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大学生ら若い力が躍動した「全国横断パラスポーツ運動会」近畿ブロック大会
日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)が昨年12月より全国7ブロックで開催している「平成30年度スポーツ庁委託事業 全国横断パラスポーツ運動会」。その4回目となる近畿ブロック大会が1月14日、関西学院大学の西宮上ケ原キャンパス体育館で行われた。前回の中四国大会同様、フルエントリーとなる16チーム・240名が会場に集結。優勝チームは3月17日にパラサポが主催する日本一決定戦(於:東京都)に招待されるが、その出場権をかけて熱戦が繰り広げられた。
株式会社アシックス、特定非営利活動法人アダプテッドスポーツ・サポートセンター、ANA、NTTグループ、大阪体育大学、関西学院大学、神戸医療福祉大学、株式会社JTB、株式会社セブンキューブ、大日本印刷株式会社、田中貴金属工業株式会社、CHOVORA!!、PDS Group、株式会社マッシュ、箕面市、立命館大学
いつも以上の熱気に包まれた「アイスブレイク」
準備運動で十分に体を暖めた後は、今日初めて顔を合わせる人も多い参加者同士の心の壁を溶かす番。「アイスブレイク」と呼ばれるプログラムで、参加者たちのコミュニケーションを深める。これは全員が目隠しをした状態で、血液型や名前の文字数など与えられたテーマに合わせて制限時間内にグループを形成するというもの。五感のなかでも日頃ほとんどの情報を得ているといわれる視覚を制限することで、聴覚や触覚などそのほかの感覚をフルに使ってコミュニケーションを取る必要があることがポイントだ。関西という場所柄か、体育館にはいつもより大きな声がこだまし、参加者たちは欲しい情報を聞き分けるのに苦労するほど。その熱さもあって、プログラム終了時にはチームの壁を超えた一体感が生まれていた。
静寂の中での熱い戦い!「ゴールボール」
最初の競技は同じく目隠しをした状態で行なうゴールボール(ソフトボールを使用)だ。鈴入りのボールを相手ゴールに向かって転がし、ゴールラインを割れば得点になるというわかりやすいルールだが、視覚を制限された状態で行なうため、ボールを真っ直ぐに投げるのも至難の業。ディフェンスする側もボール内に仕込まれた鈴の音だけを頼りに止めなければならないため、全身を投げ出すようにしてコースを塞ぐ。アイマスクを着けた状態ではあるが、スポーツらしいダイナミックな体の動きも見られる種目だ。
この種目を3連勝の好成績で終えたのが「株式会社JTBチーム」。同社の神戸支店のメンバーを中心に集まったチームはほぼ全員がパラスポーツ初体験だとか。「見ていると『もう少し動けないの?』と思うのですが、実際に目隠しを装着すると自分がどっちを向いているのかも確証がないので不安になって思い切って動けませんでした」と語るのは同チームの石黒さん。「ボールの鈴の音は聞こえるのですが、距離感まではわからないし、だいたいこの辺かなと検討を付けて体を伸ばすしかありませんでした。思った以上に難しいですね」と視覚を制限された状態でプレーする大変さを体感しているようだった。
体の使い方とチームワークが勝利のポイント
続いての種目、シッティングバレーボール(ソフトボールを使用)はその名の通り、座った状態で行うバレーボール。コートにお尻の一部を着いた状態でプレーするため、ネットも低く、ジャンプ力など体力差の影響が少ないのがポイントだ。ボールもソフトなものを使用するため、誰もが楽しめる。3回以内にボールを返さなければならない点は通常のバレーボールと同じだが、お尻を浮かすことができないため、高い打点からのアタックを狙うよりは山なりにボールを返す展開が多く、ラリーが続きやすいことも多くの人が楽しめる理由だろう。実際、この日のゲームはラリーの続く接戦が多く、プレーする人も応援する側も大いに盛り上がった。
とはいえ、ただ座ってボールを打っていればいいというわけではない。狭いといってもボールの落下点には入らなければならないため、座った状態でいかにすばやく動くかが勝敗を分けるポイントとなる。移動するためには両手両足を巧みに使う必要があり、レシーブやトスでも手を使うため、実は全身を忙しく使う競技だ。両手はレシーブの構えを作って、足で移動できる一般のバレーボールのようにはいかず、体をいかに使うかを考えなければならない点が面白さだろう。
どのコートでも接戦が続いたこの競技で全勝という結果を残したのが「株式会社マッシュ チーム」。普段はイベントの運営などを手がける会社で、パラスポーツ関連の運営にも関わっているとのことだが、シッティングバレーボールについては経験者はゼロだという。それでもこの好成績を収めた理由について同チームの利波さんは「気持ちだけです」と語る。「”世の中をちょっとだけ良くしたい”がコンセプトの会社なので、普段のイベント同様、今回もその気持ちで挑みました」と謙虚に話すが、このチームの応援はどこよりも盛り上がっていて、その一体感が僅差のゲームで勝利を呼び込んでいるように見えた。
お昼休みは子どもたちに人気の体験会も開催
