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【PLAYBACK PARIS】「私は私」金メダル和田なつきに卓球が与えた、どこまでも行ける自信
日本のパラ卓球界にとってパリ2024パラリンピックは、シンデレラが誕生した記念すべき大会となった。女子シングルス知的障がいのクラスで、初出場の和田なつきが金メダルに輝いた。男女を通じてパラリンピックのシングルスの金メダルは初。快挙を成し遂げた21歳は、決勝戦のマッチポイントが決まった瞬間、しゃがみ込んでよろこびを噛みしめた。
ミスをしない世界ランカーたちに恐怖
「みんなが朝練習をしてくれたり、お母さんがサポートしてくれたり、コーチやいろんな方のサポートがあった。ありがとうという気持ちがあふれた」
うれし涙が止まらなかった。
2022年に大会に出始めたばかりだが、2023年10月に開かれた杭州2022アジアパラ競技大会でいきなり優勝し、パラリンピックの出場権を得た。
「パリではメダルは獲れそう。金は(2028年の)ロサンゼルス(パラリンピック)ぐらいで獲れるかな。そう思っていたけど、パリの練習会場で隣で練習している選手がみんな強いし、全然ミスってくれない。これが世界ランキング1ケタの実力なのかという恐怖心もすごくあった」
しかし、和田には伸び盛りの勢いがあった。試合をするたび、試合のなかでも成長した。
個人戦を勝つために必要だったチームの力
初戦でブラジル選手を3-0で下して迎えた準決勝。5月の対戦でストレート負けを喫していた世界ランキング1位のエブル・アジェル(トルコ)にゲームカウント1ー2から逆転勝利を収めた。
相手の強打や多彩なサーブに苦しみ、第4ゲームも6ー9とリードを許して追い込まれたが、変化球サーブでエースを奪うなど、ピンチをものともしない強気なプレーを連発。5ポイント連取で逆転して最終第5ゲームに持ち込むと、そこでは「ループドライブが相手に効くとなんとなくわかったので、力強いドライブよりもループドライブを使った」とクレバーなプレーも光った。
そして決勝では、東京大会金メダリストの大ベテラン、53歳のエレナ・プロコフェワ(NPA)に、準決勝に続いて逆転勝利を収めた。
第1ゲームはカットマンである相手のボールに対してミスが多く出て奪われたが、「1ゲーム目は相手のカットに慣れようと思っていたので(落としても)大丈夫かなと思っていた」
その見立て通り、第2ゲーム以降は徐々にカットボールにアジャストしていった。加えて、身長173㎝の長いリーチから繰り出す強烈なフォアハンドでも連続ポイントを重ね、ゲームカウント3-1で勝利した。
決勝前、車いす部門の山本恒安ヘッドコーチやライバルの古川佳奈美を指導する井保啓太コーチを相手にカットボールを打つ練習をした。
「古川選手(準決勝でプロコフェワと対戦)には『こうすれば点数が入るよ。相手はこういう展開が得意だよ』と教えてもらって、点数の取り方をイメージできていた」(和田)
東京大会も経験し、今大会、銅メダルを手にした古川によれば、国内合宿ではクラスによって練習がグループ分けされているが、アジアパラ競技大会やパラリンピックでは、練習会場を全クラスが共通で使用でき、対戦相手に似たタイプの選手に協力を仰ぐことができる。個人競技ではあるが、チームが一丸となってつかんだ頂点だ。
本当の意味でトップになるために
中学生のころ、いじめもあって学校に行けない日が続いた。家に引きこもって体重も増え、最初はダイエット目的も兼ねて卓球を始めた。練習場に連れて行ってくれたのは母親だった。
「そのときは連れて行かれるのがストレスでしかなかったけど、今になってはすごくありがたいです。今は外に出る自信もあるし、自分にすごく自信が持てるようになった。私は私という考えを持てるようになったのは卓球のおかげかな」
パリで掴んだ初の金メダル。周囲も自分も、気持ちはすでに4年後を向いている。
「世界選手権とパラリンピックの両方を取っている選手もいるし、まだ私はトップになれたわけでもない。世界ランキング(1位)を1年くらいキープできたら本当の1番なのかなと思うので、挑戦者の気持ちで上を目指したい。まだまだ磨ける」
笑顔も魅力のエースは目を輝かせながらそう言った。
text by TEAM A
photo by Hiroyuki Nakamura