ロサンゼルス2028オリンピックの追加競技「フラッグフットボール」既に学校授業に導入。その教育的価値とは
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フラッグフットボールというスポーツをご存じだろうか。2028年のロサンゼルスオリンピックの競技に正式採用され、現在注目度が高まっているスポーツなのだが、実は教育的価値も高いことから2020年より新学習指導要領の本編に掲載され、すでに全国の小学校の3分の1にあたる6,700校で授業が実践されているという。そこで今回は、日本フラッグフットボール協会に、その競技の魅力とともに教育的観点について話を伺った。
誰もが安全に楽しめる身近なアメフト
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「フラッグフットボールはアメリカンフットボール(アメフト)にルーツを持つスポーツで、そこからケガのリスクの高いボディコンタクトを取り除き、タックルの代わりに腰に付けたフラッグを取るとプレーが止まり、攻守交代というルールを加えたものになります。
アメフトと同じく戦略を立て、一人一人が役割を持ち、相手がどう攻めてくるかを読みながらこちらも作戦を立て、ワンプレーでどこまで進めるかを繰り返していくのですが、そこに教育的価値があると認められ、現在は多くの公立小中学校の授業に取り入れていただいております」
こう話すのは日本フラッグフットボール協会の代表理事を務める松元剛さん。
フラッグフットボールは5人対5人で攻守を分け、アメフトの半分程のコートで行う正規競技ルールがあるのだが、実際は空き地に適当に線を引いてタッチダウン(得点)・ゾーンを定め、あとはバンダナやハンカチさえあればできる身近な球技。アメフトごっこやしっぽ取り鬼ごっこのような類似の遊びも含め、本国アメリカではポピュラーなアクティビティとしての地位が確立されているという。
ではなぜそのようなスポーツが、日本の学校教育の場に導入されたのだろうか。そこには現代教育にふさわしいフラッグフットボールならではの特性があった。
PDCA(Plan Do Check Action)を繰り返すスポーツ
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まず、そもそものアメフトの特徴についておさらいすると、アメフトはプレイ毎に、ハドル(作戦会議の時間)を組み、選手間で情報共有することができる。しかも一つのプレイは大体10秒以内で止まるため、何が良くて何がダメだったのかを考え、再度作戦を立てるということを何度も繰り返す。
これはビジネスでも活用されるPDCA(Plan Do Check Action)の考え方と同じと言えるだろう。アメフトといえば肉弾戦のイメージを持つ方が多いかもしれないが、実はそうではなく、時間と空間をどう使って攻めるかを常に考えるため戦術的要素が非常に高い。そのためアメリカの経営者が最も好むスポーツとも言われているのだ。フラッグフットボールは、そんなアメフトを誰もが安全に楽しめるスポーツへ昇華させた競技と言えるだろう。
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学校体育における指導の課題を解決
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ではなぜ、フラッグフットボールが学校の授業に取り入れられるようになったのだろうか。そこには学校教育として指導するスポーツへの課題があった。
まず、学校体育においての球技スポーツは「ゴール型とネット型とベースボール型を教える」とされている。ゴール型はサッカーやバスケットボール、ネット型はバレーボール・卓球・バトミントン、ベースボール型は野球とソフトボールといった競技だ。だが、こういった競技の授業となると、どうしてもスキルを教えるという内容・展開になりやすい。教育的な観点でどう教えればいいのか? どのような教材的工夫が必要なのか? と言ったことが、大きな課題となっているのだ。
スポーツ少年団など個々のスポーツが好きな子が集まる場なら問題ないかもしれないが、学校では球技に全く触れてこなかった生徒もいる。多様な生徒が集まる授業では、積極的にボールを追いかける子も入れば、ボールに極力触れないように振る舞う子が出てきたりと、偏りが生まれやすい。
そんな教育現場の課題にぴたりとハマったのがフラッグフットボールの持つ競技特性だった。
同じゴール型スポーツと呼ばれるサッカーもバスケも、ボールを持てる人は1人しかいない。他の人はボールを持ってない(オフ・ザ・ボールの)動きをする必要があるのだが、前述のように学校の授業環境では限界がある。それでもフラッグフットボールならオフ・ザ・ボールの動きにも徹底的にフォーカスを当てられるのだ。
