-
- 競技
-
ブラインドフットボール
菊島宙のゴールとニュースター誕生に沸いたブラインドサッカー日本選手権
ブラインドサッカーのクラブチーム日本一を決める大会「第18回 アクサブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権」。東京2020パラリンピックに向けた盛り上がりを反映するかのように、今年は、北は北海道から南は沖縄まで史上最多の計22チームが出場。会場は日本選手権初開催となる福島と東京との2ヵ所、大会期間も過去最長の5日間と、昨年を上回る規模での開催となった。
<予選ラウンド1>ニュースター誕生と強豪が敗退する波乱の展開
予選ラウンドは、22チームをA~Eの計5グループに分かれて開催。港区立港南小学校・中学校グラウンド(東京都港区)で行われた予選ラウンド1(6月1~2日)には、A・Bグループが参加した。
2017年よりスタートした運営体制強化を目指すチーム・団体対象のプログラム「アクサ地域リーダープログラムwithブラサカ」の第一期に参加した<琉球Agachi(アガチ)>は、Aグループで出場。<A-pfeile(アフィーレ)広島BFC>相手に1得点を挙げ、初出場初勝利を飾った。
また、このAグループでは大会史上最年少得点記録も飛び出した。<F.C.長野RAINBOW>の平林太一(12歳7ヵ月29日)が琉球Agachiを相手に3本のシュートを決めて見せたのだ。これは第14回大会の菊島宙(埼玉T.Wings)の13歳1ヵ月を約7ヵ月更新する記録で、次世代のエース候補誕生を予感させる活躍ぶりに、会場も大いに沸いた。
2日目には、このAグループで大波乱が起きた。1日目終了時点では、日本代表を多数擁する<たまハッサーズ>が首位だったのだが、2日目、同2位の<buen cambio (ブエンカンビオ)yokohama>がF.C.長野RAINBOWを相手に10得点を記録。勝ち点10でたまハッサーズに並び、得失点差で逆転したのだ。結果、たまハッサーズが敗退。決勝トーナメント準決勝には、free bird mejirodai(Bグループ1位)とbuen cambio yokohama(Aグループ1位)が進出した。
準決勝では、前半7分にbuen cambio yokohamaが和田一文のシュートで先制。しかし、free bird mejirodaiが粘り強く攻め、後半11分と13分にエース鳥居健人がゴール。そのまま逃げ切って2-1でbuen cambio yokohamaを下し、FINALラウンド決勝戦への進出を決めた。
<予選ラウンド2>接戦が続く中、前回王者が敗退……
C・D・Eグループが参加した予選ラウンド2(6月8~9日)は、十六沼公園(福島県福島市)で開催されたが、ここでも波乱の展開が待っていた。
大会2日目の準々決勝で、昨年3位の<埼玉T.Wings>(Eグループ1位)と、大会連覇を狙う<Avanzare(アヴァンツァーレ)つくば>(Dグループ1位)が激突。Avanzareつくばが先制したものの、埼玉T.Wingsが粘りを見せ、試合終了間際に菊島がゴール。1-1に追いつくとPK戦も制し、準決勝に進出した。一方の<兵庫サムライスターズ>(Cグループ1位)と<GLAUBEN FREUND (グラオベンフロイント)TOKYO>(Eグループ2位)も0-0でPK戦にもつれたが、兵庫サムライスターズが勝ち上がった。
埼玉T.Wingsと兵庫サムライスターズによる準決勝では、出身地初開催で地元の期待を背負う加藤健人(福島市出身)の2得点を含む計6得点を挙げた埼玉T.Wingsが勝利し、2年ぶりの決勝進出を決めた。
なお、昨年の同大会最多得点者である埼玉T.Wingsの菊島はグループリーグから準決勝までの5試合で計22点の活躍を見せた。
<FINALラウンド>“決めるべき選手”が期待に応えて大量得点
7月7日にアミノバイタルフィールド(東京都調布市)で行われたFINALラウンドは雨だった。先行して行われたbuen cambio yokohamaと兵庫サムライスターズによる3位決定戦は、初の4強で一丸となる兵庫サムライスターズが元日本代表キャプテン落合啓士のいるbuen cambio yokohama を3-2で破って喜びを爆発させた。
その興奮が冷めやらぬ中で行われた決勝戦。雨具を着けた1079人の観客の度肝の抜いたのは17歳の女子プレーヤーだった。
試合は、高校1年の園部優月の先制ゴールでfree bird mejirodaiが先制。「埼玉T.Wingsが押し切ったところを狙った」(山本夏幹監督)。しかし、前半8分、埼玉T.Wingsの菊島が左サイドからゴールネットを突き刺して同点。その後も、様々な角度、高さからゴールを決めた菊島。足裏でボールを引いてディフェンスの壁をズラし、まるで見えているかのような鮮やかなシュートも披露。最終的に7点を挙げる活躍で、観客の視線を独り占めにした。
ブラインドサッカーの国内大会では晴眼者や弱視者が混ざり合ってプレーするが、筑波大学附属視覚特別支援学校の中学生・高校生とOBを中心にしたfree bird mejirodaiはスターティングメンバー4人が全盲。
そこで、菊島は不規則にボールを止めて音を消すドリブルを駆使。ほかにも相手選手のクセをつくプレーでゴール前にボールを運んだ。
「相手は耳がいいので、そうしないと抜けないから……」
以前は気持ちよく走れたが、今は対策をされるようになったといい、国内のレベル向上も感じている。そんななかでの優勝、最多得点、MVPの3冠。7-1で勝利した試合終了後は、父である監督と手をつなぎ、ジャンプして喜んだ。
そんな菊島をピッチでコントロールし、パスを配球していたのがキャプテンの加藤だ。この日は守備でもチームに貢献。ブラインドサッカー歴15年目で手にした優勝について「あきらめずにやってきてよかった。次は日本代表で結果を残したい」とコメントした。
並みいる強豪チームを抑えた埼玉T.Wingsの初優勝で閉幕した「アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権」。FINALラウンドに進出できなかった強豪はこの日、別会場で練習試合を行っていた。来年への戦いはすでに始まっているようだ。
1位 埼玉T.Wings
2位 free bird mejirodai
3位 兵庫サムライスターズ
4位 buen cambio yokohama
text by TEAM A
photo by Hideto Ide