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バドミントン
新しい地図・香取慎吾×パラバドミントン。 「こんなに速く動ける世界がある」
text by Number編集部(Sports Graphic Number)
photograph by Takuya Sugiyama
※本記事はSports Graphic Number との共同企画です。
東京パラリンピックから正式種目となるパラバドミントン。
立位と車いす、異なるカテゴリーにおいて
共にトップレベルで活躍する2人が香取慎吾に語った、
競技の魅力と、あと1年に迫る大舞台への思いとは。
健常者のプレーと遜色がないほどのスピード感と、試合中の駆け引きが魅力のパラバドミントン。立位と車いすのカテゴリーがあり、障がいの程度により立位は4クラス、車いすは2クラスに細かく分類される。
豊田まみ子は初出場の2013年の世界選手権でいきなり優勝し、一躍注目された。ここ数年怪我に悩まされたが、立位のSU5(上肢障がい)クラスのエースの一人だ。一方の小倉理恵は車いすのWH2(体幹の障がいが軽度、もしくはなし)クラスで’15年の世界選手権女子ダブルスで銅メダルを獲得し、日本を引っ張る存在。ともに2020年の活躍が期待されている。
女子の層が分厚く激しい競争に。
香取 東京パラリンピックまで約1年。バドミントンは今回から正式種目になったんですよね。
小倉 今年3月から国際大会などで代表枠争いのポイントレースが始まっていて、緊張感が今までとまったく違います。代表候補の選手たちは、普段はみんな仲良しですが、試合ではライバル。女子は層が厚く、どのクラスにも世界ランク上位の選手がいます。特にダブルスは、1国につき1組しか出られないので、競争が激しいんです。
香取 今日はパラバドミントン代表候補専用の体育館でお話を聞いていますけど、この中にライバルがいるわけですよね。なんかこっちまで気持ちが引き締まります。シングルスも、日本から1人しか出られないんですか。
小倉 いえ、ダブルスで出る人はシングルスも自動的に出場できるという、ちょっと変わったルールなんです。私は女子ダブルスとシングルスでの出場を目指しています。
豊田 私はシングルスです。8月の世界選手権まではミックス(混合)ダブルスにも出場していましたが、一本に絞りました。
香取 立位クラスには、腕に障がいのある上肢障がいの選手だけではなくて、下肢障がい、義足の選手もいますよね。
豊田 ルール上、シングルスで戦うことはないのですが、ダブルスやミックスでは、そうした選手とパートナーとして組むことがあります。
駆け引きがメインで、面白さ。
香取 障がいの箇所が違うと、動き方が違ってくる気がします。
豊田 そうですね。ダブルスでは、広い範囲を素早く動ける上肢障がいの選手が後衛に回り、下肢障がいの選手が前衛でプレーすることが多いです。ミックスの場合は、男性が下肢障がいで女性が上肢障がいの組もあります。相手によって特徴が違いますし、男女のパワーの違いという要素も加わるので、さらに複雑になります。
香取 戦略も難しそうです。パラスポーツって初めて観る競技が多いですが、バドミントンは誰でも子供のころに触れたことがあるから、他の競技よりも、お客さんがとっつきやすいと思います。ルールも健常者と同じですよね。
小倉 まみちゃんのSU5クラスは健常者と同じで、展開が早いので、見ていて純粋に楽しいです。私の車いすのクラスも基本的にルールは同じですが、コートが半面になるので、戦い方が変わってきます。前後の揺さぶり、駆け引きがメインで、そこが面白さでもあります。
香取 車いすバドミントン、体験させてもらいました。とんでもないですね。シャトルが落ちる位置が頭でなんとなくわかっても、急いで車輪を漕いで車いすを動かそうとした時には、もうポトンとコートに落ちている。身体の使い方が凄くて、この難しさは見ているだけではわからない。全然できないですもん。なんというか、悔しい!
小倉 ははは。私も車いすバドミントンを始めた時は、慣れるまでに時間がかかりました。特に車輪を逆回転させて後ろに下がるのが独特ですね。他競技は基本的に前進しかないですから。あと、車いすテニスはツーバウンドまでOKですけど、バドミントンは浮いているうちに打点に入らなきゃいけないので、より素早いチェアワークが求められます。
読みが当たった時は「よし!」
香取 先の展開を読むのも、大事になってくるんじゃないですか?