例えばあの子はボールの扱いは苦手だけど相手を止めることならできる。この子は運動は好きではないけれど作戦を立てることは上手い。そんな色とりどりの個性に合わせた役割を全員に与え、誰もがスポーツの中で勝利に貢献でき、達成感を味わう経験をさせる。そういった要素から教材としての価値が認められていったのもうなずける。
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本来はサッカーも同じようなことをしているのだが、時間で動くスポーツでプレーに区切りが付けにくく、どこからがスタートで、どこまでが終わりかはやっている人にしかわからないことが多い。するとどう動けば良いのわからない子どもが出てきてしまう。しかしフラッグフットボールは、サッカーでいうセットプレーを繰り返して勝敗が決するので、やるべきこと・目標が定めやすく明確になるのだ。そのため授業では、競技そのものというよりゴール型をみんなで学ぼうというのがフラッグフットボールのスタンスになる。
ちなみにフラッグフットボールは、2001年から5年間かけて全国の小学校から研究指定校を設置。エビデンスを収集するプロセスから始め、それらをまとめた資料を学術的な論文等で発表してきた。そして、2010年に学習指導要領の資料編に掲載され、2020年より新学習指導要領の本編へと格上げされた。
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学校教員からは「今の時代に求められる教材」との声
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では実際に導入した学校の教員からはどのような声が上がっているのだろうか。
「フラッグフットボールは、クラス学年づくり等に大きく役に立っています。体育科だけでなく、教育的な意義を強く感じています。学習指導要領の指導内容では選択制だったと思いますが、私自身は必須の単元にしても良いと思うほどなので、フラッグフットボールの教育的価値をもっと知ってほしいですね」
「今年度の夏の研修でフラッグフットボールを実践しました。運動が苦手な子でも取り組みやすいなと感じましたし、コミュニケーションをとって役割分担をしたりするなど今の時代に求められる運動ができると思っています。研修で学んだことを、他の教員にも伝達していき、子どもたちと取り組んでいきたいと思います」
「小学校低学年から高学年までの児童が一緒に活動しても、簡単な作戦選択から、それぞれが役割を持って一生懸命走り抜けることができました。しっぽとり鬼からボール運び鬼へステップアップしながら動きの難易度を上げていくので、様々な児童が活躍できる競技だと思いました」
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このように教員からポジティブなコメントが寄せられているのも、教育指導的観点で、成長に応じてルールを柔軟に変更できることが大きいだろう。
例えば小学生ならしっぽ取り鬼ごっこから始め、成長の過程でゲームができるようになってきたら、あえてオフェンスの人数を増やして有利にし、成功体験を得やすくするといった工夫も容易だ。要は、フラッグフットボールの教材価値を授業の中で活かせればいいので、必ずしも正規ルールの5対5でやる必要はない。教室の雰囲気や子どもたちの様子に合わせて4対2でも5対3でも、現場に合わせてやり方を変えることができる。まさに多様性が重視される今の時代にぴったりの体育教材と言えるのではないだろうか。
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「体育の指導においてもロジックがあり、そこに先生の工夫がプラスされることってすごく大事だと思います。個性が異なる人間が一つの作戦を立て、各々の得意なジャンルで役割分担することで団結し勝利する。現代の価値観に合っていて、フラッグフットボールが社会に貢献しているという感触はありました。“普及”というと通常はやる人を増やすということになりますが、我々の活動はそうではなく子どもたちの教育に貢献すること。そのツールとしてフラッグフットボールっていいよねということです。教材として学校に普及させることは、決してプレイヤーを増やすためではありません。フラッグフットボールがここまで広がった大きな理由の一つはそこにあると思います」(松元さん)
そして2028年のロサンゼルスオリンピックの正式種目に採用されたことから、近頃ではやってみたいという問い合わせも増えているという。競技としてはもちろん、教材として教育的価値も高いフラッグフットボールは、これからますます注目のスポーツとなりそうだ。
text by Yoshio Yoshida
photo by Yoshio Yoshida
資料提供:日本フラッグフットボール協会