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卓球
日本一決定戦・国際クラス別パラ卓球選手権、東京パラリンピック有力候補と若手が躍動!
第11回目を迎える肢体不自由者卓球の国内最高峰「国際クラス別パラ卓球選手権」は、11月30日から12月1日まで、大阪市・舞洲障がい者スポーツセンターで開催された。2020年の国際大会派遣の選考大会となっており、選手の過密スケジュールを考慮し今年はシングルスのみを実施。東京2020パラリンピックの有力出場候補が躍動した一方で、若手の台頭も目立った。
エース岩渕幸洋は3連覇!
国際大会に出場している選手の多くは、2020年3月31日付世界ランキングの上位者に与えられる東京パラリンピックの出場権獲得を目指している。クラス9で世界ランキング2位を確保し、東京パラリンピックへの出場が濃厚な岩渕幸洋は、予選リーグから決勝までの5試合を1ゲームも落とさず3連覇5度目の優勝を飾った。
山場は2016年に岩渕の3連覇を阻んだ鈴木伸幸との対戦。日本代表を退くことを表明している盟友との対戦は「寂しい」という思いを抱えていたが、勝ちへの執着は決して失わず、ストレート勝ち。続く決勝も中島拓哉に付け入る隙を与えなかった。
東京パラリンピックでの目標は「金メダル以上」と公言している日本のエースは、勝ち方にもこだわっていた。「僕は得意な攻撃的なサーブを温存して戦いました」。ここには、本番で宝刀は多用せず、勝負所だけで使いたい、そのためには他のプレーの幅を広げておきたいという岩渕の貪欲さが隠れる。
「全体的には、相手に打たせたあとブロックして展開するプレーができたのがよかった」と振り返った24歳の言葉には、出場だけで終わったリオパラリンピックからの飛躍を望む強い決意が漂っていた。
レベルの高いクラス7は井上全悠が優勝
クラス7では世界ランキング7位の八木克勝が2位に留まった。決勝で長年のライバルを退けたのは、昨年の覇者・井上全悠。「日本一を決める思い入れのある大会。連覇できてうれしい」と笑顔を見せた。
より実戦感覚が研ぎ澄まされた井上の勝利だった。世界ランキング19位の井上は、東京パラリンピック行きの切符を確実に手にするため、世界を転戦し続けている。一方、すでに東京パラリンピックの出場が見込まれている八木は、「いまは世界を回るより、来年のためにじっくりと力をつけたい」と、ここ3ヵ月は、日本に留まって練習に集中し、パラ卓球の試合からは離れていた。
そこに差が出た。八木を一目見て「いろいろトライされていることが、すぐわかりました」という井上だったが、決して焦ることはなく、「自分のやることは変わらない」と気持ちをブラさず、攻めに徹した。途中、1ゲームを奪われはしたが、最後の1球もひるまず強気のサービスを出し、ウイニングポイントを奪った。
勝った井上は、「(東京の出場権が決まる)3月末までに、なんとか世界ランキングを10位以内に上げたい。ポイント配分の高い大会で優勝すれば、一気に上がるはず」と世界ランキングによる枠で東京パラリンピックへ出場したい思いを明かした。
一方、敗れた八木は「井上選手は遠征に出続けていて、仕上がっている状態だったのに対し、僕の完成度は6~7割程度。そんななかで、1ゲームをとれたのはよかったほう。結果は納得している」とさっぱりとした表情で語った。東京でメダルを獲得するため「これからももがき続ける」とその視線を高みに向けていた。
東京パラ出場候補たちが頂点へ
東京パラリンピック行き切符の獲得を目指して戦っている日本代表メンバーでは、垣田斉明(クラス10)、茶田ゆきみ(クラス3)、友野有理(クラス8)、リオパラリンピック日本代表の別所キミヱ(クラス5)も順当に優勝を飾った。
「前身大会も合わせると、もう何回優勝したか分からない……」と首を傾げた71歳の別所は、1ゲームを奪われた決勝を振り返り、「どんな形でも勝たなければいけないという使命で勝てましたが、試合内容は不満足。いかに相手をいなすか、という私の卓球ができなかった」と反省しきりだった。
