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カヌー
東京から新種目、パラカヌーの“ヴァー”って何? 諏訪選手に聞きました!
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自然の水を相手に艇を漕ぎ進める競技・カヌー。パラリンピックのカヌーは、静水面に設けられた直線コースで着順を競うスプリント競技で、東京2020パラリンピックでは、リオ大会でも実施されたカヤック種目(コックピット以外のデッキ部分が閉じられたタイプの艇を使用し、両脇にブレードのついたパドルで漕ぐ)に加えて、ヴァー種目(片側に浮力体のついたアウトリガーカヌーを使用)が初お目見えとなる。
そんなヴァーの特徴や見どころについて、国内のヴァーの第一人者で、コーチの資格も持つ諏訪正晃選手に聞いた。
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オリンピックにはないヴァー種目
パラリンピックでは、2016年のリオ大会からカヤック種目が実施されており、200mのスプリントで競う。
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オリンピックは、カヤックとカナディアンカヌー(デッキ部分が広く開いているカヌー)での種目が実施されてるが、ヴァー種目はない。ヴァーは東京大会ではパラリンピックだけで見られる種目なのだ。
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最大の特徴は“艇の安定性”!
ヴァーとはポリネシアの言葉で小舟という意味。片側にアマと呼ばれる浮力体がついている。
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シートの秘密
一般的なパラカヌーにおいて、カヤックは艇の底に近い低い位置に座布団に座るようにして乗り込むが、ヴァ―はイスに腰かけているイメージで座るため、いかに自分のパワーを艇に伝えられるように座るかという工夫も重要になってくる。
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お尻を包み込むようにして形を取った「バケットシート」に座り、さらにベルトなどで艇に身体を固定する人も。
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パラカヌー選手の創意工夫
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パラカヌーの選手は、障がいのクラスにもよるが、体幹や自分の身体を支える足の筋肉が弱いため、それらを補うための用具にも力を注ぐ。
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軽量の選手が水を切って進むには?
“水を切って進む”ために、自分の身体を押しつけるように漕ぎ、艇の先端を安定させることが肝心。先端にかかる力や体重が軽いと艇が浮いてしまうため、乗り込む位置を前にして艇の安定性を高めている。
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パドルはシングルブレード!
ヴァ―は、片側に水かきがついたシングルブレードを使用。片手でグリップを握り、水をとらえて進む。
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パドリングの「技術力」が生命線!
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レースで選手をよく見てみると、パドルを持ち替えずに片方で漕ぐ選手と、左右に持ち替えて漕ぐ選手がいる。スタートだけを考えると、片漕ぎのほうが持ち替えのロスがない分スピードを出せるが、波や風などあらゆる状況にすぐに対応できるのは後者といえそうだ。
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パドリングの技術を高めていかに最短距離を進むことができるか。とにかくヴァ―は奥が深いのだ。
パラリンピックのレースは200m!
ゴール前のデッドヒートもあり、見る者を興奮させるパラリンピックのカヌー。一番でフィニッシュした人が勝ちというシンプルな勝負も魅力だが200mのレースのどんなポイントに注目したらいいのだろうか。
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■教えてくれた人 諏訪正晃(すわ・まさあき)選手
1985年東京都江東区生まれ。高校1年の冬、スキーで転倒して脊髄を損傷。江東区土木部の職員。2014年に河川の改修調査中にカヌーに乗ったことがきっかけで競技に出会い、地元開催の東京パラリンピック出場を見据えて活動をスタート。主な成績は、2016年パラカヌー世界選手権7位など。クラスはVL3。競技外ではNPO法人の代表を務め、ユニバーサルデザインの理念を普及するために、区内小学校などで出前授業も実施する。東京パラリンピック開催をきっかけに、多くの人が地域に目を向ける社会になることを願う。
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text by Asuka Senaga
photo by X-1