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東京パラリンピック前年のジャパンパラ陸上競技大会、新人&ベテラン&超人も勝負強さを発揮!
「天皇陛下御即位記念2019ジャパンパラ陸上競技大会」が岐阜県・岐阜メモリアルセンター長良川陸上競技場で7月20、21日に開催された。今大会は国内で開催される今年最後のWPA(ワールドパラアスレティクス)公認大会であり、11月に行われるドバイ2019世界パラ陸上競技選手権大会の代表決定戦でもあった。今回は、東京2020パラリンピック本番を1年後に控え、独特な緊張感に包まれる中で好記録をマークした選手たちを中心に紹介したい。
石田駆「健常の頃の記録を超えたい」
「東京パラリンピックで世界記録を出すのが目標です」
報道陣の前でそう宣言したのは100m、400mの二冠を達成した大学2年生の石田駆(T46/片上肢機能障がいなど)だ。
地元岐阜出身で中学時代に始めた陸上競技で高校総体にも出場。昨年、骨肉腫の手術により左腕に障がいが残った。パラ陸上に出会ったのは半年前。彗星のごとく現れ、400mの日本記録を樹立。今大会は開会式で選手宣誓の大役も担い、「病気を乗り越え、パラ陸上に会えて幸せです」と新たな目標に向かって走り出したところだ。
そんな石田は、100mで11秒18の日本記録を樹立し、日本パラ陸上競技連盟の世界選手権派遣指定記録を突破。本命の400mも49秒89の日本新記録だったものの、49秒70の派遣指定には及ばず。今後の大会で突破を狙うが「健常のときのベスト48秒68を更新する勢いで頑張りたい」。現在も高校時代と同様のスピード練習に重点を置いているといい、“自分越え”の先に、世界記録の47秒69を見据えていた。
高田千明「東京パラまで練習あるのみ」
「今日は、ようござんした!」
大会初日、走り幅跳びを終えた高田千明(T11/視覚障がい)の言葉は滑らかだった。
自らの持つ日本記録が4m49。この日は最低でも、4m51の世界選手権派遣指定記録を跳ばなくてはならない。「後がなくなり、ものすごいストレスを感じていたけど、トレーナーやコーチも来てくれて、安心感のなかで飛べました」。1回目4m53、3回目4m57、4回目で世界ランキング3位相当の4m60を記録。日本記録を大幅に塗り替えるジャンプで土壇場の勝負強さを見せつけた。
2017年の世界選手権では銀メダル。その頃から踏切と空中動作の姿勢を改善しているといい、大森盛一ガイドは「ずっとその練習をしてきてようやく花の蕾がついてきた。花が咲くのは来年でいいが、今年中にもっと膨らませたいから、国内で練習する時間が欲しい」と力を込める。
世界選手権では4位以内に入れば東京パラリンピックの内定を手にできる。早々に切符をつかんで、あとはじっくりと練習に充てるつもりだ。佐々木真菜「最終選考会の記録は自信になる」
記録は58秒08のアジア新。女子400m(T13/視覚障がい)世界選手権派遣指定記録58秒11を最後のチャンスで破り、フィニッシュ後に電光掲示板で確認した佐々木真菜のこわばっていた顔が一気にほころんだ。
「記録が表示されるまでドキドキしました。最終選考会で記録を出せたのはすごく自信になる。(走り終えた後、コーチに声をかけられ)自然と涙が出ました」
プレッシャーと不安もあったが、所属する東邦銀行陸上競技部で健常の先輩たちと同じ練習をこなし、ケガもせずに順調にトレーニングを重ねてきた。「あとは成果を出せばいいだけ」と自分に言い聞かせ、集中してスタートに立ったという。
レースでは、スタートから5歩をしっかり踏み込むことを意識し、序盤で加速させ、後半も粘り強く走った。まだまだ記録は伸びるし、低い位置で腕を振る理想のフォームに近づいてきた手ごたえも感じている。
「高校時代の室内練習ばかりでしたが、今は練習環境もいいので、環境を整えてくれている人たちへの恩返しもしたいし、もっともっと周りを幸せにする選手になりたいです」
伸び盛りの21歳の成長は止まらない。
大矢勇気「自分のレースができた」
後続のライバルを振り切り、17秒54のアジア新記録でフィニッシュ。群雄割拠のT52(車いす)クラスの100mを制し、同時に世界選手権派遣指定記録を切ったのは競技歴13年目の大矢勇気だ。
「重たくて湿気で水分含むトラックは重く感じましたが、先行して逃げ切る得意のスタイルがばっちりハマった。自分のレースができたと思います」
同クラスにはパラリンピックで金2個を含む5個のメダルを獲得している伊藤智也ら実力者がおり、刺激を受けてきた。「尊敬する伊藤さんには中間疾走の漕ぐリズムなどを聞いて参考にさせていただいていますし、ラインなどSNSで皆と情報交換をしています」
ライバルの存在だけではない。ここ数年の急成長を見た所属会社の理解により、練習を週2から5日に増やした。得意のスタートの強化や苦手克服にも取り組んでおり、東京パラリンピックでもメダルを狙う。
「世界選手権はチャレンジャーとして頑張り、アメリカ勢とも戦えるようになりたいです」
自己ベストを狙う注目選手たち
期待の若手も躍動した。6月に4m44のアジア新をマークした走り幅跳びの兎澤朋美(T63/片大腿義足)は、今大会は6回目の跳躍で4m43を記録。100mも16秒42で走り、自らの持つ日本記録に0.01迫る好調ぶり。 「状態はよくないと思っていたが、義足に対するストレスもなくなってきて、ようやく自分の力が出せるようになってきたのかな。でも、100mで自己べストに0.01秒届かず、走り幅跳びも1㎝届かず……今は悔しい思いが募ってきているので、これをバネに11月に向けてしっかり準備していきたいです」
今大会は初の岐阜開催。岐阜盲学校出身の山路竣哉(T12/視覚障がい)は、「観客席に知っている顔が多く、初日の100mは緊張してしまった。2日目の200mは自分のレースの直前にちょうど雨も止んでちょっと地元のパワーが後押ししたのかも(笑) (大会新記録の走りで)いい雰囲気の中で大会を終えることができ、世界選手権で頑張るぞと気合いが入りました」と穏やかな笑顔を浮かべた。
また、車いすは5000m(T54)などで3着までに与えられる世界選手権の出場枠を争ったが、リオパラリンピック日本代表のベテラン樋口政幸が1500m、800m3冠で存在感を示した。
岐阜を沸かせたトップアスリートの競演
また、来年に備えて日本の蒸し暑さに慣れようと海外のトップ選手も多数参戦した。そのうち、リオパラリンピックの金メダリストであるスコット・リードン(オーストラリア)は100m (T63)で他を圧倒して優勝。「切断の選手がたくさん出場していて、楽しく走ることができました」と満足そうに話した。
そして、大会を締めくくったのは男子走り幅跳びだ。昨年に引き続きドイツから来日したリオパラリンピック金メダリストのマルクス・レーム(T64/片下腿義足)が最後の試技で8m38の大ジャンプを見せてスタンドをどよめかせた。
「8m38は、リオデジャネイロオリンピックの金メダリストと同じ記録。オリンピックに出場する夢は実現していないけど、パラリンピアンも頑張っているぞということを伝えられたかな」と話したレーム。「来年の東京パラリンピックでは世界記録更新を目指します」と笑顔で宣言して会場を後にした。
text by Asuka Senaga
photo by X-1