デフリンピックで頂点目指すバレーボール代表候補も。大学スポーツ界で活躍する選手たち

パラリンピックやデフリンピックを目指す大学生アスリートの中には、大学で運動部などに所属して、学業と両立しながら競技活動に励んでいる選手がいる。「UNIVAS AWARDS 2024-25」で表彰された現役の大学生・大学院生パラアスリートにフォーカスした。
パラ・デフアスリートたちを表彰
大学スポーツの振興を目的に2019年に発足した一般社団法人大学スポーツ協会、通称UNIVAS。「学生スポーツを楽しむ学生を支える」「観戦する人を増やす」「支援の輪を広げる」という活動指針のもと、大学スポーツの環境整備に取り組むとともに、大学スポーツの価値向上に向けて活動。理念を体現し、大学スポーツの振興に貢献した学生やOB・OG、指導者、団体を部門ごとに選出し、「UNIVAS AWARDS」として表彰している。

photo by UNIVAS AWARDS
3月3日に行われた「UNIVAS AWARDS 2024-25」では、個人を表彰する「マン・オブ・ザ・イヤー」「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」と並び、パラアスリート学生を対象とした「パラアスリート・オブ・ザ・イヤー」も設けられ、競技とともに学業や社会貢献活動にも取り組む優秀なパラアスリート学生が表彰された。
パリ2024パラリンピック日本代表では、水泳の南井瑛翔(近畿大学・水上競技部)と荻原虎太郎(順天堂大学・水泳部競泳部門)が入賞。また、7人が優秀賞を受賞した。
さらに優秀賞の中から1人が最優秀賞/文部科学大臣賞に選出。過去には、東京大会出場のボッチャ・江崎駿(法政大学・Brex/2020-21)、東京・パリ大会出場の陸上競技・兎澤朋美(日本体育大学/2020-21)、パリ大会男子ゴールボール金メダリスト佐野優人(順天堂大学・障がい者スポーツ同好会/2021-22)らが選ばれている。

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今回、同賞が贈られたのは、水泳の近藤薫(岐阜協立大学・水泳部)。スポーツ医学と技術分析を活用して日本記録を樹立。また、岐阜県初の車いす教師を目指して教員免許取得に取り組むとともに、共生社会実現に向けて講演活動や地域連携活動を行っていることなどが評価された。
近藤は壇上に上がり、元ハンドボール日本代表の土井レミイ杏利から賞状とゴールドメダルが授与されると、受賞の喜びを語った。
「たくさんの人に支えてもらい、いろんな挑戦ができた。これからももっと私にしかできない挑戦を続けていこうと思う」
なお、パリ大会の陸上競技・男子400m(T13)で銀メダルを獲得した福永凌太(日本体育大学大学院)には、パリオリンピックの大学生メダリストらとともに特別賞が贈られた。
大学でレギュラーとして活躍した双子のデフバレーボール選手
今年11月に行われる東京2025デフリンピックに出場予定のデフアスリートも「パラアスリート・オブ・ザ・イヤー」優秀賞受賞者として、壇上に上がった。なかでも活躍が期待されるのが、梅本綾也華と沙也華、双子の姉妹だ。
2人は全日本インカレにも出場する強豪・京都産業大学体育会女子バレーボール部に所属し、レギュラーとしてプレー。また、デフバレーボールの女子日本代表として「デフバレーボール世界選手権2024」に出場。姉の綾也華はキャプテンとして、妹の沙也華はエースとしてチームをけん引し、金メダル獲得の原動力となったことなどが評価された。
今回の受賞を2人はそろって喜ぶ。
「聴者(健常者)がいっぱいいる中でパラアスリートとして受賞できたことは大変名誉なこと。まわりの支えがあってこそのことなので、皆さんにありがたいという気持ちがある」(沙也華)
「障がい者でも受賞ができるということは非常に誇りに思う。これからの自信にもつながるし将来に積極的に活かしていきたい。(今回の受賞を)大学のメンバーとスタッフ、そして家族に伝えたい」(綾也華)

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高校から一般のバレーボール部に所属し、プレーしてきた綾也華と沙也華。健常者とのコミュニケーションも積極的に図ってきた。
「聞こえるメンバーは手話や指文字がわからない状態だったので、(私たち)2人から『指文字と簡単な手話を覚えてほしい』と気持ちを伝えて、指文字や手話を覚えてもらった。話を聞いてわからないことは『わからないから教えて』と私が伝えると、手話や指文字で教えてくれるようになった」(沙也華)
「私たちは声が出せないということを皆さんが理解してくれて、手話や指文字を覚えてくれた。メンバーへの感謝の気持ちが大きい」(綾也華)
デフバレーボール日本代表チームでもコミュニケーションを大切にしていると、キャプテンを務める綾也華は語る。
「選手は耳が聞こえないので、アイコンタクトを大事にしている。コミュニケーションを積極的にとって、耳が聞こえなくてもボールに対してあきらめずに追いかけていくことにこだわってやっている。それが強みかなと思う」
綾也華は、大役を任されているという責任を感じながらキャプテンを務めているようだ。
「選手一人ひとりが同じ方向を向くように自分からいろいろなところへ意識を向けて、(皆が)ついてきてくれるように行動している」
そんな綾也華のキャプテンシーに沙也華も一目を置いている。
「チームがバタバタしていたときでも綾也華は慎重、冷静にみんなを見ながら引っ張っていくところがある。すばらしい。そこは尊敬している」
デフリンピックでも頂点に
2人はポジションも得意なプレーも異なる。綾也華がデフリンピックで観客に見せたいのは、“攻める”レシーブだ。
「自分の守備範囲を広げて、積極的にレシーブにいくところが一番の強みなので、みんなに見てもらいたい」(綾也華)

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一方、沙也華はアタッカーだ。
「自分のポジションはボールがよく集まるところ。自分は負けず嫌いなので、どんなボールが飛んできても全力で強く決め切るところが強み。決めてほしいところを決め切るようにしたいので、それを見てほしい」
姉妹だからこその阿吽の呼吸はあるのか。
「自然な意識、共通意識がある。そこらへんは双子だからかもしれません。スムーズなことはたしか」(沙也華)
表彰式のときは、大学4年生だった2人も4月から新社会人。同じ会社に就職するのだという。
「会社にはバレーのチームはないので、仕事が終わった後、自分でトレーニングをし、週末に練習場所に行って練習する形になる」(沙也華)
「(日本代表チームは)月に約1回だけしか集まれないが、コミュニケーションを大事にしたい」(綾也華)
限られた時間のなかでも、さらにチーム力を上げてデフリンピックに挑む構えだ。
「去年6月に沖縄で開催された世界選手権では優勝して、金メダルをとった。それで満足するのではなく、東京のデフリンピックでも世界一を目指す。そして、選手権とデフリンピックを連覇したい」(綾也華)
「ぜひ応援お願いします!」(綾也華・沙也華)
私生活では2人暮らし。一方が料理をすればもう一方が洗濯というようにルールを決めて家事を分担し、けんかもほとんどしなかったという。今度は新社会人として、新生活と競技を両立する生活が始まる。息の合ったコンビネーションでお互いに支え合いながら、頂点を目指す。
text by TEAM A
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