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車いすバスケットボール
「あすチャレ!School」全県での実施達成! 記念すべき47県目は愛媛
日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)は、2月27日、愛媛県大洲市立大洲東中学校でパラスポーツの体験型授業「あすチャレ!School」(協賛:日本航空株式会社/以下、JAL)を行った。
「あすチャレ!スクール」が2016年に産声を上げてから3年弱。2017年からJALの協賛により活動を全国に広げ、4人の講師が全国662の小・中・高校を訪問。実に105,397人の生徒に、車いすバスケットボールなどのパラスポーツの体験授業を行い、約3年かけて47都道府県の学校を回ったことになる。
今回の記事では、記念すべき47県目・愛媛県での「あすチャレ!スクール」を紹介したい。
初めて見る車いすバスケットのデモンストレーションに夢中
「みなさん、こんにちは!」
大きな拍手で講師を迎えてくれた大洲東中学校約50人を前にはつらつと挨拶をしたのは、「あすチャレ! スクール」の名物講師で2000年のシドニーパラリンピック男子車いすバスケットボール日本代表キャプテンの根木慎志。
「今日の出会いは皆さんにとって忘れられない一日になると思います」
根木講師は自己紹介の後、これまで46都道府県で行ってきたように一人ひとりの顔を見て言葉を続け、ともに授業に参加する「あすチャレ!スクール」メンバーやJALの担当者を紹介した。
今回参加したのは、1年生から3年生まで全学年の生徒。真剣な表情で耳を傾ける子どもたちに、根木講師は、明日へのチャレンジを意味する「あすチャレ!スクール」のネーミングに込められた思いや“夢を持つことの大切さ”を伝え、「今日は、ぜひ明日への目標を考えてみてください」とメッセージに熱を込めた。
続いて行われたデモンストレーションでは、タイヤがハの字になったバスケットボール競技用の車いすに乗り移ると、根木講師は体育座りで並んでいた生徒たちの目の前を駆け抜けてみせた。
「僕ちょっとバスケうまいんだけど、見たいですか?」「これまでの46都道府県ではみんな『見たい』と言ってくれたんだけど」……根木講師は生徒とのかけあいを交えながら場を盛り上げていく。そしてドリブルやシュートを披露すると、子どもたちの表情は輝きを増していった。
大盛り上がりのパラスポーツ体験
プログラムのふたつ目は、生徒の代表が実際に競技用車いすに乗り、車いすバスケットボールをプレーするパラスポーツ体験だ。5対5に分かれてミニゲームを行うが、ほとんどの生徒が車いすに乗るのは初めて。それゆえ、ゲームが始まってもなかなかその場から動けない者が多かった。
そんなとき、会場に響いたのが“応援の声”。「応援があればシュートが決まるかもしれない。みんなの応援にかかっています!」と根木講師は力説し、手拍子や声援を呼びかける。
声援が響く中で思い切りのいいシュートやロングパスも飛び出し、この日行われた2試合は大盛況だった。
最後は毎回大盛り上がりの教職員代表によるミニゲームを実施。JALの担当者も加わり、紅白に分かれて熱戦を展開。この日一番の声援に加え、教頭先生の渾身のバックパスなど見せ場も多かったが、シュートは遠く……試合は0-0で終了した。
根木講師に感想を求められた教職員らは「車いすバスケがこんなに面白いとは思わなかった」「もっとやりたかった!」「パラスポーツや障がいのある人の見る目が変わった」などと思い思いにコメントした。
一人ひとりが新たな気づきを得た講話
応援で一体感が生まれた生徒たちは、根木講師の近くに集まり、真剣な表情で講話を聞いた。
すっかり打ち解けた生徒に、根木講師は困っていたら助けてくれる友達とのやりとりをイメージさせて「みんなに会うために僕は2階や3階の教室に行きたい。でも、エレベーターがないときはどうする?」と生徒たちに問いを投げかけ、「障がいは僕ではなく、階段だよね」と力を込めて話した。
さらに、障がいのある当事者として、「車いすで困ることや大変なことはあるが、少なくとも体育館では自由に動けるし、困らない」と断言すると生徒たちは、深くうなずき「果たして僕はかわいそうなのでしょうか?」と、根木講師は生徒たちに問い続けた。
