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笑顔と熱気があふれた「全国横断パラスポーツ運動会」九州ブロック大会
昨年12月から日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)が開催している「平成30年度スポーツ庁委託事業 全国横断パラスポーツ運動会」のブロック大会最終戦となる九州ブロック大会が2月9日、福岡県の九州大学伊都キャンパスにて行われた。優勝したチームには3月17日に東京で行われる日本一決定戦(於:日本財団パラアリーナ)の参加権が与えられるとあって、会場に集まった14チーム190人の参加者は、5つの種目で熱戦を展開した。
<全国横断パラスポーツ運動会 九州ブロック参加チーム>
朝日新聞社、ANA、SMBC信託銀行、九州医療スポーツ専門学校、久留米大学、株式会社電通九州、南ん子太鼓、西尾レントオール株式会社、和太鼓たぎり、福岡県B&G財団地域海洋センター連絡協議会、福岡工業大学 FIT-ICE、福岡大学、メディカルネット・スポーツ株式会社、和太鼓野武士
参加者同士の絆を深めるアイスブレイク
全国的に強い寒気団に覆われ、九州地方にも寒い風が吹きすさぶ中、訪れた参加者たちはまずはラジオ体操で体を暖める。続いて行われたのは、この運動会では定番となっている「アイスブレイク」だ。初めて顔を合わせる人も多い参加者同士のコミュニケーションを促進する目的で行われるこのプログラムは、五感を制限された状態で、与えられたテーマに合わせてグループを作るというもの。この日は前半グループは目隠しをした状態で血液型でのグルーピングを行い、後半グループは声を出さずに生まれた季節ごとに分かれるというメニュー。大きなジェスチャーも禁止されたため、参加者たちは口の形や指先の仕草を頼りにコミュニケーションを図り、グループ分けを行った。
視覚や聴覚を制限された中でコミュニケーションを行うことの難しさを感じながらプログラムに取り組んだ参加者たち。それ以外の感覚を総動員する必要があるため、参加者同士の距離は一気に縮まった。プログラム終了後、MCを務めたパラサポ・推進戦略部の伊吹祐輔(通称”ブッキー”)は、「声を出せない場合、スマホの画面に文字を表示させるという方法もあります。聴覚障がい者とのコミュニケーションにも使えます」と語り、日常でのコミュニケーションでも役立ててもらいたいと続けた。
体力より丁寧さや頭脳が求められるシッティングバレーボール
1つ目の種目はコートに座った状態で行なうシッティングバレーボール。もともと下肢障がいのある人向けの種目だが、障がいの有無に関わらず同じ土俵で楽しむことができるとあって人気だ。ネットも低くジャンプもできないので、体力に自信のない女性もジャンプ力のある男性と競い合うことが可能。この運動会ではボールもソフトなものを使用するため、初めての人でも気軽に楽しめる。実際に、この日も多くのコートで好勝負が繰り広げられていた。
この競技で好成績を収めたのが「朝日新聞チーム」。丁寧なボール捌きで競り合ったゲームをものにしていたのが印象的だった。「熱くなると、ついついコートからお尻が上がってしまうので、その点に注意しました。体力に自信があるチームではありませんが、頭を使ってプレーできるのが面白かったですね」と語ってくれたのは同チームの高橋さん。その前に行われたアイスブレイクも含めて「初めてのことにチャレンジするのは面白い」と早くもパラスポーツの魅力を体感しているようだった。
空間把握能力が求められるゴールボール
続いての種目は専用のゴーグルで目隠しをした状態で行なうゴールボール。プレーヤーは目が見えない状態でボールを転がし、相手側のゴールラインを割ればポイントが入る。ディフェンスをする側は、ボールに入った鈴の音を頼りにコースを読んで全身を使ってボールを止めなければならない。そのため、試合中の観戦は音をたてないことが求められ、応援団も声を押し殺して観戦する必要がある。静寂に包まれた会場にボール内の鈴の音だけが静かに響く。
ゴールボールで無敗の好成績を残したのが「株式会社電通九州チーム」。同社のメディア局を中心に、取引のあるTV局などからも社会貢献活動などに興味があるメンバーを集めたというチームだが、プレー中に自分の位置を見失う人がいたりと、結果以外でも会場を大いに盛り上げた。「いつもできていることができない中でプレーするのが面白い」と話すのは同チームの緒方さん。「ボールが来ると思って体を投げ出したら来なかったり、自分が活躍できているのかもよくわからない状態でしたが貴重な経験でした。ボールが来やすい真ん中のポジションはもっと面白そうですね」となかなか体験できないゴールボールを楽しんだ様子だった。
昼休みには子どもたちの体験会も
午前中の競技が終わったところで、昼休みには応援に訪れた人たち向けにパラスポーツの体験会が行われた。今回は家族連れの参加者が多かったこともあり、体験会は多くの子どもたちで大盛り上がり。初めて乗る競技用の車いすにもすぐに慣れ、途中からは横一列でスタートするレースも体験するなど、競技は観戦のみとなる子どもたちもパラスポーツを大いに楽しんだ。ボッチャの体験では、子どもたちも真剣な表情で活躍。誰もが楽しめるパラスポーツの面白さを小さな体で体現していた。
