【PLAYBACK PARIS】馬術・稲葉と吉越がヴェルサイユに残した悔しさと、持ち帰った“財産”

【PLAYBACK PARIS】馬術・稲葉と吉越がヴェルサイユに残した悔しさと、持ち帰った“財産”
2024.09.25.WED 公開

ヴェルサイユ宮殿の壮大な庭園のすぐ近くに設けられた仮設アリーナ。壮麗な宮殿をバックに日本代表人馬が舞った。

パリ2024パラリンピックの馬術は9月3日、個人規定が行われた。グレードⅡに出場した稲葉将は61.759で8位、吉越奏詞は61.724で9位。
ともに高いスコアを残すことができなかったが、稲葉は上位8人が進出できる個人フリースタイルに出場する権利を獲得した。7日に行われた同種目で稲葉は8位(66.254)だった。

壮大な庭園に隣接したアリーナ。宮殿を望む最高の舞台で演技をした

オリンピックの快挙に刺激

ヴェルサイユ宮殿は、先に行われたオリンピックで総合馬術団体と近代五種の会場だった。両競技共に日本代表は歴史的快挙となるメダル獲得で話題になり、稲葉は「いい流れがきている」と感じていたという。

オリンピックをテレビで観た吉越も、同じだ。

「総合馬術を見て『ここで演技するんだ』という気持ちになって、近代五種のメダルを見て『ここで(メダルを)』と思い、すごく頑張ろうという気持ちになりました」

ヒュゼットビーエイチ号とコンビを組んだ稲葉

気持ちが高まっていただけに、本番で思うようなスコアを出せなかった2人は悔しさを隠せなかった。稲葉はため息交じりに語った。

「僕らがどこまで届くかはわからなかったですけど、やっぱり次につなげるためにここに来ていたはずだったので……。演技で表現することができなかった」

世界を転戦してつかんだ自力出場

東京大会後、日本障がい者乗馬協会の強化における方針も後押しし、選手たちは“海外志向”になった。

大会出場のためだけにヨーロッパに渡航するのではなく、現地で合宿をする時間を増やした稲葉は、馬術が盛んなヨーロッパとのレベルの差を痛感したという。
「日本選手がヨーロッパに行って、ヨーロッパで代表になろうと思ったら誰1人なれない。それだけ選手層が違うし、その中でやっている時間が長い選手との差はなかなか埋まらない」

緊張した面持ちの稲葉

世界における日本選手の位置を受け止めたうえで、「工夫をすればなんとかなる」と歯を食いしばって転戦を続けた。

そんななか、自分たちで出場枠を得たパリ大会は、稲葉にとって特別な舞台だった。

「ヴェルサイユで演技ができるというのは、今まで頑張ってきたからこそ。もちろん、みんな頑張っていますけど、そのなかで選ばれたからこそ、この雰囲気を体感できた」

稲葉はそう話しながら、少しだけ微笑んだ。

先に演技を終えた稲葉は、吉越に「日本選手もできるぞ、というところを見せてほしい」とエールを送った

一生モノとなったヴェルサイユ宮殿での経験

「コロナが明けてからガンガン海外に行くようになった」という吉越は、昨秋のインタビューで「6月のオランダの大会で、トップレベルのジャッジに高得点をつけてもらった。それが自信になり、強いメンタルで試合に臨めるようになった」と話していた。

パリ大会の前年に自分自身の成長を感じられたことは大きな収穫だったようで、本番でも「東京大会と比べて緊張することなく演技ができた」という。

2度目のパラリンピック出場だった吉越

吉越は、愛馬と挑戦してきた日々に胸を張った。

「練習馬場ではすごくいい形が作れたんですけど、本馬場に入ってから馬のテンションと合わないときがあって全体的に点数が低くなってしまった。その結果、全体的に点数は低くなってしまったけれど、ジャビーロと(パラリンピックに出場)できてよかった。(演技が終わったときは)すごく嬉しかったし、ほっとしました」

「一生に一度もないことかもしれない」と吉越が話した、ヴェルサイユ宮殿での経験は、一生の財産になるはずだ。

次回は4年後のロサンゼルスパラリンピック。
「気持ちとしては、行きたいです」

24歳の吉越は、資金面でサポートを得られる限り、パラリンピックに挑戦し続けたいという。
パラリンピック唯一の採点競技である馬術。人馬一体の演技を楽しめるこの競技で、日本代表人馬が躍動する姿をパラリンピックでまた見たい。

演技を終え、ジャビーロ号に愛撫で「ありがとう」を伝えた吉越

text by Asuka Senaga
photo by Hiroyuki Nakamura

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