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カヌー
ロサンゼルスへスタート! パラカヌー日本代表選手選考会で優勝したエースとニューカマー

3月24日から29日まで府中湖カヌー競技場(香川県坂出市)で行われた「2025カヌースプリント日本代表選手選考会 2025パラカヌー日本代表選手選考会 兼第35回府中湖カヌーレガッタ」。最終日の29日、2025年度のパラカヌー日本代表選手選考会を兼ねた200mスプリントレースが行われた。
国際大会に出場する日本代表選手を選考する今大会には、21人の選手が出場。カヤックとヴァーともに一発決勝で争われた。
エースの瀬立、ロサンゼルスに向けて再スタート
最初に登場した注目選手は、国内でライバル不在の瀬立モニカだ。パリ2024パラリンピックでは歴代日本代表最高の6位。自身としても3度目のパラリンピックでようやく納得のパフォーマンスを発揮することができたという。現在27歳。高みを目指す意欲は消えることがなく、2028年のロサンゼルス大会に向けて再びスタートを切った。

2月にオーストラリアで行われた「グランプリ2」出場を経て、挑んだ今回の選考会。しかし、カヤック(女子KL1)では、序盤からスピードに乗れず、レース後は首をかしげながら調整ミスを嘆いた。
「(練習の疲労が抜けず)体が重かった」
タイムは1分01秒237。目標から4秒程度遅れてフィニッシュ。日本代表「A」の基準となる「前回世界選手権8位入賞タイム」に届かず、代表の種別は「B」に甘んじた。

それでも、1時間20分後に行われたヴァー(女子VL2)では、力強く漕ぎ切り、フィニッシュ後に笑顔。ヴァーでも海外派遣選手に選出された。
「今年は失敗を恐れずに変化を持たせる1年にしたい、ということもあり、そのひとつとして、ヴァーにも挑戦している。私は右のストロークが苦手なんですけど、右のストロークの精度を高めるためにやろうかなと思いつきました」

競技歴も10年になり、「いよいよ、これからという段階ですよ」と西明美コーチも期待を寄せる。
ベテランの域に入った瀬立。
「今年は8月の世界選手権(イタリア)でパリ以上の成績を出すことが目標。ロサンゼルスに向けては、1年1年を積み重ねるイメージで、しっかり結果を出していきたい」と語った。
なお、パリパラリンピックに出場した髙木裕太と宮嶋志帆もそれぞれカヤックとヴァーで優勝した。


ホームの利を活かして初優勝! 初代表を手にした林
パラリンピアンが新たな目標に向かって漕ぎ出した一方で、初めて日本代表の権利を掴んだ選手もいる。男子KL3の林侑平。東京2020パラリンピック日本代表の今井航一(香川県パラカヌー協会会長)とともに練習を積み、めきめきと力をつけている38歳だ。
約5年前に交通事故で片足のひざ下から切断。未来のオリンピック・パラリンピックを目指すタレント発掘事業「J-STARプロジェクト」でパラスポーツに出会い、2022年にカヌーを始めた。普段はレースが行われた府中湖で練習しており、カヤックが専門。この大会で2大会連続3位だった林だが、今年は違った。
「最近になってリズムを掴んだ感覚があった。今回は、自信がありました」

レースは、中盤で首位になると、隣のレーンのベテラン小山真が迫るなか、最後は逃げ切った。
優勝に笑顔を見せた林。タイムは54秒580で、大会後、正式に日本代表に決定した。

世界でも、男子KL3クラスは強豪がひしめく。
「レベルは高いけれどあきらめたくない。動画で見ると、体格も技術も自分は劣っているし、実力的にまだまだだと思うが、まずは世界のレベルを肌で感じたいです」
学生時代は、サッカーの強豪校でひたすらボールを追いかけて過ごした。そんな林は今、爽快感のある水上の短距離レースにハマっている。
「水上で艇に乗り、パドルを漕ぐ。カヌーは体一つで競技を行うのではなく、たくさんの道具を使うから、コツが必要になってくる。そのコツを試行錯誤しながら探すと、毎回新しいことを発見することができる。そこに楽しさを感じています」

先の瀬立は体幹が効かないため、専用のバケットシートに胴体を固定させてフォームが崩れないように工夫しているが、片足切断の林は断端に装着するソケットを艇に固定してパドルを漕ぐ。
これまで世界の情報を人伝に聞いて用具の改良に取り組んでいたという林は、世界でさまざまな刺激を受けた後、自分に合った用具作りを追い求めていくことになることだろう。自ら感じているという、道具を使うスポーツの可能性を広げることができるか。
2025年度の海外レースが楽しみだ。
カヌーは、愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会で実施されない。そのため、日本代表選手が目指す、次の大きな舞台がロサンゼルスで開催されるパラリンピックになる。
2028年に日本代表になるのは誰か。そして、ベテラン、新鋭はパラリンピックの舞台で輝けるのか。その過程とともに見守りたい。
text by Asuka Senaga
photo by X-1