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【追っかけコラム】 “パラ卓球の顔”が全日本に出場。熾烈な五輪選手選考の裏で始まったもうひとつの戦い
「健常の卓球とパラの卓球で違いはない」
パラ卓球の中で障がいの軽いクラス9で戦う岩渕幸洋は、かねてからそんなメッセージを発信してきた。
パラリンピックは2016年のリオ、2021年の東京と2大会出場。2017年から実業団の協和キリンに所属し、パラと健常の垣根を超えた「卓球選手」として活動してきた岩渕は、パラ卓球・日本代表の有力選手としてパリ2024パラリンピックを目指している。
そんな中、岩渕にとってうれしい知らせが届いた。日本卓球協会が2024年1月開催の全日本選手権大会から、日本肢体不自由者卓球協会、日本知的障がい者卓球連盟、日本ろうあ者卓球協会のそれぞれ男女1名ずつに、一般の部シングルスの推薦枠が与えられることが発表されたのだ。
第1回予選会(肢体の部)を勝ち抜いて
自身が強くなることでパラ卓球の認知を高めたい。そんな思いを抱く男がこのチャンスを逃さないわけにはいかない。日本肢体不自由者卓球協会登録選手にあたる岩渕は、2023年6月に日本財団パラアリーナで行われた2024年全日本卓球選手権大会(一般の部)第1回予選会(肢体の部)に出場。2連敗中だった舟山真弘を決勝で下し、見事男子シングルスの推薦枠を勝ち取った。
「(推薦枠新設という)チャンスをいただけてうれしいし、(パラの予選会で勝って)出場権を獲ることができてすごくうれしく思います」
岩渕は続けた。
「ただ出場するだけではパラ卓球全体の見られ方もいい方向には向かない。チャンスをいただいたからには、まずは1勝を目指してがんばりたいです」
そう意気込みを語った理由は、アスリートとして勝ちたい気持ちだけにはとどまらない。推薦枠新設を巡る否定的な意見を払しょくしたい思いもあっただろう。否定的な意見とは「パラ選手に実力があるのなら、健常者と同じように予選で勝ち抜けばいいのでは?」という声である。
岩渕本人も、早稲田大学時代から10回以上、東京都予選に出場し、全日本出場に挑戦してきた。一度も出場権を得ることができなかったからこそ、推薦枠を取りに行き、勝利を目指すことにこだわった。
卓球選手として「幸せだった」
パリパラリンピックレースの最中、2024年1月に行われた全日本に岩渕は初出場を果たす。1回戦は不戦勝、2回戦は山岸駿(新潟産大附高)に第3ゲームでデュースに持ち込む場面もあったが、0-3で敗れた。
大会を終え、岩渕は「プレーできたことは、とても幸せでした」とコメントし、関係者らに感謝を示した。
「健常の世界でももっと食らいついていけるようなレベルに上げていかなければいけないと思いました。もっと強くなれるよう、この経験を次に活かしていけるようがんばります」
わずか1試合でも、大きな収穫があった。
今回の全日本はパリ五輪の国内代表選考の場としても大きな注目を浴びた。その裏で初出場を果たした岩渕は前述のとおり2回戦敗退。パラリンピアンの中村望(肢体・女子)、竹守彪(知的障がい・男子)、そしてパリパラリンピックの代表に内定している和田なつき(知的障がい/女子)もそれぞれ1勝を挙げられなかった。
だが、世界に目を向ければ健常の世界で活躍しているパラリンピアンもいる。
「純粋に卓球として技術を上げればどちらの世界でも活躍できる」とは岩渕の言葉だ。
出るだけで終わりにはしない。岩渕、そして推薦枠で全日本を戦う選手たちの勝利を目指す奮闘は続く。
text by Asuka Senaga
key visual by Japan Table Tennis Association