現在、世界ランキングは8位で、東京出場はボーダーライン上にいる。この1年は不遇な交通事故や病が重なり、世界ランキングを上げられなかった。それだけに「頑張ってと言われるけど道は険しい」。来年1月以降はポイントを稼ぎやすい大会に遠征し、5回目のパラリンピック出場権を取りに行くつもりだ。「結果は、神のみぞ、知るです」(別所)。
今春、日体大に進学した19歳の友野有理は、決勝戦で昨年の覇者・廣兼めぐみに勝ち、前回2位から前進した。
友野もまた東京パラリンピックに出場できるか否かの微妙な位置にいる。世界ランキングは10位。「3月末までに出場する4大会で、全部メダルをとるくらいでないと出場はかなり厳しい。しばらくは国内でじっくり練習して、来年の大会でその成果を出したい」と、最後まで挑戦し続けることを明かした。
ニューフェイスが続々と登場
今大会ではパリ世代の奮闘も目立った。クラス6の七野一輝は1998年生まれの21歳。「連覇へのプレッシャーがめちゃくちゃあった」なかで3連覇を果たし、さらに初めて1ゲームも落とさず頂点へ立てたことを喜んだ。
ひざ下の感覚がない七野は、左手で握る杖で体を支え、右手でラケットを握ってプレーする。それだけに大きく動かされると戦況が悪くなるが、今大会では動かされる前に球に緩急つけ、球足の長さを変えることで相手を先に揺さぶり、有利な展開を作っていった。
世界ランキングは22位。「現実、ランキング枠で行くなら東京は難しい」というが、「可能性はゼロでないので、あきらめずにやっていきたい」と顔を引き締めていた。
さらにビッグネームを倒して頭角を現したのは、17歳の北川雄一朗(クラス3)だ。リオパラリンピック日本代表のベテラン吉田信一に挑戦した決勝戦は、「まさか」のファイナル勝ち。「去年はベスト16だったので、目標はベスト4だったんです」と目を丸くした北川は、「柔らかいラバーに変え、ゆっくりでもコースを狙えるようになったのがよかったのかな」と語り、「パリに向かって練習を頑張りたい」と初々しく笑った。
クラス2を制した宇野正則もまた今後、活躍しそうなニューフェイスだ。今大会への出場が3回目という37歳は、準決勝で日本代表の皆見信博をファイナルゲームで撃破。続く松尾充浩との決勝戦もファイナルゲームで、11オールから2連続得点して死闘に決着をつけた。
「皆見さんに勝つつもりで練習してきました。決勝の相手は普段からよく知っているのでやりにくかったですが、念願がかなってうれしい」
車いすツインバスケットボール歴が10年で、チェアワークには自信があると胸を張る。スタートは決して早くはないが、緊迫する連戦を乗り越え、その可能性はしっかりと示した。
※世界ランキングは12月1日付け。
【第11回国際クラス別パラ卓球選手権大会 リザルト】
【男子】
クラス1:1位 原正幸/2位 中市秀哉/3位 谷口智広
クラス2:1位 宇野正則/2位 松尾充浩/3位 皆見信博
クラス3:1位 北川雄一朗/2位 吉田信一/3位 佐藤幸広
クラス4:1位 齊藤元希/2位 坂﨑浩樹/3位 長島秀明
クラス5:1位 中本亨/2位 土井健太郎/3位 杉内博幸
クラス6:1位 七野一輝/2位 熊石克彦/3位 板井淳記
クラス7:1位 井上全悠/2位 八木克勝/3位 金子和也
クラス8:1位 武田宣久/2位 玉井英雄/3位 立石アルファ裕一
クラス9:1位 岩渕幸洋/2位 中島拓哉/3位 鈴木伸幸
クラス10:1位 垣田斉明/2位 川崎祥平/3位 高礒泰久
【女子】
クラス2:1位 西村亜佑子/2位 小澤摩由美/3位 富田百合子
クラス3:1位 茶田ゆきみ/2位 藤原佐登子/3位 今井八重子
クラス4:1位 吉海美代子/2位 石橋栄/3位 須藤泰子
クラス5:1位 別所キミヱ/2位 渡部真理子/3位 岩隈美穂
クラス6-7:1位 藤本けい子/2位 曽我美枝子/3位 滝藤美子
クラス8:1位 友野有理/2位 廣兼めぐみ/3位 芝内篤子
クラス9:1位 石川恵子/2位 石河恵美/3位 飯島玲子
クラス10S:1位 青木佑季/2位 工藤恭子/3位 鈴木玉乃
text by Yoshimi Suzuki
photo by Ryo Sato