【一流をめざすスポーツメンタル術:前編】勝負ドコロで結果が出せない、一番の理由は?
2019.04.09.TUE 公開
スポーツメンタルコーチとして、不調に悩んでいた多くのアスリートたちを大勝利へと導いてきた鈴木颯人さんに学ぶ【一流をめざすメンタル術】。前編では、勝利や成功を阻む原因を段階的に分析。「試合で思うような結果が出せない」というアスリートだけでなく、「仕事やプライベートでなかなか目標を達成できない」という人も必読です。
うまくいかない時は、これまでの価値観や思い込みを疑ってみる
———— 毎日懸命にトレーニングを積んだアスリートでも、本番で思うように力が出せない、ということがよくありますが、この場合メンタルはどのように関係してくるのでしょうか。 原因は様々ですが、第一に、本番で力を出せなくなるような行動を普段から取ってしまっている可能性が大きいです。カウンセリングの現場で『ニューロ ・ロジカル・レベル』と呼ばれているものと同じで、結果に至るまでにはセルフイメージ(思い込み)↓信念↓ 能力↓ 行動 ↓結果・環境
というステップがあります。簡単に説明すると、[結果]に伴う[行動]があり、その[行動]につながる[能力]があり、さらには[能力]に影響を与える[信念]や、その元となる[セルフイメージ]があるという概念で、これらを踏まえることで段階的にモチベーションを高めることができます。もし、思い通りの結果が出せないのであれば、偏った[セルフイメージ(=価値観、思い込み)]が根底に存在している可能性が大きいですね。
とある卓球選手は、高校時代、ライバルに勝つために毎日休まずにハードな練習を積んでいたのですが、大学入学後に疲労骨折を繰り返すようになり、思うように卓球に打ち込めなくなってしまった。その原因を掘り下げていくと、過去に高校のコーチから「おまえは人の2倍も3倍も努力しなければライバルに追いつけない」と言われたことで、「勝つために休んではならない」と強く思い込んでいたことがカウンセリングで分かったんです。
——— そういった記憶や経験が偏った「思い込み」となって、現在の結果に悪い影響を与えてしまうことがあるということですね。 そうです。私の提唱するメンタルコーチングでは、うまくいかない原因を段階的に掘り下げていく作業のため、時には思い出したくないような過去にも目を向けなければならないんですよ。 ——— 鈴木さんのようなプロのコーチングが受けられない人も、まずは偏った物事の捉え方や思い込みをしてないか、自分自身に問いかける作業が必要そうですね。 その際に気をつけて欲しいのは、正解がひとつとは限らない、ということ。一人一人に正解があるし、正解だったこともレベルや環境が変化すると不正解になるかもしれない。いくら努力しても思い通りの結果が得られないなど、今までの思い込みでは通用しなくなったときにこそ自分の価値観を疑ってください。
今何に集中すべきか? 正しい意識の矛先で、成功しやすくなる
——— 一般の社会人の場合、仕事でうまくいかない場合も思い込みが邪魔をしているのでしょうか? 例えば、プレゼンでいつも緊張して失敗してしまう場合などは?人からどう見られているか、どう評価されるかが気になって、本来のパフォーマンスを発揮できなくなっている可能性が高いですね。これは、他人の視線や評価のような本来コントロールできないものをコントロールしようとしている、ということなんですよ。
プレゼンで緊張する、といったような場合は、まずは説明する内容自体に意識をしっかりと向けてください。うまくやろうとするよりも、内容がきちんと伝わればいい、と思えば、案外うまくいくものです。それぞれの状況によって、今、何に集中すべきかをきちんと整理することで結果は大きく変わると思いますよ。
——— また、瞬間的に結果を出すものとは違いますが、「起業したい」「ダイエットしたい」など、新しいことを始めたいのになかなか踏み出せない、という心理は、思い込みと何か関係がありますか? 「失敗が怖い」という思い込みがあるのかもしれませんね。過去の栄光やプライドにすがって恥をかきたくないとか。それから、思い込みとはまた違った視点ですが、安全領域から出たくなくてなかなか行動に移せない、というのもあります。基本的に人間の脳は、常に省エネのために楽な方、考えなくて済む方を選ぼうとする性質があるので、新しいことを始めるより今のままの状態が心地いいという結論に至りやすいんです。
でも、スポーツでも仕事でも自分自身が今よりも成長していくには、安全地帯から抜け出さないといけません。私が2年ほどコーチングしたダーツの選手も成績が伸びずに悩んでいましたが、それまで楽な方ばかりを選んでいたことに気づきました。そして「選択肢があるときは、難しい方、困難な方を選んでいきます」と宣言して、その次の大会でいきなり準優勝したという結果も出ています。
なりたいレベルの世界に触れる機会をどんどん増やす