小倉 私はそこが課題で。だから相手の体勢や位置を見ながら、読みがピッタリ当たった時は「よし!」って思います。でも読みの逆を突かれることも多くて、つねに脳をフル回転することを意識して、練習するようにしています。
香取 豊田さんは左前腕がないことで、身体のバランスを保つために、何か工夫しているんですか。ずっとその状態で生活されてきて、それはそれでバランスが取れている気がするんですけど。
豊田 深い!(笑)。実はそこが意見の分かれるところでもあって。筋力をつけることで元々とれているバランスが崩れる、という見方もあります。私もずっと身体のバランスを意識していませんでした。でもコーチからは、左前腕がない分、健常者に比べると軸がブレやすいと言われます。ずっと右腕だけで生きてきたからか、重心が右寄りで、左脚にあまり力が伝わっていなかったみたいなんです。成長するには筋力トレーニングが必要だと、今は感じています。特に立位の場合は脚力が大事なので、下半身を重点的に。あとはラケットを持たない左腕をもっとプレーに活かしたいので、肩甲骨まわりですね。肘から先がないので、上腕には筋肉がつきづらいんです。
車いすのスピードを強みにして。
香取 先ほどライバルの話もありました。他のプレーヤーと比較して、自分の強みはどこですか?
小倉 車いすのスピードですかね。特に私は20歳のころまでクラッチ(杖)を使って歩いていたからか、もともと肩まわりの筋肉が人より発達していて、その筋力をうまく使えているみたいです。車いすは1回漕げば進んでいきますけど、クラッチは一歩ごとなので、身体への負荷が大きいんです。車いすに初めて乗ったときは、「こんなに速く動ける世界があるんだ!」と驚きました。ただ、そのスピードをまだ試合で活かしきれていないので、もっとプレーに繋げられるようにしたいです。
豊田 小倉さん、めっちゃ速いですよ(笑)。私は2016年からずっと怪我が多かったので、プレーできなかった悔しさや、それを乗り越えた経験が強みになっているのかな。怪我をする前は、すぐに落ち込んでいたけど、今は切り替えが早くなりました。
デビュー日が同じ2人。
香取 2人とも、小さい頃からバドミントンをやっていたんですか。
小倉 私は子どもを2人産んでから競技を始めたので、遅い方です。夫がバドミントンをやっていたのがきっかけでした。それまでは学校の体育くらいしか運動したことがなくて。やっぱり、最初の日本選手権は全く勝てなかったです。その時、負けたのにヘラヘラしているように見えたみたいで、あとから夫にすごく怒られました。確かに、練習中は夫に子どもの面倒をみてもらっていましたし、試合の応援にも家族全員で駆けつけてくれたのに、私が中途半端な気持ちで臨んでいるように見えたんだと思います。それが本格的に取り組むきっかけになって、「結果で返さなきゃ」と意識がすごく変わりました。
香取 厳しい旦那さんですね(笑)。でもそこから日本代表候補にまでなっているのは本当にすごい!
豊田 私は小学校の4年生で健常者のジュニアチームに入って、バドミントンを始めました。初めてパラの大会に参加したのは高校生の時で、積極的に出るようになったのは大学に入ってからです。
小倉 私とまみちゃんはパラバドミントンのデビュー日が一緒なんですよ!
豊田 そう! 仙台でやった日本選手権ですよね。その時、私はまだ健常者の大会メインでやっていました。強豪校で、練習メニューも健常の選手と同じ。なかなかレギュラーにはなれなかったんです。でも普段のトレーニングだけは負けたくなかった。一回だけ、長距離走のトレーニングで一番になりました。
共通点は「負けず嫌い」。
香取 パラアスリートの方はみなさん本当に負けず嫌いですよね! 今まで、たくさんのスポーツ選手にお会いしてきましたけど、「私は負けない」っていう気持ちはパラアスリートの方が強い気がします。負けず嫌いには、障がいが影響していますか?
