ロサンゼルスの新競技!パラクライミングに挑戦する他競技のパラリンピアン

ロサンゼルスの新競技!パラクライミングに挑戦する他競技のパラリンピアン
2025.03.19.WED 公開

2028年ロサンゼルス大会からパラリンピック競技に加わるパラクライミングが日本国内でも盛り上がりを見せている。2025年度の日本代表選考を兼ねた、2024年度パラクライミングジャパンシリーズ第2戦兼日本選手権が3月15日、神奈川県立山岳スポーツセンターで行われ、世界で活躍するパラクライマーのほか、他競技で活躍するパラリンピアンも姿を見せた。

男子RP3の高野正

国際大会に派遣される日本代表が決定

視覚障がい、上肢機能障がい、下肢機能障がい、関節可動域および筋力の機能障がいの各クラス、ファンクラスでそれぞれのチャンピオンを争った。

悪天候により、16日に予定されていた決勝ラウンドが中止になり、競技は予選(2ルート)が実施されることになった。15日の予選も2本目の途中で競技打ち切りとなったが、翌日に日本代表が発表され、世界大会の実績などをもとに32人が名を連ねた。

男子B1の會田祥
女子AL2の渡邉雅子
女子RP2倉田麻比子

パワーリフティングの西崎は堂々の2位

そのうちのひとりが、男子AL1の西崎哲男。リオ2016パラリンピックに出場したパワーリフティングの選手で、男子49Kg級日本記録保持者だ。3月1日の第25回全日本パラ・パワーリフティング国際招待選手権大会で自己ベストを更新し、10月に行われる世界選手権(エジプト)の出場も濃厚。そんな西崎は、クライミング歴1年未満ながら、ロサンゼルスのパラリンピック出場が期待される選手のひとりだ。

昨年8月にクライミングを始めて大会は2回目。今大会は惜しくも完登できず、悔しそうな表情を見せた。

「難しいけど、楽しいですね。始めて日が浅いので、登ってみてホールドの種類などを触って知っていっている過程。まだ自分でどこに進むか考えたり、途中で休んだりする余裕はないんですが、前回大会(3位)から順位を1つ上げることができて、両競技の相乗効果を感じます。今のところ、パワーリフティングの大会後にパラクライミングの大会という流れも問題はなさそうです。逆の順番になるとどうかわかりませんが……」

西崎は、体幹を使って身体を振るようにしてリズミカルに登っていく

2週間前、パワーリフティングで3年ぶりとなる自己ベストを挙上したとき、クライミングを始めたことが記録更新の大きな要因になったと語っていた西崎。試技の際に、仰向けになり背中を反らせてフォームを作るが、クライミングで体幹を使うようになったことで背中周りの筋肉に意識が向かうようになったという。それにより、バーを握った後のフォームも安定し、記録につながる好循環が生まれた。

もともと東京2020パラリンピック出場を目指して陸上競技からパワーリフティングに転向した西崎だったが、リオは出場したものの、記録はなし。東京、パリは出場切符獲得には至らなかった。それでも応援してくれる所属企業や家族が競技を続ける原動力だと言い、パラリンピック出場は“恩返し”だと語る。ロサンゼルス大会でパラクライミングが新競技になるニュースを見て、パワーリフティングに活きるだろうと新たな挑戦を開始。歯車がうまく回り出している。

9月にパラクライミングの世界選手権、10月にパワーリフティングの世界選手権。両方に出場すれば、開拓者として注目を集めることになる。

「(レベルが上がっていけば)両方は無理だろうとは思う。でも可能性があるなら……」

そう控えめに語りつつ、充実感をのぞかせた。

競技前も笑顔の西崎

ノルディックスキー&トライアスロンの佐藤は初挑戦

ファンクラスでパラクライミングデビューした佐藤圭一は、夏冬両方のパラリンピックに出場しているマルチアスリートだ。バンクーバー2010パラリンピックから4大会連続出場中のノルディックスキーでミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会を目指す佐藤は、トライアスロンが正式競技になったリオ2016パラリンピックにも出場しており、次なる挑戦としてパラクライミングでの代表入りも視野に入れている。

左手首から先がない佐藤は、左に移動しにくい1本目で苦戦したが、2本目は1本目を上回る高度を記録した。

ファンクラスで初めて大会に出場した佐藤

「初見の課題に挑戦するのがこの競技の魅力。体力ありきで登るわけではなく、足を乗せる位置はどうするか、どちらで手を掴むのか考えて課題をクリアしていく。下見でイメージした動きと実際は少し違ったりするので、全身を駆使して登る面白さを感じましたね」

そんな佐藤も、他競技への好影響を期待してパラクライミングを始めたという。2020年8月に左肩を骨折した影響で可動域が狭まったと感じたため、左腕の効率的なトレーニングはないか模索していたところ、トレーニングジムでクライミングを勧められた。

「最初は片手の選手は片手で登らなくてはいけないと思っていたけれど、(欠損している)左腕も使っていいのだとわかり、普段あまり使うことのない左手の筋力トレーニングにもなるし、挑戦し甲斐があるなと思いました。他の競技をやっているので、ベースとなる体力はあるかもしれないけど、指先を使う技術は全然まだまだ。足も関節を柔らかく使うなど課題がたくさんあるので、トレーニングして、またこの大会に戻ってきたいと思います」

パラリンピアンたちの挑戦は、マルチアスリートの可能性を感じさせた

夏冬パラリンピアン有安も出場

新しい挑戦をスタートさせた佐藤とは、ノルディックスキーの日本代表仲間である有安諒平もファンクラスに出場した。

視覚障がいのある有安は、ローイングで東京パラリンピックに出場。その約半年後に、クロスカントリースキーで北京2022冬季パラリンピックに出場した。今シーズンも、ミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会に向けて海外を転戦していたが、ワールドカップ遠征中に佐藤から今大会について聞き、参加を決めたという。

ファンクラスに出場した有安諒平

日本パラクライミング協会の代表であり、パラクライミングのレジェンドである小林幸一郎代表理事とは旧知の仲であり、中学生時代に何度か小林氏のクライミングスクールに参加したことがあるという。

「とても久しぶりにパラクライミングをしましたが、やっぱり楽しい! 今後はトレーニングに取り入れようかなと考えています。色々な人がパラクライミングを楽しんでいる大会に自分も参加できて感慨深いし、パラスポーツとして楽しむ1人のパラスポーツ選手として大会を盛り上げ、認知度を広めたい」と話した。

男子B2の濱ノ上文哉

今大会には7人が初出場。メディアも前年より多かった。トップクライマーのひとりで、今大会の男子B2クラスで優勝した濱ノ上文哉は、「選手としてすごく変化を感じています。引き続き、注目される選手でいられるように活躍して、パラアスリートが職業として憧れられる存在になっていけばいいなと思います。もっともっと認知度が高まるようぜひ注目してください」と力を込めた。

text by Asuka Senaga
photo by X-1

ロサンゼルスの新競技!パラクライミングに挑戦する他競技のパラリンピアン

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