——— なかなか良い結果が出せないアスリートが、自分の偏った「思い込み」や「価値観」に気づいた後は、どうすればいいのでしょうか? 指導者が変わってから結果が出せなくなった、環境が変わってうまく行かなくなった、というように原因がわかりやすい場合は、単純にそれを変えればいいけれど、変えられない状況の時は、自分を変えていきましょう。指導者が原因の場合は、言われたことをそのまま全部やるんじゃなくて、自分にフィットするようにアレンジするなど、うまく対処する方法を見つける。この点では、結局アスリートも会社員と同じで、コミュニケーションスキルが必要になりますね。それから、「このまま同じことを続けたら、1年後、10年後はどうなっているか?」と自分に問いかけるのもおすすめです。目指しているものにたどり着けるのかどうかを多角的に検証して、自分を変える。ただし、人それぞれに正解があること、正解がひとつでないことを忘れないでください。 ——— 正解はひとつしかない、と思い込みすぎている人が多いのでしょうか? 人間は偏った考え方をしがちなんですよ。特に日本人は、学校教育によってそう思い込んでいる人が多く、相反する答えを受け入れにくい。次のステージに進むためには、古い思い込みの蓋を外して、新しく効果的な思い込みを植え付けることも必要になります。
私がコーチングしたプロ野球の育成選手は、球団と契約して、お金をもらい、球団のユニフォームを着ているのにも関わらず、「自分はまだプロ野球選手ではない」という思い込みが強い選手でした。そこで、このまま自分は“育成選手”だと思い続けたらどんな人生になると思うかと訊いたら、「ずっと育成選手だと思う」と答えたんです。このままではダメだと気づいた彼が、たった今から「自分はプロ野球選手だ」と意識するようになったところ、半年後には支配下選手登録されるなど着実にステップアップしていきました。
結局、自分はアマチュアだと思っている人は、負けた時やうまくいかない時に「どうせアマチュアだし」と、無意識に言い訳できるようにしているんですね。アマチュアでもするべきことをしっかり考えて取り組んでいる人は結果を出している。この意識の差こそが大きな原動力になるので、もし、オリンピックやパラリンピックに出たいなら、たった今から「自分はすでにオリンピック・パラリンピック選手だ」と意識して行動してください。 ——— アマチュアではなくプロとして振る舞うということですか?
現状の自分ではなく未来の自分をイメージすると、自ずと行動も変わります。イメージしにくい時は、なりたいレベルの世界に触れる機会を増やしたり付き合う人を変えたりすればいい。お金持ちになりたいのなら、お金持ちが集まる場所へ行く、生活エリアを変える、お店で高級品に直接触れるなど。目標とする世界を部分的にでも垣間見た時に、自分がどう感じるかを知ることが大切です。もし、その感覚が当たり前になってくれば、次のレベルに進みやすくなるはず。現状に満足できなくなって、心地良かった安全領域から出たくなると思いますよ。
【前編】のお話では、勝負ドコロでうまくいかないのは能力や努力が足らないからだと決めつける前に、根本を見つめ直す必要があるとわかりました。もしかすると、自分でも気づかないうちに、過去の体験や誰かの何気ない一言によって誤った価値観を持ってしまっているかもしれません。思い込みに気づくことは、実は家族や同僚などの身近な人との関係を良好に保つ上でもとても役立つような気がしました。【一流をめざすメンタル術:後編】では、今回のノウハウをベースに『夢や目標を猛スピードで実現させるメソッド』をレクチャーしてもらいます。
【一流をめざすメンタル術:後編】 夢や目標を猛スピードで実現させるメソッドhttps://www.parasapo.tokyo/topics/16203
今回お話を伺ったのは・・・
鈴木颯人
1983年イギリス生まれ、東京育ち。高校時代にスポーツで挫折を味わった経験をもとに、脳と心の仕組みやスポーツ科学など学び、メンタルコーチングのメソッドを構築。現在は、担当競技数37以上、年間コーチング400回以上、プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートやトップパフォーマーだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面や指導者への指導方法もサポート。日本チャンピオン8名、世界チャンピオン5名輩出実績あり。コーチングを行いながら、書籍やツイッターで目標を達成するための思考法なども発信している。近著は「弱いメンタルに劇的に効く アスリートの言葉――スポーツメンタルコーチが教える“逆境”の乗り越え方」(三五館シンシャ)。 Text by Uiko Kurihara(Parasapo Lab)Photo by Masayuki Ichinose