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ボッチャ
1341人の観客が目撃したボッチャ“金メダルへの過程”~ジャパンパラレポート
1月19日、20日、新宿コズミックセンターで「天皇陛下在位三十年記念2019ジャパンパラボッチャ競技大会」が開催された。
ボッチャの団体戦の強化を図る今大会には、昨年の1029人を上回る、1341人の観戦者が来場。BC4ペア戦はカナダ代表(世界ランキング8位)、BC1-2チーム戦は韓国代表(世界ランキング7位)が来日。どの国も来日せず日本のトップ選手による個人戦が行われたBC3クラスを含め、ハイレベルな戦いが展開された。
<BC4ペア戦>未来のボッチャ界を背負う若手が堂々プレー
今大会でもっとも目を引いたのは、高校生ばかり若手3選手が日本チームを形成したBC4クラスだ。
出場したのは、2017年に日本代表“火ノ玉JAPAN”に初選出された17歳の江崎駿、同年に始まったスポーツ庁の選手発掘事業「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト」で適性を見出された16歳の内田峻介、2018年の「第3回全国ボッチャ選抜甲子園」で優勝した都立府中けやきの森学園チームのメンバーである16歳の宮原陸人。3人とも12月の日本選手権で表彰台に上がり、日本代表の座を自力で勝ち取った。東京2020パラリンピック日本代表という目標に向かって急成長を遂げている有望選手である。
まず1日目は、江崎と宮原が出場。この日、代表デビューを果たした宮原は、リオパラリンピック出場経験者でチームを構成したカナダ相手に「落ち着いてできた」とコメント。試合は、1-9で大敗したが、「カナダのレベルが高く(戦うことができて)素直にうれしい」と笑顔で話し、その強心臓ぶりを見せつけた。
先輩格の江崎も、冷静にゲームを組み立てた。自分たちのエンド(※)では、左手前の得意な位置でプレーし、アプローチを重ねていくが、相手より先に自球がなくなってしまう状況を打破できず、失点を重ねてしまった。 試合後「点差がついてしまって悔しい」と話した江崎は、瞳の奥に悔しさをのぞかせた。
※自チームが投げる順番のエンド。ペア戦は4エンド制で、ジャックボールの投球権は交互に行われる。
2日目は宮原と内田がコートへ。前日、出番のなかった内田が「はじめは緊張したが、(コートサイドで待機していた)昨日よりリラックスして臨めた」と話す通り、初代表とは思えない強靭なメンタルで、時折笑顔を見せながらカナダとの駆け引きを楽しんでいた。
試合は1-8で敗れたが、貴重な1点ももぎ取り、宮原は「最後は惜しい場面もあった」と悔しさを口にした。それでも、試合中にふたりで話し合うシーンが何度も見られ、「お互いが納得する作戦でプレーできたのがよかった」と内田は胸を張った。
カナダの成熟した戦術におおいに刺激されたふたりは「まずはアプローチの精度を上げたい」と口を揃えて飛躍を誓う。
一方のカナダ代表選手たちも、彼らの物怖じしない姿に刺激を受けたようで、「若いながらに戦略を持って挑んでいて驚いたわ」と29歳のアリソン・リヴァインは話す。
34歳のユリアン・チュバヌも「彼らは精神的に鍛えられている」とメンタルの強さに舌を巻く。今大会で世界への扉を開いた若い選手が、世界を舞台にどんな変貌を遂げていくか。大きな期待を感じさせる戦いぶりだった。
<BC3個人戦>切磋琢磨する国内トップ選手が魅せた!
日本代表の3人が個人戦で優勝を争ったBC3(※※)は、1日目に日本選手権2位でリオパラリンピック日本代表の高橋和樹が、同3位で1年半前に電動車椅子サッカーから競技転向した有田正行に快勝し、2日目の決勝はその高橋が日本チャンピオンの河本圭亮を6-0で破り、優勝を飾った。
※※ボールを投げることができない重度障がい選手のクラスで、ランプと呼ばれる勾配具を使用してボールを転がす。
リオ後、練習量を増やすため環境を変えた高橋が2日間通してほぼミスのない投球で観客をうならせた。
「BC3のエースとして勝ちたかったので優勝できてほっとしました」
大勢に一挙手一投足を注目される舞台で勝利し、自信を得た高橋。海外の強豪に倣ってスローイングボックスを広く使うことで、目標の球を弾き出す強いボールを効果的に繰り出せるようになり、手ごたえもつかんだ。
今後が楽しみになる戦いぶりに、昨年より「BC3のペア戦が日本チームの喫緊の課題」と話していた日本代表の村上光輝監督も「ハイレベルな試合を見せてくれた」と笑みを浮かべていた。
<BC1-2チーム戦>連係プレーで重ねた勝利
今大会の目玉であるBC1-2チーム戦は、アジアの強豪・韓国を迎え撃った。
2016年リオパラリンピックの銀メダルメンバー、杉村英孝、廣瀬隆喜、藤井友里子の布陣でスタートした初日の日本は、第1エンドでいきなり先制されるが、第2エンドで逆転。その後もエース廣瀬がラストショットで自チームのボールを押して得点にするなど、見る者の期待に応える精度の高いショットをさく裂させて9-1で勝利を手にした。
2日目も、日本の勢いは止まらない。韓国がジャックボールを投げる、韓国に有利な第2エンドで日本が3点を奪い、8-3で勝利。2連勝の日本が今大会の勝者となった。
杉村がアプローチしたボールを廣瀬がプッシュする――そんなコンビプレーが随所に見られた。「ひとりでできないこともチームならできる。チーム戦の醍醐味が出た」と、キャプテンの杉村は自分たちの成長と可能性を口にした。
また、今大会はショートレンジからロングレンジまでさまざまなジャックボール位置で戦い、それぞれの対応力を確認するなど、日本は試合の中で多くのチャレンジと失敗を経験した。目指すのは、だれがどの位置で戦っても役割を遂行できる“オールマイティなチーム”。多くの収穫を得たBC1-2の日本代表は、東京パラリンピックの金メダルに向かって着実に歩を進めている。
【天皇陛下御在位三十年記念2019ジャパンパラボッチャ競技大会 リザルト】
BC4ペア戦:1位 カナダ 2位 日本(江崎駿、内田峻介、宮原 陸人)
BC3個人戦:1位 高橋和樹 2位 河本圭亮
BC1-2チーム戦:1位 日本(杉村英孝、中村拓海、廣瀬隆喜、藤井友里子)
2位 韓国
text by TEAM A
photo by X-1