スウェーデンに学ぶ、幼児教育の最前線「インクルーシブ教育」
教育の先進地域と注目を浴びる北欧。中でも、福祉の国として知られるスウェーデンでは、最初の教育の場である、就学前学校に力を入れています。そこで行われているのが、人種の違いや障がいの有無などにかかわらず、あらゆる子どもたちが、可能な限り、生活をともにし、遊び、学ぶ、インクルーシブ教育。福祉の国を支えていく子どもたちを育てるスウェーデンの幼児教育には、これからの多様化する未来を生き抜く子どもたちに必要な学びがたくさんあります。そこで今回は、“平等”をキーワードに、現地スウェーデンより幼児教育の最前線をご紹介します。
1歳児の約50%が通う、スウェーデンの就学前学校とは?
幼稚園や保育園、子ども園といった種類はなく、日本と比べるとすっきりしているスウェーデンの幼児教育。公立もしくは私立の「förskola(フォースクーラ)」と呼ばれる就学前学校に、1歳半くらいから通い始めるのが最も一般的で、親の勤務時間に合わせて、朝6時半から夕方18時まで子どもを預けることができます。
就学前学校には、早くて1歳から通うことができますが、統計では1歳児の約50%、2歳になると約85%の子どもが通っています。そんなスウェーデンの就学前学校では、人種も様々、障がいがない子もある子も一緒に過ごすのが基本で、国内で最もインクルーシブ教育が進んでいる年代だといわれています。
年齢にもこだわらず、子ども一人一人の多様なニーズに合った教育
スウェーデンの就学前学校では、年齢区分に「Småbarn(スモーバーン)」と呼ばれる1歳から3歳位までの子どもの組と、「Storabarn(ストーラバーン)」と呼ばれる3歳から5歳の子どもの組に分かれている場合がほとんど。小さい頃は成長にばらつきがあることが珍しくないので、年齢できっちり分けるのではなく、子どもの成長の様子を見ながら、前者は子ども13~15名で1クラス、後者は16~18名で1クラスになっています。
各クラスには、幼稚園教諭か保育士の資格をもった職員が3名配置され、障がいがある子どもが在籍している場合には、さらにアシスタントが配置されたり、専門職員が関わっていたりします。
難民を多く受け入れているスウェーデンでは、様々な目や肌の色、異なった母語を話す子どもがクラスにいることも普通。多様なニーズを持った子どもたちがともに1日を過ごし、遊び、学ぶ場に「決まった形」があるのではなく、子どものニーズに合わせ、クラスに障がいのある子どもが1名もしくは、数名いる場合もあれば、障がいのある子どもたちのクラスが園の中にあり、日中の決まった時間に交流が行われている園もあります。
1歳から学ぶ「民主主義と平等、公平さ」
スウェーデンの就学前学校は、日本の文部科学省に類似する「Skolverket(スクールヴァルケット)」が一括して担当しており、国内どこの就学前学校でも、同じカリキュラムで運営されています。国の将来を担っていく子どもたちが、同じ理念を通して1歳から保育と教育を受けているということは、世界的に見ても、とてもユニーク。そこで、徹底して教えられているのが、民主主義の基礎と人間の価値の平等さです。
どの国の出身でどの言葉を家で話していても、障がいがあってもなくても、自分にも、周りの友達にもみんな平等に、同じ人としての価値があるということを、最初の教育を受ける場である就学前学校で、スウェーデンの子どもたちは学ぶのです。
また、就学前学校の教育は「遊びの中で学ぶこと」が重要であり、そこで、行われる職員による観察もポイント。スウェーデン語が十分に話せない子も、障がいのある子も、学びがいっぱいの遊びの中だからこそ、自然とみんなと一緒に過ごすことができ、互いの人としての価値を認め合いながら、学べる環境がそこにはあります。
1年を通して学ぶ、スウェーデンのユニークな「平等計画」って?
就学前学校で学んだ民主主義の基礎と平等の大切さは、小学校へと受け継がれていきます。スウェーデンの義務教育は、6歳から10年間。各学校には、平等にお互いを扱うプラン「Likabehandlingsplan(リーカべハンドリングスプラン)」の設置が義務付けられています。
このプランは、いじめや差別など何かしらの問題が起こってから使うだけのプランではなく、年間を通じて差別の元となりやすいとされている、性別、年齢、LGBT、人種、障がいについて計画的に学ぶ、予防対策も含んだ内容となっているのが特徴。
例えば、10月24日の「国連の日」に合わせて、子どもの権利週間を設け、子どもの権利について学んだり、スウェーデンの少数民族であるサーメ族の日である2月6日に合わせて、民族について学んだりと、年間を通じて常にダイバーシティ(多様性)に目を向けることにより、自分と、周りのすべての人に同じ価値があり、平等であるということを子どもたちは、じっくりと、自然に学んでいきます。言葉で平等というのは簡単でも、実践していくことは簡単なことではないので、こうした教育の場を計画的に持ち、日々学んでいくことが重要なのでしょう。
昨今、世界的にも重要なキーワードとして注目されている「ダイバーシティ(多様性)」。あらゆる人々とのコミュニケーションスキルは、これからますます必要となっていく時代だからこそ、スウェーデンの就学前学校での平等、民主主義を基盤として徹底して行われているインクルーシブ教育には注目したいもの。その教育には、幸せな国ランキングで上位に挙がってくる国ならではの秘密があるのではないでしょうか。
<ライター:サリネンれい子>
スウェーデンの特別支援学校で特別教員兼ヘッドティーチャーとして働く傍ら、大学院でも特別支援教育について研究中。人間の権利と平等を軸に福祉、保育、教育を伝えている。
text by Reiko Sallinen(Parasapo Lab)
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