小倉 していると思います。やっぱりほかの子と比べて、できないこと、負けてしまうことはどうしてもあります。だからこそ、これだけは勝ちたいという思いはあります。
豊田 私は小さい頃から、みんなと同じように生活したくて。小学生の時、先生が片手で吹くことのできるリコーダーをくれたんです。でも私は、それを使いたくなかった。それでみんなと同じリコーダーを吹けるように一生懸命練習して、発表会にも出ました。障がいを乗り越える、とか障がいに克つ、とか表現されますけど、そういう感覚ではなくて。特別扱いをされずに、みんなと同じことをして驚かれたら、凄く達成感があるんです。
負けた試合のほうが得るものが多い。
香取 そこにすごく惹かれるんです。僕は結構、負けてもいいタイプなんですよ(笑)。結構ゆるく生きてきたんだけど、パラアスリートの方のお話に、いつも背中を押されるんです。自分の中に少しだけある「負けたくない」と思っているものに挑戦したくなる。あとはやっぱり、悔しい思いや、苦しかった出来事が人を強くすると思っているんです。2人は自分の負けた試合を、あとから見返しますか?
豊田 特にミックスは試合後の意見のすり合わせが大事になってくるので、負けた試合を重点的に見るようにしています。
小倉 私も負けた試合をしっかり見ます。すごく見たくないんですけど(笑)、勝った試合よりも負けた試合のほうが得るものが多い。「なんでそこに打つの!?」とか突っ込みながら、イライラするんですけど、次の勝ちに繋がるように。
香取 僕も以前は自分の描いた絵を見られなかった。たぶん色々な思いを吐き出して描いていることが多かったんだろうと思います。吐き出したもの、見たくないですよね。だから周りの人に「いいね」と言ってもらえても「何だよ、この絵」みたいな気持ちでした。それが最近、少しずつ見られるようになってきました。
小倉 私も自分のプレーの悪いところばかり目についてしまっていました。でも最近は勝った試合のいいところも見て、ノートに書き出すようにしています。そうしないと緊張感も増してきている中で、どんどん苦しくなってくるので(笑)。香取さんはそういう時、どうやって気分転換しているんですか?
出場したらメダルはほしい!
香取 僕は応援してくれている人に町で声をかけてもらった時に「頑張ろう」と思いますね。
豊田 えっ、意外です!
香取 それが嫌な人もいるかもしれないけど、僕らはやっぱり人に見てもらって、応援してもらわないと、生きていけないんですよ(笑)。皆さんもそうだと思います。だからパラリンピックの会場には人が溢れてほしい!
豊田 そのコートでプレーできるように、今年1年のレースを勝ち抜きたいですし、出場したら絶対にメダルはほしい! でもまずは出場権なので、そこに集中していきたいですね。
小倉 私もメダルが目標です。でもまずは目の前の一戦一戦を大切にしたいです。その先に東京が見えてくると思うので。
香取 なんだか僕も緊張してきました。
小倉理恵 Rie Ogura / Badminton
1986年4月9日、埼玉県生まれ。車いすWH2クラス。先天的に関節の可動域が小さい先天性多発性関節拘縮症。2013年、世界選手権の2種目で銅メダルを獲得。以降、世界大会で多数実績を重ねる。2児の母。
豊田まみ子 Mamiko Toyoda / Badminton
1992年4月11日、福岡県生まれ。立位SU5クラス。先天性の左前腕欠損。2013年、大学3年生で出場した世界選手権で優勝。一躍注目を集める。近年は故障に悩まされたが、今年3月、7カ月ぶり実戦復帰。
香取慎吾 Shingo Katori
1977年、神奈川県生まれ。2017年から現代アーティストとしても精力的に活動。9月15日には「新しい地図」の稲垣吾郎、草なぎ剛とともに『氣志團万博』に出演。10月13日には草なぎ剛と『幕張メッセ×bayfm 30th ANNIVERSARY SPECIAL THANKS PARTY』に出演予定。
本連載は約2カ月に1度の掲載、次回は10月31日発売号の予定です。
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