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知的障がい者卓球のチャンピオンリーグ・男子エースの復活Vと女子大混戦の結末は!?
11月30日、12月1日、2020年を占う“真の日本一決定戦” 「2019FIDジャパン・チャンピオンリーグ卓球大会」が横浜市平沼記念体育館で開催され、男子はリオパラリンピック日本代表の竹守彪が6年ぶり2度目の優勝、女子は大混戦を美遠さゆりが2年連続で制した。
全勝優勝の竹守「東京に向けてどんどん前に行く」
このチャンピオンリーグ大会は、総当たりリーグで知的障がい者卓球の日本一を決める国内最高峰の戦い。毎年6月に開催されているチャンピオンシップ大会で男子ベスト12、女子ベスト8に勝ち残った選手により、例年ハイレベルな頂上決戦が繰り広げられている。
さらに今年は、2020年幕開け直前の開催。代表クラスは層の厚さを増し、東京パラリンピック出場切符獲得への士気も高まっていた。
「ベテランも若手も伸びている。そのなかで『優勝するんだ』という気持ちで挑んだ」
そう語気を強めて語ったのは、ダイナミックなプレーが目を引く26歳の竹守彪だ。リオパラリンピック代表であり男子エースとして日本代表を引っ張ってきた。2013年にチャンピオンリーグで優勝して以来、加藤耕也や浅野俊の台頭などで王座から遠ざかっていただけに、チャンピオンリーグにかける思いは強かった。
2日間で11試合を戦うチャンピオンリーグはスタミナも求められる。竹守は、自宅から練習場まで走ったり、30分のジョギングを1時間に増やしたりするなどの準備をして大会を迎えた。
初日は前回優勝の加藤をフルセットで下して7戦全勝でつなげると、大会2日間目も勝ち続けた。そして迎えた最終戦、相手は6月のチャンピオンシップ大会の決勝で敗れている浅野。互いにここまで全勝で勝ったほうが優勝だ。
立ち上がりは、落ち着いていた浅野に対し、「焦りでミスが多く出てしまった」と竹守。防戦一方になり、8-11で1セットを奪われると、続く2セット目も落とした。
だが、ここからが見せ場だった。竹守の頭をよぎったのはこの一年、東京パラリンピックにつながるポイント獲得のために多く転戦した海外で味わった悔しさだ。
「海外では大量リードから負けたり、なかなか決勝に進めず壁にぶつかったりするなど、苦しい思いをたくさん経験した。卓球に自信がなくなった時期もあった。あんなに悔しい思いはもうしたくない。思い切ってプレーしよう」
ピンチで開き直ることができた竹守は、サーブのフォームを変化させて相手を崩し、試合の主導権を手繰り寄せると、力強いスイングで得点を重ねていった。
竹守は振り返る。
「前陣で攻めようという気持ちでサーブから3、4球目で仕留めることを意識しました。今回は、健常者顔負けのダイナミックな卓球をしなければ負けてしまう。どんなときでも拾って返し、ロビングやブロックなどもすべてできる『これがオールラウンダーだ!』というのを見せたいと考えてプレーしました」
そんな竹守に押し込まれるかのようにポジションが台から離れ、自分らしい攻撃を失った浅野は、「相手を乗せてしまい、(知らず知らずのうちに)下がりすぎてしまいました……」と唇を噛み、「3セット目の出だしが悪く、相手に自信を持たせてしまい、自分は単純な卓球になってしまった」と戦術を変えられなかったことを反省した。
それでも、最終セットは粘りを見せ、「以前だったら諦めていた場面も、東京パラリンピックに出られるかもしれないので、負けられないぞと思えた」と浅野。世界で戦うことで変化した強い気持ちをのぞかせた。
しかし、逆転した竹守の勢いは最後まで止まらない。最終的に浅野のガードミスが響き、セットカウント3-2で直接対決を制した竹守が全身で優勝の喜びを表した。
「やっと優勝できたという思いで(気持ちが)解放された。全勝優勝は初めて。東京に向けてどんどん前に行こうという気持ちになりました」
竹守は、世界ランキング8位。東京パラリンピックの出場権は、2020年3月 31日付の 世界ランキング上位選手に与えられ、ひとつの国や地域からは最大3名しか出場できない。
「日本選手では加藤選手のほうが自分より世界ランキングが上。危機感はある。国際大会では、つらいときや泣きたくてやばいってときもあるけど、(東京パラリンピックに向けて)さらに進化するぞという思いでやっていきたいです」
世界での戦いを見据える竹守の挑戦は続く。
混戦を制した美遠「あきらめずにポイント稼ぐ」
女子は、最後の1試合を残し、7度の優勝を誇るベテラン伊藤槙紀、世界ランキング5位で日本人最上位の古川佳奈美、昨年優勝の美遠さゆり、昨年準優勝の川崎歩実の4人が4勝で並ぶ大混戦に。
そんななか注目が集まったのは、美遠と伊藤の一戦だ。回転をかけたボールを両ハンドで打ち分ける美遠に対し、ツブ高ラバーを使用してバックハンドで独特な返球をする伊藤。6月のチャンピオンシップ大会決勝では伊藤が勝利したため、美遠は「苦手意識はないが、緊張していた」と話したが、それでも終始自分のペースで試合を進めてセットカウント3-1で優勝を決める試合を制した。
他のトップ選手と同じく、東京パラリンピック出場枠獲得を目指す。現在、世界ランキングは10位で岐路に立たされているが、女子は5位から11位までのランキングポイントが僅差であり、出場枠の行方は最後まで分からない。
「海外では自分のフォームが崩れてしまうと、普段指導してもらっているコーチがいないこともあり、それを戻すのが難しくて納得のいく試合ができなかった。年明けからの国際大会はコーチにも帯同をお願いしているところ。東京パラリンピック出場を目指してあきらめずにポイントを稼いでいきたいです」
この日優勝した自信を国際大会につなげていく。
国内トップ層の底上げに手ごたえ
オープンリーグは、男子は出場93選手を14グループに分けた予選、女子は30選手を5グループに分けた予選のあと、決勝トーナメントを行い、優勝者を決める。
男子は21歳の吉川碧人が優勝。「ガムシャラに向かっていくことができた」と充実の表情を浮かべて語った。2024年のパリパラリンピックを睨み、来年こそはチャンピオンシップ大会でベスト12に入り、チャンピオンリーグ大会に駒を進めたいという。
日本知的障がい者卓球連盟の鈴木一強化部長は、「東京パラリンピックという目標に向かって、それぞれがハードな練習をしていることが選手層の底上げにつながっている」と喜び、「以前と違って各母体のコーチが指導する選手たちの国際大会に帯同することも奨励しており、指導者の意識が上がったこともレベルアップのひとつの要因になっているのではないか」と分析していた。
※世界ランキングは12月1日付け。
男子:1位 竹守彪 2位 浅野俊 3位 高橋利也
女子:1位 美遠さゆり 2位 古川佳奈美 3位 伊藤槙紀
男子オープン:1位 吉川碧人 2位 原一 3位 谷地田想
女子オープン:1位 太田歩美 2位木村はるみ 3位 山本美貴子
text by Asuka Senaga
photo by Yuki Okada