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ブラインドフットボール
ブラインドサッカー女子事情・日本が世界をリード!?
パラスポーツの中でも知名度の高いブラインドサッカー(5人制サッカー)。パラリンピックでは2004年のアテネ大会から正式競技になり、2020年東京大会、2024年パリ大会での実施も決定している。しかし、フィールドプレーヤーとしてパラリンピックに出場できるのは、B1(全盲)クラスの男子選手のみだ。いつか女子選手もパラリンピックへーーそう願う選手や関係者の声に耳を傾けた。
ナショナルチームは日本とアルゼンチンのみ
ブラインドサッカー男子の公式戦が初めて行われたのが1997年のこと。それから20年後の2017年、女子競技の活性化を図ろうと女子選手のためのトレーニングキャンプがオーストリアのウィーンで開催され、新たな歴史がスタートした。
実は、強豪国としての地位を確立し、世界をけん引しているのは日本女子代表チーム。2014年にスタートした女子選手の発掘と育成を目的とする女子練習会に端を発し、2017年には育成合宿を開始、同年4月に初めてナショナルチームが結成され、翌月に開催された女子初の国際大会「IBSA女子ブラインドサッカートーナメント2017(※)」では優勝を飾った。現在では月に一度、代表チームの合宿練習が行われている。
※女子の大会は競技人口などを考慮し、全盲の選手に限らず弱視者も参加できる
それでも、国内に女子のクラブチームはない。「IBSA女子ブラインドサッカートーナメント2017」で得点王となった菊島宙ら女子選手は、男子に混ざって国内リーグで経験を積んでいるのが現状だ。
日本のブラインドサッカーの黎明期を知る村上重雄女子日本代表監督はこう証言する。
「ブラインドサッカーが関西で始まった2001~2002年当時から女子プレーヤーはいましたね。でも、男子と一緒に試合に出るのは難しいですし、試合がないからブラインドサッカーの楽しみを感じる前に足が遠のいてしまいがちです。やはり日ごろから定期的にサッカーができる環境が大事なのだと感じています」
男子に交じって練習することの多い女子選手たち
世界各国でプレーする女子選手はいるものの、現在のところナショナルチームを擁するのは日本とアルゼンチンの2ヵ国のみ。ナイジェリア、ロシア、ギリシャ、イギリスでは女子のグループでの練習会が行われているというが、女子選手たちの練習環境はどうなっているのか。
“サッカー大国”として有名なドイツでも、ブラインドサッカーの女子選手は、なんとカタリナ・クーンラインただ一人。3歳からサッカー、ブラインドサッカーは病気で弱視になった18歳で始めた彼女は、大学で国際ビジネスを学びながら男子チームに交じってプレー。最近、健常のサッカーチームとブラインドサッカーチームを持つ「Schalke04」に加入し、週3日のチーム練習に参加している。「ドイツで女子選手がいないのは好ましくないし、公平ではない。将来は障がい者スポーツを広める活動をしたいし、ブラインドサッカーの普及にも努めたい」という展望を持つ。
日本と同じく女子代表チームを持つアルゼンチンのショアナ・アギラールは、女子のブラインドサッカーチーム「LOS GUERREROS THE WARRIORS」に所属し、1週間のうち3日間は、フィジカル、戦術、体の動きというメニューで丸一日練習に励むという。ブラインドサッカー歴3年目ながらスピードのあるドリブルを得意とし、昨年行われた「さいたま市ノーマライゼーションカップ2018」にアルゼンチン選抜チームのメンバーとして参加した彼女は、ひとりで3得点を決めた。
ゴールボールやクリケットなど、様々なスポーツ経験を持つオーストラリアのシェイ・スキナーがブラインドサッカーを始めたのは30歳になってから。オーストラリアでも女子選手は彼女だけというのが現状だ。彼女は「パラリンピックに出場できるレベルになること、母国の女子代表チームでパラリンピックに出場できたら」と語る。将来的にパラリンピックにブラインドサッカーの女子種目が採用されれば、オーストラリアのブラインドサッカー女子選手を引っ張る存在になるだろう。
日本で行われた2回目のトレーニングキャンプ
2月21日と22日の2日間、日本大学文理学部にある百周年記念館(東京都世田谷区)で「IBSA女子トレーニングキャンプ supported by 田中貴金属グループ」が行われ、10ヵ国(日本、イギリス、フランス、ドイツ、オーストリア、スウェーデン、オーストラリア、アルゼンチン、ナイジェリア、ジンバブエ)から選手、マネージャー、コーチ、ガイド、トレーナーの合計27名が参加した。
2017年にオーストリア・ウィーンでの初開催以来2回目となる今回は、前回参加した日本や欧州だけでなくアフリカからの参加もあり、世界における競技普及が垣間見えた。
参加した選手たちは、試合経験のある選手もいれば、初心者や競技歴の浅い選手もいたため、1日目は、国際審判員であるマリアーノ・トラヴァリーノ氏によるルール講習会からスタート。その後、体育館に移動し、パスやシュートなどの基本的な技術を学んだ。
オフェンシブなプレースタイルの選手、ディフェンシブなスタイルの選手。プレースタイルは異なるものの、皆が「より多くのことを学び、それを自国に持って帰りたい」という共通の想いを持ち、それがコーチや選手同士に伝わり、伝播していく。そんな熱のこもった練習となった。
2日目はキャンプ終了の翌日に実施される「さいたま市ノーマライゼーションカップ2019」に出場するため、連係プレーや試合形式など、より実践に近い練習が行われた。
キャンプを終えて、IBSAフットボール委員会の松崎英吾委員は、「2017年に行われた第1回の参加は日本と欧州のみだったが、今回、アフリカ、欧州、日本、南米、オーストラリアからの参加者があり、本当の意味でグローバルに参加者を集めることができたことに、手ごたえを感じている。今回の参加者は各地でリーダーになっていく人たちなので2年に1回程度定期的なキャンプを行い、さらに各地に広がるよう力を入れていきたい」とコメントした。
恒例となりつつあるトレーニングキャンプに続き、1年後の開催を目指す国際公式大会なども計画されており、ブラインドサッカー女子の普及に期待感は大きい。
日本が得点を量産し勝利!「さいたま市ノーマライゼーションカップ2019」
「さいたま市ノーマライゼーションカップ2019」は、日本女子代表チームとキャンプに参加した選手で構成された「IBSA世界選抜チーム」の試合が行われ、結果は10-0で日本がIBSA世界選抜に勝利した。
日本はエースの菊島宙を中心に攻撃に試合を展開し、菊島がひとりで9得点を挙げた。
以前「できたら女子のカテゴリーがパラリンピックの種目として採用されたらと思います」と語っていた菊島は、試合を終えて「世界にブラインドサッカー女子のカテゴリーがもっと広まってくれたら。私自身も広めていきたいです」と実感を込めて語った。
国のサポートの薄さや選手数の少なさから女子選手だけでチームを構成できない国は多いものの、今回のトレーニングキャンプでの関係者の手ごたえや選手の喜びに満ちた表情を見る限り、女子選手の普及と育成は順調に歩を進めているといえるだろう。そして近い将来、世界中で代表チームが誕生すれば、パラリンピックの種目にも採用されるという期待も高まる。
「サッカーが上手くなりたい」という気持ちは男子と同じ。国際大会が増え、女子選手の笑顔が広がっていくことを願うばかりだ。
text by TEAM A
photo by Sayaka Masumoto