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車いすフェンシング
車いすフェンシングワールドカップ京都大会、櫻井杏理が日本勢唯一の銅メダル
12月13日から16日の4日間、グランドプリンスホテル京都のプリンスホールで開催された「IWAS 車いすフェンシングワールドカップ 京都大会」。車いすフェンシングでは、2018年11月から2020年の指定大会までのワールドカップの成績をもとにしたポイントの積み重ねが、東京2020パラリンピックの出場選考基準となるランキングを形成するとあって、世界の強豪フェンサーたちが一堂に会した。
12人が出場した日本勢は、ヨーロッパ勢を前に苦戦を強いられたものの、エース櫻井杏理がひとり気を吐き、フルーレ(女子B)で日本人唯一のメダルとなる銅メダルを獲得した。
国際大会で結果を残した櫻井杏理
胴体への「突き」だけが得点になるフルーレ種目。加納慎太郎(男子A/自力で体勢を維持できる選手のクラス)が21位に終わり、藤田道宣(男子B/自力で体勢を維持できない選手のクラス)もベスト16で VALET Maxime(フランス)に敗れたが、10月のインドネシア2018アジアパラ競技大会の後、ロンドンで武者修行をして本大会に臨んだ櫻井は、予選を負けなしの3位で通過し、決勝トーナメントに進出。メダルのかかるGEDDES Ellen(アメリカ)との戦いでは序盤に奪われたリードをものともせず、競り合いを制し、15-13で勝利した。
初の日本開催。だが、いつもなら余裕をもって勝てる相手に、櫻井は苦しんだ。
しかし、「注目度も高く、多くの人に世界レベルを見てもらえてうれしい反面、海外の試合とは違う緊張感があった。でも、東京パラリンピックを考えるといい機会になったかな」とプラスにとらえた。
続く準決勝は、リオパラリンピックのフルーレ(女子B)金メダリスト、ベアトリーチェ・ヴィオ(イタリア)と激突した。今大会でただひとりの四肢切断の選手で、スピードが持ち味。フェンシングの強豪・イタリアの人気選手で、日本でもテレビCMに出演しているとあり、ふたりが登場すると会場の視線はたちまち試合の行われるセンターコートに向けられた。
世界ランキング1位の女王に、日本のエースはどれだけ食らいつけるのか。実際に、櫻井も勝利を狙うというよりは、「今の自分では実力は及ばないが、どれだけ点が取れるのか」に主眼を置いて戦った。
相手の素早いアタックに対し、スピードで対抗してもかなわない。櫻井は大会前、ヴィオと同じ左利きのポーランド人コーチと、ヴィオのアタックへのディフェンスとその後の展開を組み立てる練習を重点的に重ねてきた。
「彼女は腕がない分、やり取りが長くなると、体を支えるのが大変になってくるので、やり取りを長くしたところでアタックするという作戦を立てました」
序盤はヴィオが優勢に得点を重ねるものの、徐々に作戦が功を奏してきて櫻井が点差を詰めていく。だが終盤、電光掲示板の故障で試合が一時中断。試合再開後の重要な場面で戦い方を切り替えた試合巧者の相手に対して、櫻井は「接戦で戦えていたことに自分自身、少しびっくりしていたのかもしれない。だからこそ、剣の位置取りに迷いが出てしまった」と言い、そのまま12-15で敗れた。
「なかなか得点が入らず、ポイントを突く精度という課題も見えた」と冷静に振り返りつつ、「勝たなければ意味がない。接戦できたからこそ負けは悔しい……」と唇を噛んだ。
とはいえ、リオパラリンピック金メダリストに「これから注意すべき選手」と意識をさせるには充分だった。
そんな櫻井は、翌日のエペもメダルを狙ったものの、ベスト8で強豪BOYKOVA Viktoria(ロシア)に敗れて敗退。
「今回ぶち当たったように、ベスト8の壁が課題。世界のトップはまだまだ自分より上。ロシアなど世界の選手は自分と比べ物にならないほど練習をしている。とにかく経験値の差を埋めなくてはならない」
勝つためには世界に出ていくしかない、と言葉を続ける櫻井。所属会社のバックアップを受け、大会後すぐに武者修行先のロンドンに戻っていった。
ベアトリーチェ・ヴィオがまさかの2位に
フルーレで櫻井に勝利したベアトリーチェ・ヴィオによる決勝も、また注目を集めたが、ヴィオは死闘の末、予選4位のVASILEVA Ludmila(ロシア)に敗れた。
王手をかけながらも、終盤で追いつかれての敗退。会場は騒然としたが、マスクを取った表情は笑顔だった。
「自分で試合の中で試したいことがいくつかあって、それを試し続けた結果の負け。自分の従来のやり方でやれば勝てたとは思うけど……。これからのためにも、試すということをずっとやりたかった。それに固執してしまって負けたから、負けたことはあまり幸せなことではないけれど、しょうがないなと思うところもありました」
チャレンジをするのは、さらなる高みを目指しているから。東京パラリンピックでは、個人の金メダルだけでなく、団体の金メダル獲得を狙う。
「2020年の東京パラリンピックでは、もっと自分のやりたいことをできるはずだし、それを皆さんに見せられるはずです」
女王の目は自信に満ち溢れていた。
京都大会をステップに
上半身すべての「突き」が得点になるエペ種目は、身長180㎝で、長いリーチを生かしたスウェー(体重移動)からの素早いアタックを磨いている、育成選手・中川清治(男子A)がベスト64。
上半身への「突き」と「斬る」が得点になるサーブル種目では、車いすフェンシングを始めて4シーズン目の恩田竜二(男子B)が10位。同種目に力を入れている安直樹(男子A)は、28位に落ち込み「いまは気持ちに迷いがある」と苦しい胸の内を明かした。
27の国と地域から178人のフェンサーが集い、東京パラリンピックに向ける熾烈な戦いを見せた今大会。選手たちの厳しい戦いは始まったばかりだが、日本で初めての国際大会を開催したことは、本番に向ける運営やボランティア育成の面でも、大きなステップになったはずだ。
日本車いすフェンシング協会の小松眞一理事長は「まずは開催できてよかった。これをきっかけに、さらに多くの人に関心をもってもらいたい」と切実な思いを語っていた。
text by Asuka Senaga
photo by X-1