工場に潜入! パリ大会でトレードするオリジナルピンバッジはこうしてつくられた
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無観客の東京大会で心残りだったひとつは、ピンバッジ(ピンズ)交換ができなかったこと。パラサポWEB編集部では、パリ大会に持っていくオリジナルピンバッジづくりを企画しました。
【第1回の記事はこちら↓】
パリ大会へカウントダウン! 現地でトレードするオリジナルピンバッジをつくってみた
金型で凹凸を成型
日本代表選手が輝くイメージでデザインしたピンバッジ。今回は、細かな製作工程をお見せします。
ピンバッジをつくる方法はいくつかあります。紙に印刷するように、金属にデザインを印刷するプリント工法などがありますが、今回採用したのはプレス加工。金型をつくることで、安定して同じデザインのものをつくり出すことができます。仕上がりは立体感があるため、手書き文字の魅力が伝わりそうです。
今回の製作をお願いした青谷製作所は、定番の丸型から特殊な形状までいろいろなタイプのピンバッジを手がけています。とくに細かいデザインは注意が必要で「線が細いとつぶれますし、線と線が重なったときの見え方が『お客様が表現したいもの』を再現できるのかなど、細かい調節は気をつかいます」(青谷社長)とのこと。また、文字を書くときは綴りの確認も必須だそうです。
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凸模様と、凹模様では与える印象が異なりますし、輪郭をつけるつけないでも表情が変わります。「小さめ」といわれても、12mmなのか、13mmなのかでも出来上がりが異なるので、しっかりすり合わせをしてからスタートします。
一つひとつ手作業で製作
製作に使う機械は「フリクションプレス」。瞬間的に大きな圧力が出せるのが特徴です。作業工程を簡単に説明すると、金属材料を金型の上においてつぶして模様を転写するという工程です。
工場長の島貫寛さんが工程を詳しく説明してくださいました。
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「上下の金型どうしをぶつけて、その反動とタイミングを職人さんがコントロールしながら作業します。瞬間的な大きな加圧力を生かし、立体感のある加工や薄物の加工ができます」(青谷社長)。また、型をきちんとセットできないと、そりが出たりキレイに模様が出ないことがあるため、調整の仕方には経験が必要です。
「台座や材料のセットなど日々の仕事の中の調整は大切です。納期通りに行うために、一つひとつの作業を効率的にやることを心がけています。それによって不良品の発生を抑えられます。職人の経験が必要な部分は残しつつ、自動化できるところは変化していきたいですね。例えば検品の見極めももっと自動化できると誰が検品してもばらつきを少なくできると期待しています」(島貫さん)
プレスをしたものは、不要な部分をカットするトリミング作業を行います。
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同社では金メッキ、七宝仕上げ、金銀コンビ仕上げなどさまざまな仕上げに対応していますが、デジタル技術が進んできたことで、これまでは難しかったグラデーション表現などの印刷も可能になったそうです。
青谷社長によると、海外生産と比べ、メイドインジャパンの製品は、検品の厳しさと細かい業の技術力が違うといいます。
細い線を使ったデザインの場合、線のつながり方や潰れがないかなど、できる限りお客様のデザインを再現するようこだわっていることから検品も厳しめ。傷、汚れ、仕上がりの品質を、厳しい職人の目がチェックします。そこに海外製品との違いがでます。熟練になるほど傷などを見分けるスピードが速いそう。
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海外からの注文もある日本製
フリクションプレスによる金属加工を得意とする青谷製作所は、昭和27年(1952年)の創業。メダル、コイン、アクセサリープレート、社章など金属製品を手がけています。
インターネットのおかげで、今では少量の注文も増えているほか、海外からの注文もあり「日本に住んでいる外国人からの注文も多いです。日本の品質が評価されていますよ」とのこと。これはピントレーディングでも喜ばれそうです。
ちなみに、青谷社長はバイクレーサーとして活躍後、他社で営業などを経て現職についている異色の経歴の持ち主。
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せっかくの機会なので青谷社長に、仕事観について少しお話いただきました。
「一番大変だったのは、自動車関連メーカーの限定品の記念プレートづくりでした。高いクオリティを求められ、毎日のように試作品をつくっては新幹線でメーカーに届けていました。あれは大変でしたね。どの仕事も思い出深いですが、マラソン大会の表彰式でテレビで自分たちがつくったメダルを見たときは嬉しい瞬間でした。社員みんなで 『あれはうちで製作したやつだね』とひそかに喜んでいます」
text by TEAM A
photo by Hiroaki Yoda
【つづきはこちら↓】
【連載最終回】ピンバッジ交換が復活?パリ大会の競技以外の楽しみ方