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アルペンスキー
森井大輝のチェアスキー開発から見えるトヨタの“本気”
国際パラリンピック委員会(IPC)のワールドワイド・パラリンピック・パートナーとして、様々な取り組みを展開しているトヨタ自動車。その取り組みのうちの1つがパラアスリートとして活躍する社員のサポートだ。チェアスキーヤーとして冬季パラリンピックに2002年のソルトレークシティ大会から5大会連続で出場、合計4つのメダルを獲得している森井大輝を始め、世界的な規模で多くのパラアスリートがトヨタの従業員や協賛アスリートとして競技に取り組んでいる。
世界に誇る技術力で選手をサポート
2014年から同社に所属している森井。パラアルペンスキーの大会は都市から離れた雪山の中で開催されることが多いため、なかなか観客が集まりづらい面があるが、トヨタでは社内で応援ツアーを組み、東京や愛知から会場までの送迎バスを用意するなど観客動員にも一役買っている。会場となる地域の地元グルメを楽しめるツアーとするなどし、家族連れの従業員も参加しやすい工夫を凝らすなど、細かい配慮が功奏し、パラスポーツの大会を観たことがない従業員が足を運ぶきっかけになっている。
また、森井が競技で使用するチェアスキーにも、同社がクルマづくりなどで培った技術が活かされている。森井の使用するチェアスキーは日進医療器とトヨタがフレーム・リンクを共同開発したものだが、「あくまでも用具メーカーである日進医療器が主役で、我々は計測技術や解析技術を提供しただけ」と同社のオリンピック・パラリンピック部 エンゲージメント推進室の永田俊彦副部長は控えめに語る。
競技用チェアスキーのフレームとリンクでは理想の滑りを実現するため、軽量化と高剛性化を同時に実現する必要がある。そこに同社が車両開発で培ったシャシー(車体)設計技術とCAE解析技術(※)が活かされているという。その結果、従来モデル比約15%の軽量化と約3倍の高剛性を実現している。また、高速滑走時の安定感を向上させるため、自動車の空力性能開発のために用いられる風洞実験室での計測も実施し、空力特性を徹底的に追求。空気抵抗を少なくなる選手の体勢についても研究している。
※CAE解析技術:コンピューター上に疑似的に再現した製品の強度などについてシミュレーション・分析できる技術
開発陣は「チーム森井」と呼ばれ、のべ40名の技術者が関わり、初めてのチェアスキー開発を手探りで進めていった。チェアスキーの構造だけでなく、アスリートの競技中の姿勢についても研究を重ね、森井による実際の滑走でデータを収集。開発にフィードバックした。実走を繰り返しながらブラッシュアップを続けるその手法は、自動車の開発に通じるものだ。
軽量化と高剛性化の両立は、クルマづくりの世界では常に求められてきたものであり、その点のノウハウはトヨタには長い蓄積がある。そのノウハウをチェアスキーにも活用できるのではないかと考えた森井からの申し出で、このプロジェクトはスタートしたという。
「このプロジェクトはユーザーである森井選手がすぐそばにいてダイレクトに反応が返ってくる。その点が技術者としてはやりがいを感じるようです」と永田副部長が話すように、このプロジェクトには技術者を育てるという側面もあるようだ。
“移動”は夢をかなえるための可能性
「パラスポーツを通じて、すべての人が参加できる社会を作る」というフィリップ・クレイヴァンIPC会長(当時)の言葉に、同社の豊田章男社長が感銘を受けたことから、本格的にパラスポーツに関わることとなったトヨタ自動車。2015年にワールドワイド・パラリンピック・パートナーとなった記者会見の席上、豊田社長は「“移動”が障がいになっているのであれば、”移動”がチャレンジするための障がいではなく、夢をかなえるための可能性になってほしい」と語り、障がいのある人にとって移動の自由がカギとなっている課題に正面から取り組む考えを表明した。
次の冬季パラリンピックは2022年北京大会。森井はチームの仲間とともに、パラリンピックの舞台で唯一手にしていない金メダルを目指す。「チーム森井」の活躍は、「モビリティソリューションの提供を通じ、すべての人の夢をかなえる」というトヨタの目指すものを具現化することでもある。
森井 大輝(アルペンスキー)
村岡 桃佳(アルペンスキー/陸上競技)
芦田 創(陸上競技)
佐藤 圭太(陸上競技)
鈴木 朋樹(陸上競技)
三木 拓也(車いすテニス)
※国内のパラアスリートのみ
text by TEAM A