水泳・背泳ぎの窪田幸太をメダリストに押し上げた2つの悔しさ

水泳・背泳ぎの窪田幸太をメダリストに押し上げた2つの悔しさ
2024.09.02.MON 公開

パリ2024パラリンピックの水泳日本代表がメダルラッシュに沸いている。競技3日の8月31日、パラリンピック2大会連続出場の窪田幸太が100m背泳ぎ(S8)で銀メダルを獲得した。

なりたかったのは「金メダリスト」

「ベストを出してれば勝てたタイム。前半から行くというところではしっかりとレースを作っていけたと思うんですけど、やっぱり入りのタイムが思った以上に遅かった。素直に悔しいです」

パリでは「メダル獲得ではなく、金メダル獲得」が目標だった。それだけにゴール後、思わず壁を叩くようなしぐさを見せて悔しがった。

壁を叩く窪田幸太

それでも、レースから時間が経ち、表彰式では銀メダルを胸に穏やかな笑顔をたたえた。

東京大会後、世界で戦えるスイマーに成長した窪田は、2つの悔しさを“推進力”にして表彰台にたどり着いた。

ひとつは初出場だった東京大会。今回と同じ男子100m背泳ぎで5位だった。当時、東京大会で金メダルを含む5個のメダルを獲得した第一人者の鈴木孝幸が同部屋だった。そのメダルに触れて意識が変わった。パラリンピックは、参加するだけではなく、形あるものを獲りにいく場所。種目を100m背泳ぎに絞り、パリに向けて強化を進めた。

左上肢の機能障がいの窪田はキックが武器

もうひとつターニングポイントになった出来事は、1年前、世界選手権(イギリス・マンチェスター)でインゴ・ジョピス サンス(スペイン)に敗れたことだ。終盤に逆転を許し、まさにタッチの差で金メダルを逃しただけに悔しさも大きかった。

金メダルが狙えるチャンスはなかなか訪れるものではない。パリへの思いを強くした窪田は、武器である前半のスピードに加え、後半の持久力強化に取り組んできた。

自己ベストが出ていれば…

そして迎えたパリパラリンピック。この日は、1分07秒56の全体2位で予選を通過した。

決勝は、スタート直後からトップ争いを繰り広げ、2番手で折り返し、後半勝負に。両手で水をかくインゴ・ジョピス サンスがリードし、片腕の窪田らが追う展開になった。

粘り強くキックを打ち続け、100mを泳ぎ切った窪田のタイムは1分07秒03。順位は2位、自己ベスト(1分05秒56)更新もならなかった。

自己ベストには届かなかった

金メダルを獲得したインゴ・ジョピス サンスのタイムは1分05秒58。1分04秒台を金メダル到達ラインだと想定してトレーニングに励んできた窪田は、自己ベストを出せば金メダルに届いていたことになる。

「自分としては、ベストに近い状態だと思っていた。自信を持ってレースに臨んだつもりだったので、1分07秒というのは自分が(金メダルに)行けるタイムではなかった」と振り返った。

まだまだ伸びる充実の24歳

2022年6月に同じ日本代表の荻原虎太郎の泳ぎをヒントに、バサロを取り入れ、

「バサロも改良を加え、浮き上がり15mのタイムもしっかりと速くなっている」とは鷲尾拓実コーチ談。

窪田本人は終盤に競り合えなかったことを反省するが、「ストローク数も大きく減り 、後半にかけても耐えられるようになった」とコーチは証言した。

今大会の競技初日、東京大会で同部屋だった鈴木が日本勢第一号となる金メダルを獲得した。一夜明け、そのメダルを見に行こうとしたところ「自分で獲れよ」と言われたという。

自分の力で手にしたメダルの感想はーー。

「望んでいた色ではないんですけど、メダルというものを自分の首にかけられて、率直に嬉しいです」

24歳。まだまだ伸びしろがあるという泳ぎを磨き、2028年のロサンゼルスパラリンピックでは、いちばん輝く色のメダルを首からかけるつもりだ。

キック力を活かし、バサロ(潜水泳法)を取り入れ躍進した窪田

text by Asuka Senaga
photo by Hiroyuki Nakamura

水泳・背泳ぎの窪田幸太をメダリストに押し上げた2つの悔しさ

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