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ボッチャ
トヨタの従業員も夢中! 社内から広がる“ボッチャ”の可能性
2015年からIPC(国際パラリンピック委員会)のワールドワイド・パラリンピック・パートナーとなっているトヨタ自動車。そのトヨタが、とくに力を入れて支援している競技がボッチャと車いすバスケットボールの二つだ。「パラスポーツと接点を持つことで、従業員に多様性を受け入れることやチャレンジ精神を持ってもらいたい。そのためにはパラスポーツ全般について知ってもらうことも大切ですが、より深く関わる競技があったほうがいいと考えたためです」と話すのは同社のオリンピック・パラリンピック部 エンゲージメント推進室の副部長である永田俊彦さん。2017年に同社は日本ボッチャ協会との間でゴールドパートナー契約を結んでいる。
車いすバスケットボールは競技としてわかりやすく、エンターテイメント性も高い。また、同社ではプロチームを持っているなどバスケットボールと縁が深いことも重点支援を決めた理由だ。
「ただ、実際に多くの従業員に体験してもらいたいと考えると、競技用の車いすなど用具が必要となるため、ややハードルが高くなります。そのため、ボールセットさえあれば誰もが楽しめるボッチャに注目しました」と永田さんは話す。競技の応援や体験会などは、どうしても休日を使うことになりがちで、もっと気軽に、平日の仕事帰りに楽しめるようなスポーツとしてボッチャは向いている。「実際に障がいがある方と一緒に、同じ土俵でプレーできるので、接点づくりという点でも最適だと考えました」
ボッチャの魅力が社内に拡散
ボッチャの魅力は「障がいの有無や体格、体力などに関係なく、多くの人が本気で競い合えること」と永田さんは語る。「それでいて、実際にやってみると難しく、また非常に奥が深くて、一度体験すると誰もがハマってしまう。大の大人がムキになって何度も何度もボールを投げてしまうような魅力というか、魔力のようなものを持っています」
的となる白いジャックボールに向かってボールを投げ、より近くに寄せられたほうが勝ちという単純明快なルールだが、実際にプレーするとボールを狙ったところに投げる正確性に加えて、いかに相手がボールを寄せにくいところに投げるかなどの戦略が求められる。相手のボールやジャックボールに当てて、弾き出すこともできるため、最後の1球まで勝負の行方がわからない手に汗握る展開が続くことも、この競技の魅力だ。
「実際にボールセットを購入し、各部署や工場などに貸し出して体験会などを行ったところ、瞬く間に火が付きました。我々の部署では15セット持っていますが、貸し出しの依頼はひっきりなしで、自分たちでボールセットを入手して取り組んでいる部署や工場もあります」。同社の過半数の部署がボッチャに取り組んでおり、これまでに開催した体験会は2年の間に50回を超える。体験した従業員の数は延べ1万2000人にのぼるという。
「東京にある全部署対抗のボッチャ大会も開催しましたが、今は全社対抗の大会をやってほしいという声が各部署から届いています。みんな終業後などの時間に練習を積んでいるようで、その成果を発揮する舞台を求めているようですね」と永田さんは笑顔を見せる。
ボッチャでみんなが一つに
トヨタの東京本社には3階にレストランがあるが、そこでは2017年から昨年まで週に1回“ボッチャBar”が開設されていた。「『お酒を飲みながらボッチャをやると楽しい』という話を聞いたのがきっかけで、いわゆるダーツバーのような感じでボッチャを楽しんでもらえればと、定期的に開設するようになりました。このボッチャBarが、我々の活動の原点です。実際、みんなでわいわいお酒を飲みながらやるボッチャは本当に楽しいんですよ(笑)」と永田さんは力を込める。
そんなに楽しいならば、ぜひ体験してみたいと思う人も多いだろうが、残念ながら東京本社の“ボッチャBar”は現在は開催していないとのこと。「その代わり、1階のロビーに誰でも体験してもらえるスペースを設けています。お台場にあるメガウェブ内にもボッチャだけでなく、車いすバスケットボールなどパラスポーツを体験できるスペースを開設しています」
ボッチャの体験スペースを続けているトヨタの販売店もある。家族連れで訪れたお客さんが商談中に子どもが楽しむなど、ビジネスへの活用のほか、地域の障がい者団体のボッチャ選手などが練習場所として利用していることもあるという。
「ウェルキャブ(福祉車両)の販売を行っている店には障がい者団体とつながりのある担当も多いので、選手の練習場所としても提供している店舗もあります」
ボッチャの社内普及の次に取り組んでいるのが大会の観戦。「自ら体験してボッチャの難しさ、奥深さを実感しているからこそ、選手の高度なプレーを見てびっくりします。そこには、1人のアスリートに対するリスペクトが生まれます。今年は弊社の地元である豊田市で大きな大会が開催されます。1人でも多くの従業員に本物のプレーを見てもらいたいと思っています」と永田さんは言葉に力を込めた。
そして、さらなるステップが、社外の障がい者の方々とボッチャを通じてつながろうという活動だ。
「実際、愛知県の下山工場や東京本社では、地域の障がい者施設の方々を招いて一緒にボッチャを楽しんだりと、障がいの有無を超えて交流する動きが始まっています」
こうしたボッチャを通じて自然に交流できるシーンを「もっと広げていければ」と永田さんは話す。
「定期的にそういった場があることで、閉じこもりがちだった障がい者の方が外に出るきっかけになることもあるかもしれません。ボッチャは共生社会を手軽に体験できるスポーツだと思いますので、学校教育などの場でも力を持つかもしれません。例えば支援学級と通常学級の生徒が混成チームで競い合うといったこともボッチャなら可能です。そうしたことを東京2020大会のあとも続けて行くことができれば、文字通りのレガシーになるのではないでしょうか」
トヨタの目は、2020年の先まで見据えている。
text by Shigeki Masutani
photo by Haruo Wanibe