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車いすテニス
車いすテニス・選手の声を活かして準備着々。東京2020大会テストイベント開催
日本テニス協会(JTA)が主催する「三菱全日本テニス選手権 94th」が10月26日~11月3日にかけて東京都江東区・有明コロシアムおよび有明テニスの森公園コートで開催中だ。
本大会は東京2020大会テストイベントに位置づけられており、大会の序盤、車いすテニスのエキシビジョンマッチも実施された。
上地&大谷、新装した有明コロシアムで感じた来年への特別な思い
男女1セットのみ行われた車いすテニスは、まず女子シングルスで世界ランキング2位の上地結衣が登場し、国内ランキング2位で伸び盛りの大谷桃子を6-3で下した。
朝9時30分スタートのエキシビジョンマッチで観客はまばら。それでも上地は拍手で迎えられ、「思っていたよりお客さんが入っていたし、久しぶりの有明ということもあって少し緊張しました」と明かす。上地がすでに出場の内定を手にしている東京2020パラリンピックでは、センターコートとして使用される有明コロシアム。通常の大会のコートと比べ、ベースラインの後ろや横にスペースがあり動ける範囲が広い。この日は、上地にとって新装された有明コロシアムで初めての試合で「広いと対戦相手も遠く感じる。距離感とサーフェスの感触を見たいなと思っていました」と話した。
序盤は、大谷に押され気味だったものの、前へ攻める姿勢こそ上地の持ち味。広いコートの中を巧みなチェアスキルで縦横無尽に走り回ってリズムをつかむと、強化中というドライブボレーも試しながらコートの感覚を入念に確かめた。
「有明コロシアムのほかにアリーナ(ショーコート1)でも練習させていただき、貴重な機会を得られました。これから東京パラリンピックが近づいていきますが、焦らずに自分のやるべきことにしっかりと向き合い、本番のときを迎えたいと思います」
一方の大谷は、小3からテニスを始め、高校時代はインターハイにも出場しているが、本格的な車いすテニス歴は3年余り。上地と対戦できるテストイベントを自らの成長具合を知る好機と捉え、パワーのあるフォアで上地を崩そうと意欲的にプレーした。
「上地選手とは久々の対戦なので、すごく楽しみにしていました。取り組んできた(弾む球を有効に使う)攻撃で入りはうまくいったけれど、自分が『決めた!』と思った球も追いつかれてしまい……。走ってつなげられる相手に対し、自分のほうが先にミスをしてしまう。ミスをせずに長く続けるというのも今後の課題ですね」
目標とする上地と本番会場で対峙し、「自分もパラリンピックに出場したい強い思いが芽生えました」。新たな決意を口にした大谷は、明るい表情で会場を後にした。
国枝&三木、本番に向けてさらなる使いやすさを期待!
28日の第5試合に行われた男子シングルスは、国枝慎吾と三木拓也のカード。6-1で先輩格の国枝が圧倒し、勝利した。
国枝は10月、楽天オープンにも登場したが、改修された有明コロシアムでの試合はこの日が初めて。車いすの操作のしやすさなども確認し、試合後の会見では「他の会場と同じような感覚でプレーできました」とコメントした。
パラリンピック2大会出場の三木も「新しいコートなのでボールは跳ねるが、車いすを操作する上で重く感じることもなく、動きやすかった」と好感触。
しかし、国枝はコートの位置に張り出しているスコアボードについてコメントを求められ、「今日のプレーには影響なかったが、ダブルスでは後ろに下がる場合も多いのでぶつかる選手もいると思う」と厳しい表情を見せる場面も。
また改修前から問題になっていた選手の動線について、スロープは増えたものの、いまだ改善されていない。アスリートラウンジから、階段を使用せずにコートに入るには遠回りを強いられる。トイレの場所も遠い。
「トイレットブレイクを挟もうとすると往復の時間がかなりかかるので、そこを改善してもらいたい」と三木が言えば、国枝も「先々のことを考えると、ラウンジからスムーズにコートに入れるように階段にリフトをつけるとよかったのでは」と東京パラリンピック以降を見据えて言及した。
選手らの言葉を受け、東京2020組織委員会・森泰夫大会運営局次長は言う。
「センターコートに入るスロープの角度がすこしきついのではという話などをいただいた。様々な意見あると思うが、関係各所と協議をしながらよりよい運営ができるよう進めていきたい」
加えて、国際テニス連盟のクリス・デント シニアエグゼクティブディレクターは、「テストイベントの結果を全体的に見て来年に向けて検証していく」と話すにとどまった。
一方、1987年に作られた有明コロシアムの改修はバリアフリー化が進んだのも事実。新設された正面階段には2台のエレベーターが取り付けられた。各フロアに多目的トイレが作られ、スタンドにも最大100席の車いす用スペースが設けられた。
観戦用の車いすスペースは分散されており、応援に訪れていた車いすユーザーの男性は「車いす席が多くなり、自分で見やすい場所を選べるのはうれしい」と声を弾ませる。
また、コート全体が見やすいように前方にせり出した車いすスペースもあり「すごく臨場感のある席なので、ぜひ車いすの方にも見に来ていただきたい」と上地は語り、東京パラリンピックの盛り上がりを期待していた。
text by Asuka Senaga
photo by Yoshio Kato