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車いすラグビー
「車いすラグビーワールドチャレンジ2019」史上最多の観客が目撃した頂点争い
ラグビーワールドカップ開催中の10月16日から20日にかけて“もうひとつの世界大会”「車いすラグビーワールドチャレンジ2019」が東京体育館で行われた。
車いすラグビーの強豪8ヵ国が集結。東京2020パラリンピックと同じ5日間の試合形式で行い、大会結果がIWRF(国際車いすラグビー連盟)の世界ランキングに反映されるとあって多くの参加国が“今年の最大の戦い”と位置づける。すでに東京パラリンピック出場権を手にしている日本(開催国枠)、オーストラリア(世界選手権で開催国の日本を除く最上位)、アメリカ(パンアメリカ枠)、イギリス(ヨーロッパ枠)、ニュージーランド(アジアオセアニア枠)も出場し、東京パラリンピック本番を想定した激しいせめぎ合いを繰り広げた。
東京パラリンピック金メダルのための試金石
日本は昨年の世界選手権優勝国。目指すのはもちろん頂点だ。世界選手権でも活躍した女性プレーヤー倉橋香衣(0.5)がコンディション調整中により不出場。とはいえ、2つのプールに分けられた予選で、オーストラリア、世界ランキング3位のアメリカとは別のAプールに入り、主力を休ませながら準決勝を迎えられる状況にあった。準決勝以降はひとつのプレーが勝敗を分ける緊迫した試合になる。倉橋らで構成するライン<3.0-3.0-2.0-0.5F>を欠く中、他のラインナップでいかに接戦を乗り切ることができるかが見どころだった。
「ホーム開催といういいプレッシャーを感じながらも、世界選手権より成長している姿を見せなければいけない。東京本番に向かう中で試される大会になると思います」
大会前、エース池崎大輔(3.0)はそう語っていたが、終わってみればそれぞれが成長する姿を示しながらも勝負の厳しさを実感する大会になった。
ハイローラインの成長で予選全勝通過!
予選でブラジル、フランスに順当に勝利を収めた日本は、最初の山場イギリス戦を迎えた。世界ランキング4位のイギリスは選手層が厚く、「世界トップ3としか試合を組まず、ビッグチームに対する意識を高めてきた」(ポール・ショーHC)。そんな難敵に対し、池・島川・乗松(聖)・長谷川<3.0-3.0-1.5-0.5>でスタートした日本は接戦を強いられたが、第3ピリオドで池・池崎・今井・若山<3.0-3.0-1.0-1.0>の“ハイローライン”が鮮やかなプレーを披露。素早い切り替えしから若山英史と今井友明がスペースを作り、池と池崎のコンビネーションを演出する、日本らしさを見せたのだ。
ローポインター(※)の2人は語る。
「ローポインターである自分は、ハイポインターのマークを減らしたり、走るスペースを作るのが役割。しっかり深い位置まで戻って走り切ることができた」(若山)
「パスが得意なイギリスがスペースに走り込まないように、しっかりとスペースを埋めることができた」(今井)
銅メダルを獲った2016年のリオパラリンピックで主体だった“ハイローライン”。リオ以降、他のラインにスタメンを譲り、悔しい思いをしてきただろう彼らの言葉は充実感に満ちていた。
※ローポインター:障がいが重く持ち点が低い選手のこと
新戦力も堂々プレー!
もうひとつ今大会の収穫は経験の浅い若手の成長だ。とくに持ち点0.5点の長谷川勇基は、チーム最年長・岸光太郎の控えとして日本代表入りしたが、大会序盤で持ち味のスピードを見せ、大一番のオーストラリア戦でも先発に起用された。9月のアジアオセアニアゾーン選手権で初めてスタメンを経験した際は緊張で体が震えたというが、大舞台にも慣れ、パワーのある3.5点の選手をひとりでピックしてコート上のミスマッチを作る好プレーも披露した。
それでも唇をかみしめ「もっとしっかり止められればトランジション後の展開も楽になる。次は離れないくらいしっかり止めたい」。
前線で相手と競り合うハイポインター、そしてベンチに控える選手のために、静かな闘志をたぎらせる。
準決勝のオーストラリア戦は、スピードのある乗松聖矢(1.5)が相手エースのライリー・バット(3.5)の進路を読んで当たりにいき、体力を消耗させることに成功。さらに日本は、相手の激しいディフェンスによりターンオーバーを奪われてもすぐに取り返す、1年前の世界選手権決勝を思い起こさせる勝利への強い意志も感じさせた。だが、以前からチームの課題としていたキーアタック(4人でトライライン付近を重点的に守る相手から点を取りにいく戦術)は成功せず、「アタックする勇気が足りなかった」と乗松(聖)は悔やむ。試合は1点差で敗れ、「オフェンスの効率性を上げられなかったのはコーチの責任」とケビン・オアーHCも肩を落とした。
翌日の3位決定戦は54-49でイギリスを退け、3位で大会を終えた日本。キャプテンの池透暢(3.0)は「金を獲れなかった気持ちは忘れてはいけない」と複雑な心境を口にしながらも、試合に出ていない選手の献身的な姿勢やスタッフの選手を鼓舞するような声がけが最終戦の勝利とチームの一体感を生んだと明かした。
「日本は層が厚く、素晴らしいチームだ。もっと対策を練らなければならない」。敗れたイギリスのエース、ジム・ロバーツ(3.0)も日本チームを称えた。
日本選手たちもコートサイドで見守った決勝は59-51でアメリカがオーストラリアを退け、栄冠を手にした。
35,700人が生観戦!
今大会は5日間を通してパラスポーツでは記録的な来場者数となる35,700人が観戦に訪れ、車いすラグビーの迫力と奥深さに触れた。日本戦のない平日の時間帯も小中学生が詰めかけ、手作りの国旗を揺らし選手を名前で応援した。会場を埋めたのは、子どもだけではない。桜のジャージを着たラグビーファンなど初観戦の人も多く、週末は有料席のチケットも完売。金曜の夜はキッチンカーで販売されたビールも売り切れになるなど、パラスポーツをスポーツとして楽しむ新しい光景が広がっていた。
1位 アメリカ
2位 オーストラリア
3位 日本
4位 イギリス
5位 カナダ
6位 フランス
7位 ニュージーランド
8位 ブラジル
※カッコ内は、障がいの種類やレベルによって分けられた持ち点。
text by Asuka Senaga
photo by X-1