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自転車競技
世界選手権優勝の野口も、リオパラメダリストの藤田も出場した「ツールドフランスさいたまクリテリウム」。日本の自転車ファンに、パラサイクリングの魅力をアピール!
世界最高峰の自転車レース「ツールドフランス」の名を冠したサイクルイベント「ツールドフランスさいたまクリテリウム」が11月4日、さいたま新都心駅周辺の特設コースで行われた。
今年で5回目の開催を数え、日本の自転車ファンに浸透してきた。今回も、本家ツールドフランスで3年連続4度目の総合優勝を達成したクリス・フルーム(イギリス/チームスカイ)をはじめ、各賞や区間優勝を獲得するなど大活躍したスターが揃うとあって、沿道では全国各地から集まった多くの自転車ファンが熱い視線を送った。
パラサイクリングの7人も力走
さいたま市が各チームのカラフルなジャージで彩られる特別な一日は、快晴で天気に恵まれた。食をテーマにした「さいたまるしぇ」、自転車関連のブースが並ぶ「サイクルフェスタ」も同時開催。各箇所でレースのパブリックビューイングも行われ、街全体がお祭りを楽しもうという雰囲気だ。短い距離を周回するクリテリウム形式のレースは1周3kmほど。コンパクトなコースが魅力であり、その沿道はトップ選手の迫力をより間近に感じようと早朝から席を陣取る家族連れ、一眼レフカメラを構えるファンなどで埋め尽くされた。
約57km(19周)で一着を争うメインレースの前には、スター選手らも出走するスプリントレースとタイムトライアルレース(チーム)が開催される。そして、他のレースとは異なるゲスト選手により行われたのが個人タイムトライアルレースだ。男女ジュニア選手とパラサイクリング選手がそれぞれの走りを披露する同種目の開催は今年で3回目。よりテクニカルになったコースを、パラサイクリングから7人の選手が力走した。
「アルカンシェル~!」
そう声をかけられていたのは、9月のパラサイクリングロード世界選手権のロードタイムトライアル(WC3)で優勝し、世界チャンピオンのみに与えられる「アルカンシェル」を着用して走った野口佳子だ。
「こんなに多くの応援を受けて走ったのは初めてで、大きな力になりました。(2016年4月にケガをし)まだパラサイクリングを始めたばかりですが、『アルカンシェル』の名に恥じない走りをしていきたいと思います」
笑顔で語る野口の存在は、まだパラサイクリングを知らないファンもいる中で大きなアピールになったはずだ。
今年は、視覚障がいクラスのタンデム(2人乗り自転車)の出走がなく残念だったが、通常の二輪自転車の他に、脳性まひなど体幹の不安定な選手が乗る三輪自転車、脊髄損傷など下肢障がいの選手が乗るハンドバイクも観客の関心を集めた。
大会のクライマックスを飾るメインレースは、接戦の末、イギリスのマーク・カヴェンディッシュ(ディメンションデータ)が初優勝。熱戦は幕を閉じた。
自転車ファンも認めるその実力
パラサイクリングのファンを増やすには、まず自転車ファンに知ってもらうことだ――。3個のメダルを獲った2008年北京パラリンピックからエースとして日本をけん引する藤田征樹が以前より口にしていることだ。
パラサイクリングとしては3度目を迎えたさいたまクリテリウムへの参戦。自転車ファンの反応はどう変化したのか。
「今回走っていて思ったのは、名前を呼んでもらう機会が増えたということです」と藤田は実感を込める。
「さいたまクリテリウムは特別な大会です。真のトップ選手が参加し、自分たちも同じコースを走れる。そんな中で、パラサイクリングの選手も高いパフォーマンスを出し、自転車スポーツのひとつのあり方として、お客さんにも楽しんでもらえたらいいですよね」
この日は、片足で自転車を漕ぐ川本翔大も、競技性の高さを見せつけた。
リオパラリンピック後に練習環境を変えるなどし、パワーが増した脚力で観客を魅了。沿道からは「俺が両脚で漕いでもあんなに速く走れない」「バランスがすごい」という声が漏れた。
その川本は3月に行われたパラサイクリングのトラック世界選手権(MC2)で銅メダルを獲ったことがきっかけで、リオパラリンピックで失った自信を取り戻し、また自転車が面白くなってきたという。
「東京でライバルの中国選手に勝てるようトレーニングを積んでいきたいと思います」
同じく世界選手権のメダリストとして波に乗る野口は、「(今年の9月までロードレースでアルカンシェルを着ていた)藤田さんのように普及イベントなどどこでも着た方がいいのはわかっているのですが、まだ恥ずかしくて……」と控えめに話すが、東京パラリンピックを見据える自分の生きざまを多くの人に発信したいという。
「年齢に抗って記録を縮めていく、自分の挑戦に興味を持ってもらえたらうれしいですね」
パラサイクリングの選手の中で、最も速い記録でフィニッシュした藤田は言う。
「来年も開催が決定していると聞いているので、我々もまた走るチャンスがもらえるように、良い結果を出さなくてはならない。昨年、リオパラリンピックのメダルを持って参加できたように、また良い結果を残し、大勢のファンがいるこのレースに戻って来られたらすごくいい。それがモチベーションにもなりますね」
来年は3月にトラックの世界選手権、夏頃にロードの世界選手権が予定されている。世界で戦うパラサイクリングの選手たちは、どんな姿でさいたまに戻って来るのか。パラサイクリングの盛り上がりには、自転車ファンの熱烈な応援とともに、彼らの世界での活躍が欠かせない。
text by Asuka Senaga
photo by X-1