バリアフリー応援スポットも⁈ スポーツの力で人と街がひとつに。東京マラソンの知られざる取り組みに迫る!
今年も大きな盛り上がりを見せた東京マラソン。多くのランナーにスポットが当たる一方、その裏でSDGsやダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の実現に向けた様々な施策が実施されていることをご存じでしょうか。東京マラソン2024の様子と、一般財団法人東京マラソン財団へのインタビューから、より良い社会づくりに向けて、進化し続ける東京マラソンの取り組みに迫ります!
障がいのあるなしに関わらず応援できる!『バリアフリー応援スポット』
東京マラソンのフィニッシュエリアである東京駅前・行幸通りに設置された『バリアフリー応援スポット』。スロープのついた一段高くて広さも十分にある台が置かれており、そこからは車いすユーザーや背の低い子どもの視線でも目の前を遮るものはなく、クリアにランナーたちの姿を追うことができます。 ここでは障がいのある人もない人も、大人も子どももみんな同じ場所から一緒になって、フィニッシュに向かうランナーに大きな声援を送っていました。2人のお子さんと訪れていたお母さんがこんなことを話してくれました。
「子どもたちには色々な体験をしてほしいと思って、今回この場所に来ました。世界にはいろいろな人がいることを知るきっかけになると思いましたし、海外の人たちとの国際交流にもなる。また、ランナーの皆さんからは諦めない気持ちも教えてもらえます」
このバリアフリー応援スポットは、東京マラソンを通じたサステナビリティに関する取り組みの一環として2023大会から設置。それ以外にも東京マラソン財団はSDGsやD&Iの実現に向けて、様々な活動に取り組んでいます。
「東京マラソンは街、道路を借りて運営されています。街やその地域に住んでいらっしゃる人たちに間接的にでも何か還元されることや、『東京マラソンって、いいことやっているね』と言っていただける大会でないとご理解、ご協力は得られ続けません。大会に関わるランナー、ボランティア、観客だけではなく、住民の皆さんにも何かしらの還元が見える形にできればということは、東京マラソンの創設当初から考えられていました」
そう説明するのは、東京マラソン財団社会協働事業本部⻑の⼭本悦⼦さん。「初めて東京マラソンが開催された2007年当時、まだSDGs、D&Iという言葉は一般的ではなかった。ですが、これからの社会はそうした考え方がより重要だと当たり前のように認識されるようになった昨今、ランナーだけでなく大会を受け入れてくれる街、人が一体となり、誰もが大会を楽しめる環境づくりが求められると考え、毎年様々な挑戦をしています」
東京マラソンを通じたサステナビリティも加速
東京マラソンを通じたサステナビリティに関わる取り組みも加速しています。「SDGsという世界みんなの共通の目標ができたことは東京マラソンとの親和性もありましたし、大会を通じてこんなことができるのではないかというきっかけにもなったと思います」と山本さんは話します。
現在東京マラソン財団ではリサイクル、リユースなどの取り組みがいくつか実施されています。例えば、オフィシャルパートナーとの協力により2021大会(2022年3月開催)でランナーに提供した給水のペットボトルをリサイクルして2024大会のボランティアウェアを制作。2年前に使用されたペットボトルが衣類となって大会に帰ってきました。2024大会で使用された給水所の紙コップは再生紙の原料として処理・加工され、トイレットペーパーに生まれ変わるそうです。また、不要な衣類や防寒ウェアを回収する衣類回収ボックスが2019大会以来5年ぶりにスタート地点に設置されることになり、今回はケミカルリサイクル・サーマルリサイクル・リユースリサイクルされます。
さらに、街を彩る沿道の大会フラッグを回収し、バッグやポーチとして再利用して販売。これらの制作は障がいのある方の就労を支援する施設に委託され、収益の一部が東京善意銀行(東京都福祉協議会)に寄付されています。今大会で使用されたフラッグも同様にリユースされる予定です。
さまざまな国籍・年齢のボランティアが一緒に活動
一方、東京マラソンと言えば約1万名ものボランティアが活動することでも知られており、2021大会からは小・中学生のジュニアボランティアの活動が本格的にスタート。加えて2024大会からはまだトライアルのような形ではあるものの、初めて海外からのボランティアも受け入れました。現状、東京マラソンのボランティアに応募できるのは日本国内に住所がある人に限定されていますが、「(世界6大マラソンの)アボット・ワールドマラソンメジャーズでは居住地・国籍に関わらず世界中からボランティアを受け入れています。東京マラソンもその仲間として日本国内のボランティアしか受け入れないのはグローバル観点からも遅れていると感じていました」と山本さん。2015年にアボット・ワールドマラソンメジャーズの一つであるシカゴマラソンに視察に行った際、「ボランティアは誰でも大丈夫」と受け入れてもらえる環境を体験したことも大きなきっかけとなりました。また、これまでにも東京マラソンのボランティア受付会場で海外ランナーの同行者から「ボランティアはできますか?」という問い合わせを何件も受けていたという経緯もあったそうです。