最後は参加者全員に、自分のあすチャレ!を書く折り紙のキーホルダーと、記念のJALオリジナルパスケースがプレゼントされ、あっという間の90分が修了。根木講師にお礼の言葉や花束が贈られると、最後は再びハイタッチで再会を誓い、別れを惜しんだ。
★参加者の声
◆船津治校長
「始めは静かだった子どもたちの楽しんでいる姿が印象的でした。やはり体験することが大事で、みんなでバスケットをしたことで、障がいがある人は特別ではなく自分たちと同じなんだと感じてもらえたのではないかなと思います」
◆旭良浩くん(3年生)
「障がいは人ではなく、社会にあるという話が印象に残りました。試合では、シュートを決められて最高でした」
◆小泉夏帆さん(2年生)
「今日は、選手のすごさと苦労や努力を知ることができて、とても元気になりました。東京パラリンピックも観に行ってみたいです」
47都道府県 実施達成記念!「あすチャレ!スクール」プロジェクトメンバーインタビュー
◆あすチャレ! プロジェクトディレクター 根木慎志
「『あすチャレ!スクール』が47都道府県での実施達成を迎え、今日は最高にうれしい日です。これまで本当にいろいろな土地に行かせてもらい、徳島では阿波踊りや太鼓で歓迎してもらい、静岡では先生のトランペット演奏に合わせて入場したり……すべてが最高の思い出です。地元の奈良を再訪問した際には、生徒たちがニコニコしながら、僕の90分の授業でまるで別人のように変化した友だちの話をしに来てくれたのもうれしかったですね。また、講師や事務局合わせて15人のスタッフみんなでプログラムを作り上げて継続的に行うことができているからこそ、社会にいい影響を残せていると思うし、2020年以降も見据えて全国各地にもっともっと広げていきたいです」
◆パラサポ 小澤直 常務理事
「まずは事故なく全都道府県を回ることができ、ホッとしています。行く先々で子どもたちも先生たちも様々な反応や笑顔を見せてくれて、非常にやりがいのあるプログラムだと感じていますし、その可能性をJALさんが広げてくれて2年目からはより多くの学校を回れるようになりました。東京2020大会は日本全体の行事だと思っているので、東京だけ盛り上がっていてはもったいないし、『あすチャレ!スクール』のようなプログラムが全国で行われることを、あたりまえにしていきたいと考えています」
◆パラサポ 山口雄介 プロジェクトリーダー
「これまで大雪の中、本州の端の学校に車で赴いたり、青森県三沢基地内のアメリカンスクールに行き英語で『あすチャレ!スクール』を開催したり、いろんな思い出がありますね。いまの目標は『2020年度までに1000校』ですが、ゆくゆくは各地方に支部をつくって、さらに多くの子どもたちとパラスポーツを楽しめるような体制にできたらうれしいですね」
◆日本航空 コミュニケーション本部東京2020オリンピック・パラリンピック推進部 阿川淳之さん
「ついに全県制覇ということで感慨深いものがありますが、『あすチャレ!スクール』はまだまだ続いていきます! 東京だけでなく地方でもパラスポーツの魅力を発信することで、体験した生徒だけでなく周りの人にも広がっていくと感じています。次は海外に進出し、外国の方や転勤などで海外で暮らしている日本人の皆さんにもこのプログラムをお届けできたらいいなと思っています」
◆日本航空 同部・佐藤好さん
「生徒さんはもちろんのこと、先生たちも楽しんでいて『あすチャレ!スクール』が素晴らしい取り組みだと改めて実感しました。まだまだ訪問していない地もあるので、これからも健常者も楽しめるパラスポーツの魅力を一緒に伝えていきたいです」
◆日本航空 同部・キャビンアテンダントの塩田沙織さん
「生徒さんたちは最初はシャイだと思ったけれど、根木さんの言葉に引き付けられて表情がどんどん変わっていきましたよね。私自身、シュートで腕が上がらず苦労しましたが、とにかくみんなが楽しそうなのが印象的でした」
この日も子どもたちを笑顔で包んだ「あすチャレ!スクール」。2020年までに1000校での実施を目指す。
text by Asuka Senaga
photo by Yoshio Kato