レベルの高い駆け引きが繰り広げられるボッチャ
午後の競技はボッチャで幕を開ける。3人1チームで的となる白色のジャックボールに向けてボールを投げ、近くに寄せられたチームが勝ちというルールだが、ボールを投げる正確性だけでなく戦略も求められる奥深い競技だ。相手のボールやジャックボールに当てて、はじき出すことも認められているため、一発逆転の可能性もあり、最後の一球まで勝負はわからない。一球ごとに展開が変わるゲーム性の高さから、見る側も一緒に盛り上がれる種目だ。
ここで好成績を収めたのが「久留米大学チーム」と「メディカルネット・スポーツ株式会社チーム」。互いに全勝で迎えた最終試合は、どちらも一歩も引かない好勝負となり、1ゲーム目を0-1で落とした「久留米大学チーム」が2ゲーム目で3-0で勝利するという逆転劇を決めた。勝利した「久留米大学チーム」の小林奈央さんは「初めてやる競技もあるので、全員で楽しんでいます。ボッチャについては3日前に少し練習する機会があったので、その成果が出たのかもしれません。このまま優勝して日本一決定戦に行きたい!」と力強くコメントしてくれた。
一方、敗れた「メディカルネット・スポーツ株式会社チーム」の末金さんは「私は久留米大学の出身なので、後輩に負けて悔しい」と言いながらも笑顔を見せる。「ボッチャは最後まで勝負がわからないのが面白いですし、目隠ししてやるゴールボールはスリルがあってたまらない」とパラスポーツの魅力をしっかりと感じているようだった。
チーム一丸となって楽しむ車いすポートボール
毎回、会場が熱気に包まれる車いすポートボールは今回も大いに盛り上がる。車いすバスケットボールのルールを初心者でも楽しみやすいように、ゴールマンがボールを受け取るポートボールにアレンジした種目だが、ルールのわかりやすさもあり熱い試合と応援が繰り広げられた。1チーム5人の競技だが、ゴールに立つチーム員も6人目のメンバーとして試合に参加するため、パスをつないでゴールまでいかにボールを運ぶかがポイント。ロングシュートで決まることも少なくないため、最後まで気の抜けない好勝負が展開される。
ここで強さを見せた「福岡大学チーム」に対して、一進一退の好試合を見せたのが「南ん子太鼓チーム」。今大会は太鼓関連のチームが3チーム参加していたが、力の入った応援とともに会場を大いに盛り上げてくれた。「競技用の車いすは初体験だったので難しいかと思っていましたが、車体が軽くてよく曲がるのですごく楽しかった」と笑顔で語ってくれたのは「南ん子太鼓チーム」の河津さん。「なかなか体験できない競技ばかりなので、とても面白い」と普段はあまり縁のないパラスポーツを全身で楽しんでいるようだった。
チームワークも求められる車いすリレー
最終種目は車いすをバトン代わりに乗り換えていくリレー。予選はコートを往復する直線コースで行われ、各組の1位チームだけが進出できる決勝レースはオーバルコースを走る。予選と決勝の両方で得点が加算されるため、総合優勝を狙うチームにとっては大きなポイントとなる競技だ。腕だけで車輪を回すのではなく、上体を前傾させて全身の力を使うことがスピードを出すための鍵となる。また、車いすを乗り換える際には、チーム員がサポートすることも認められているため、スムーズに乗り換えられるようチームワークも勝敗を大きく左右する。
予選から強さを見せたのは「久留米大学チーム」。一人ひとりのスピードもさることながら、受け渡しの際に走ってきたメンバーが車いすから降りると同時に、次の走者が座って走り出すという一連の流れがスムーズで、チームワークによって決勝進出を決めた。決勝レースでも、強さは健在で、タイトで曲がりにくいカーブをスムーズにこなし、2位以下を周回遅れにする速さで見事優勝を果たした。
総合優勝は「久留米大学チーム」
人間健康学部のスポーツ医科学科で学ぶ学生たちのチームで、事前に競技用車いすに乗る練習などをしていたというだけあり、日本一決定戦への最後の切符を手にした。代表の小林さんは「みんなでテスト期間中も集まって練習した甲斐がありました。優勝したいと言っていたのは、半分ノリだったのですが、チームのみんなで力を合わせたことが結果につながったのだと思います。こういう機会を作ってくれたスタッフの皆さんや、今日の大会で競ったほかのチームの方々に感謝しながら、3月17日は日本一になりたいです!」と力強く語ってくれた。
大会を盛り上げた「メディカルネット・スポーツ株式会社チーム」
優勝した「久留米大学チーム」と予選レースでぶつかり、惜しくも敗れたがそれまでの競技では接戦を演じ続けた「メディカルネット・スポーツ株式会社チーム」。「0歳から100歳まで健康にスポーツを楽しむという”0-100プロジェクト”という取り組みをしているので、今日の経験はとても役に立つと思います。体が不自由になったとき、どうやってスポーツを楽しむのか? という部分で多くの気づきがありました。何よりも周りの人たちも笑顔いっぱいで、みんなで楽しめたのが一番の収穫でした」(大中さん)
text by TEAM A
photo by Yoshio Kato