2024大会の当日、実際に海外ボランティアが活動していた40km給水地点に足を運んでみると、日本人と海外のボランティアが入り混じって同じ場所で活動しており、言葉の壁を感じさせないくらいにチームワークはバッチリ。ランナーが水の入ったコップを取るたびに海外ボランティアからは歓声と応援の声が上がるなど、国際色豊かな40km給水地点は大きな盛り上がりを見せていました。ランナーはきっと、フィニッシュまであと少しの正念場のところでパワーをもらっていたでしょうし、参加した海外ボランティアも東京は初めてという人が多く「とてもエキサイティングでグレートな体験!」「マラソンを走ることはできないけど、何か関わりたかった。すごく良い機会になりました」と口々にポジティブな感想を話していました。
次世代の夢を育てるチャリティ事業
東京マラソンの取り組みで忘れてはいけないのがチャリティです。東京マラソン財団では「RUN with HEART」というチャリティ事業を実施しており、寄付先として登録している団体のうち東京マラソン2024のチャリティに参加したのが39団体40事業。寄付した人のうち希望する人はチャリティランナーとして東京マラソンに出走することができます。山本さんによると2024大会では、東京マラソンチャリティでは過去最高額となる8億円を超える寄付が寄せられたという。寄付先の団体・事業としてはスポーツ関連はもちろん、医療、福祉、子ども、環境、難民支援、ジェンダー、動物愛護など、SDGsの17の目標に寄り添ったものが網羅されており、寄付先は自分で選択ができるようになっています。
この東京マラソン財団のチャリティ事業に関して、山本さんにとって忘れられない経験がありました。それはチャリティの寄付金で運営されている団体の産後ケアに通っていた女性が、これをきっかけに東京マラソンの取り組みを知って興味を持ち始め、ついには大会でフルマラソンを走るまでになったというのです。それにとどまらず、昨年は成長した子どもと一緒にボランティアとして参加したんだとか。
「今すぐの成果というわけではないかもしれませんが、少しずつの積み重ね、大会の年数を重ねていくことで将来の何かにつながっていくのだなと実感した出来事でした」
2024大会を取材する中でも、実際にチャリティ事業のつながりを強く感じる小学1年生の車いすユーザーの女の子との出会いがありました。大会同日に実施された東京マラソンファミリーランをお父さんと一緒に見事完走し「すごく楽しかった。たくさんの人が応援してくれて嬉しかったし、また来年も走りたい!」、そう言って大きな笑顔を見せてくれました。お父さんに話を聞くと、女の子は東京マラソン財団のチャリティ事業である「スポーツレガシー事業」によって実施された「パラ陸上チャレンジサポート『EDORIKUパラ陸上教室』」への参加がきっかけとなって、今では陸上競技、車いすバスケットボール、車いすラグビーとさまざまなスポーツにチャレンジしているそうです。「今はどのスポーツが一番好きか、一緒に探しているところです。いずれはパラリンピックを目指してほしいですね」と目を細めるお父さんの横で、「一番好きなの、もう決めてるよ。まだ言わないけど(笑)」と女の子はニッコリ。東京マラソンのチャリティ事業は次世代の夢を着実に育てています。
世界一温かく、優しい大会を目指して
東京マラソンは20回目を迎える2027年を目標に、さらなる進化に取り組んでいます。それが「世界一エキサイティングな大会」、「世界一安全・安心な大会」、そして「世界一温かく、優しい大会」です。山本さんはこう語ります。
「『温かい』『優しい』という点に関して、チャリティ、ボランティア、サステナビリティへの取り組みが大会のイメージを作り、これまで東京マラソンに関わっていなかった人たちが大会を知るきっかけになり、参加したいきっかけ作りになるのではないかと思っています。温かい、優しいってなんだろう?と考えた時、SDGsやチャリティのさらなる拡大であったり、もっと社会に還元されることを私たちが見える化し、何かしらのコンテンツを通して『東京マラソンっていいね』と思っていただけるようになればと思っています。2027大会に向けてそれを具現化していきたいですし、東京マラソンを通して人、街、環境に還元されていくものが目に見えるような取り組みを増やしていきたいです」
今回、ここで挙げた取り組みはほんの一例に過ぎず、スポーツレガシー事業による小・中学生を対象にした「ミニ東京マラソン」、ごみ拾いとジョギングを掛け合わせた「プロギング」イベントの実施など、実に様々なアイデアと施策を実行中です。東京マラソンはランナーだけが主役というわけではなく、大会を支えるボランティア、応援する人々、そして街、社会すべてが手を取り合うことで初めて『東京がひとつになる日。』となるのでしょう。マラソンを通した住みよい街と社会づくり、そして人への還元のため、まずは一つの目標である2027年、記念の20回大会に向けて東京マラソンはますますスピードを上げて走り続けていきます。
text by Atsuhiro Morinaga(Adventurous)
edited by Adventurous
key visual : ©TOKYO MARATHON FOUNDATION