昼休憩の時間には、前回に引き続きパラスポーツの体験会も開催された。これは応援に訪れた人たち向けに行われているもので、競技に参加できない子どもたちに大人気だ。この日も真剣な表情で初めて体験するパラスポーツに取り組んでいた。まず体験したのはボッチャ。簡単なルール説明だけで年齢を問わず楽しめてしまうのは、この競技ならではの魅力だろう。その後は競技用の車いすを器用に操り、体育館内を走り回っていた。
プレーヤーだけでなく見る側も楽しめるボッチャ
午後の競技はボッチャで幕を開ける。赤と青、3人ずつのチームで的となる白い球(ジャックボール)の近くにどちらがボールを寄せられたかを競うというルールだが、一見すると簡単そうなこの競技。やってみると、その奥深さにハマる人が多い。投球の正確さに加えて、相手のボールや的となるジャックボールをはじき出すことも認められているため、ゲーム性が高く、最後の最後まで逆転の可能性が残されているため、見ている側も息を呑む展開が続く。体力や体格による差もほとんどないため、誰もが同じ土俵で勝負できるのが魅力だ。
無敗でこの競技を終えたのが「大日本印刷株式会社チーム」。「全員、今日が初めての競技なので完全にまぐれです」と同チームの小川さんは語るが、圧勝のゲームが続き、まぐれとはとても思えないレベルの高さだった。「やったことのない競技に取り組んで、少しずつできるようになっていくのは楽しいですね。パラスポーツは普段なかなか体験できないので」と競技そのものを楽しむ姿勢が、好成績につながっているのだと感じられた。
激しい展開のなかでも笑顔が絶えない
続いて行われたのは車いすポートボール。車いす競技の花形とも呼べるバスケットボールは、ゴールの高さもあるため初心者が取り組むにはハードルが高い。そのため、ゴールマンがボールを受け取るポートボールにアレンジしたのが、この競技だ。毎回、会場が大きくヒートアップする種目だが、この日もご多分に漏れず熱い戦いが展開された。
「株式会社アシックスチーム」の赤井さんは、この競技に唯一の車いすユーザーとして参加。過去に車いすバスケットボールの選手だったこともあって、華麗な車いすの操作でゲームメークしていた。「用意された競技用の車いすは腰の部分のクッションの高さが自分のものとは違って、ホールドが十分ではなかったのですが、小回りが効いていいですね。久々なのもあって思うように動けなかったですが、車いすの自分が健常者のチームメートを引っ張る存在になれることはなかなかないので楽しかったです」と語ってくれた。また、圧倒的に強いと思われていた「大阪体育大学チーム」に、唯一黒星を付けて全勝を許さなかった「神戸医療福祉大学チーム」の健闘も光った。
勝敗だけでない白熱した展開の車いすリレー
この日の最後を飾るのは、車いすをバトン代わりに乗り換えていくリレーだ。健常者は車いすを一端止めてから乗り手が交代する必要があるが、車いすユーザーは乗ったままタッチができるので、少しだけ有利になることもあり、3人の車いすユーザーがエントリー。応援する声にもひと際力が入り、白熱の運動会を締めくくるのにふさわしい盛り上がりとなった。
このレースで熱い走りを見せた「立命館大学チーム」の中西さんは会場までは電動車いすで来ていたのだが、予選・決勝ともにスピードある走りで活躍。「1年入院していて復学してまだ1年くらいなのですが、車いすになると声を掛けられることが減って外出する機会も少なくなっていました。今日は久しぶりに体を動かせて楽しかったです」と語る。
「神戸医療福祉大学チーム」の酒井さんは、まだ1年生とのことだが「パラスポーツに興味のある人で集まったチームだったので『行きたい』と手を挙げました。全部の競技に参加できたわけではないのですが、リレーが一番楽しかったですね」と声を弾ませていた。
近畿ブロック優勝は「大阪体育大学チーム」
車いすリレーでは圧倒的なスピードを見せた「大阪体育大学チーム」が見事、日本一決定戦の切符を手にした。車いす競技だけでなく、ボッチャなどでも安定して高得点をマーク。同大学のアダプテッドスポーツ同好会が中心のメンバーだけに、多くの競技に経験者がいる強みを活かしての優勝だった。「普段、パラスポーツのイベントに参加することもあるのですが、これだけ大きな会場でこれだけ多くの参加者がいて盛り上がるイベントは初めてです。MCの人もいるし、すごくテンションが上がりました。勝ち負けにこだわるのではなく、真剣に競技に取り組もうと思った結果、優勝できてうれしいです」と語るのは同チームの江崎さん。「今日参加されたすべての人の気持ちを背負って、日本一決定戦も優勝を狙いたい」と抱負を語ってくれた。
会場を盛り上げた「立命館大学チーム」
競技での活躍はもちろん、力の入った応援で会場を大いに盛り上げたのが「立命館大学チーム」。中心となった同大学の金山千広教授は選手としても競技に参加し、チームで一体となって今大会を楽しんでいた。「パラスポーツをマネージメントの視点で研究するゼミも持っていますが、今日はパラスポーツに興味がある学生たちと参加しました。学生たちも普段あまり交流する機会のない企業や団体の人たちとプレーできて刺激になったと思います」(金山教授)と話す。学生の中心となって多くの人を集めたという松崎さんは「パラスポーツは何回かやったことはありますが、競技として取り組んだのは初めてなので、改めて難しさを体感しました。でも、参加した人たちがみんな楽しんでくれたようなので良かったです」と話してくれた。
text by TEAM A
photo by Kazuyuki Ogawa