと。発達に課題のある子どもは、「視る力」が弱いことが多く、山田さんもビジョントレーニングをすることによって発達の課題が改善された子どもたちを目の当たりにしたという。では、ビジョントレーニングがなぜ競技力をあげることにも有効なのだろうか。
「アスリートは目からの情報、たとえば敵味方の位置、空間の広さ、ボールと自分の位置関係といったたくさんの情報を瞬間的に得て、それを脳で処理して初めて体を動かすことができます。ですから視力だけでなく視る力が重要になってくるからです」
単に一定以上の視力があればいいのではなく、どう見えているのか、そして見えたものにどう反応するのかといった「視る力」が、アスリートには欠かせないのだ。また競技によって、必要となる「視る力」は異なるそうだ。
「たとえばラグビーの元日本代表、大西将太郎さんはビジョントレーニングを受けて、ラグビーで重要な空間認識力をアップできるので非常にいいとおっしゃっていました」(西村さん)
今までにないスポーツクリニックプログラム
【V-Training】×Sports Clinicを提供しているECHO株式会社は、アスリートを専門とするキャスティングサービスの会社。オリンピックのメダリストや、テニスや野球、サッカーなど現役から元プロ選手まで、トップアスリートたちの力を活用したさまざまな事業も行っている。その人的資源と、一般社団法人日本スポーツビジョン協会が監修した「視る力」を鍛えるトレーニングシステム機材【V-Training】を活用したのが【V-Training】×Sports Clinicだ。つまりトップアスリートの指導と医学的エビデンスを活用した、今までにない新しいスポーツクリニックプログラムというわけだ。
プログラムでは、元プロスポーツ選手や、オリンピックなどの世界大会で活躍したアスリートと、ビジョントレーニング講師によるトークセッションやビジョントレーニングの体験。さらにアスリートがビジョントレーニングを体験した経験から考案した、実際に視る力をアップするカリキュラムをアスリートが直接指導を行い、交流ではトレーニングのコツなどを質問することもできる。
「講師を務めるアスリートたちには事前に必ずビジョントレーニングを受けてもらっています。体験したアスリートの皆さんからは『スポーツをやる人たちはやるべきだ』とか『自分も現役の時にやっておきたかった』という感想をいただいています」(西村さん)
アスリートに必要な6つの「視る力」
そこで【V-Training】×Sports Clinicではアスリートに必要な6つの「視る力」に注目し、それぞれの力を鍛えるレーニングを実施している。
(1)眼と手や身体の協応動作
ターゲットを眼でとらえ、正確に反応する総合的なトレーニング。
野球のバッター/バスケットボール/テニス/卓球/ボクシング/剣道などスポーツ全般に効果的。
(2)瞬間視記憶
瞬間的に表示される数字を正確に見て記憶する中心部の感知力トレーニング。
サッカー・バスケットボールのゲームメイクするポジション/テニス・卓球などの動きの速いスポーツに特に効果的。
(3)空間認識
動いているターゲットの位置関係を正確に認識し、上から見た映像(俯瞰)に変換するトレーニング。
サッカー/ラグビー/バスケットボールなどフィールドスポーツに重要な能力。
(4)周辺部の感知力
広く動くターゲットを目で捉える周辺部の感知力を高めるトレーニング。
バスケットボール、ラグビーでのノールックパスなど球技全般に効果的。
(5)中心部/周辺部の感知
視界の中心部と周辺部の感知力を高めるトレーニング。
視覚情報、瞬間判断、手先の反応の3つの関連動作の向上が期待できる。球技全般、剣道、ボクシングなどスポーツ全般に効果的。
(6)眼球運動
目を動かして動くターゲットを正確に捉えるためのトレーニング。
スポーツ全般に重要な能力で、トレーニング後の目のストレッチとしても最適なメニュー。
ただし、以上のトレーニングを受けたからといって、すぐに「視る力」がアップするわけではない。ただ【V-Training】×Sports Clinicを受けることで、自分の得意なことと苦手なことがわかり、今後のトレーニングに活かすことができる。さらに、トップアスリートによる指導を受けられるので、競技力のアップに繋がるというわけだ。
「可能であれば、1日に5分でもいいので毎日トレーニングをすることが大切です。目も体と同じ筋肉で成り立っているので、普段運動していない人が急に筋トレをすると筋肉痛になるように、急にビジョントレーニングをやっても目が疲れてしまいます。ですから自分の視る力に合わせてトレーニングを継続することが大切です」(山田さん)
自宅でもできる「視る力」アップのトレーニング
今回、この記事を読んでいる読者のために、自宅でも簡単にできる基本的なトレーニングをひとつ教えてもらった。
用意するのはメモ用紙とペン。メモ用紙に1枚ずつ1から20までの数字を書いたら、それを壁など見やすい場所にランダムに貼る。あとは書かれた数字を順番に指さしていくだけ。ここで重要なのは目で数字を追うだけでなく指で数字を指すという点。
「目で見たものは脳を経由して体の反応を引き起こします。そうした判断力や適応力はどんなスポーツにも欠かせませんし日常生活でも大切なことなので、トレーニングでも目と体を連動させることはとても重要です」(山田さん)
最初に1から20まで数えるのにかかった時間をはかっておき、トレーニングによって、どれくらい時間が縮んだかを計測する。これならゲーム感覚で毎日続けられそうだ。
西村さんは、今後はアスリートによるスポーツ指導だけではなく、自治体や福祉施設など多くの場所や人にビジョントレーニングを通じて、「視る力」の重要性を知ってほしいと言う。スポーツをしている人はもちろん重要な要素であるが、そもそも運動が苦手な人や、あるいは集中力がないといった子どもは、「視る力」がついていない可能性もあるそうなので、ぜひ一度「視る力」について真剣に考えてみてはいかがだろう。
【V-Training】×Sports Clinic
https://www.caspo.jp/vtraining/
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
画像・資料提供:【V-Training】×Sports Clinic
photo by Shutterstock