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車いすバスケットボール
車いすバスケットボール、激化するアジアの頂点争いで正念場を迎えた男女日本代表
車いすバスケットボールの東京2020パラリンピック予選を兼ねた「2019アジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)」が11月29日から12月7日、タイ・パタヤで開催された。
男子12ヵ国、女子8ヵ国が出場。東京パラリンピックの開催国枠ですでに出場権を手にしている日本は、メダル獲得を目標とする本番を視野に入れた重要な大会と位置付けて臨んだ。“今年最大の戦い”が日本代表にもたらしたものとは――選手や指揮官の言葉とともに振り返りたい。
4位の男子代表、東京パラリンピックでは勝ち続けるチームに!
男子日本代表は、2018年の世界4強であるオーストラリアとイランを下して予選1位通過で準決勝に進出した。だが、準決勝では予選で唯一敗れた宿敵・韓国に再び敗れ、続く3位決定戦でもイランに屈した。
「あともう一歩」。キャプテン豊島英の目は、悔しい連敗の直後も決してうつむかずしっかりと前を捉えていた。
準決勝の韓国戦は、予選時のプレスを中心としたディフェンスではなく、引いて守るシステムに変え、相手エースの爆発的な得点力を封じようとした。「前半は互角に試合が進み、後半が勝負になった。後半に入って日本は一度は韓国に流れを持っていかれたけれど、もう一度自分たちの流れに引き寄せることができた。その後、相手エースのキム・ドンヒョンにボールが集まり始めてから、コミュニケーション不足で細かいミスが生まれ、それが最終的に負けにつながったと思う。連携の精度はまだまだ上げなくてはならないけれど、すごく難しいとは感じなかった」
目指すバスケットを追求した先に勝利がある。最終順位は4位と沈んだが、強豪に勝つことで日本代表は自信をつけているのも事実だ。
エース香西宏昭は振り返る。
「予選でオーストラリアにいい形で勝利し、チームにはこのまま優勝するのではないかという勢いがあった。でも、強豪のオーストラリアに勝てる力はあるけど、韓国に負けてイランにも負けてしまう不安定さは残っている。それが何なのかは(試合終了時点で)消化しきれていないけど、僕たちの戦略に力で対抗してきたチームも、戦略を練って向かってくるようになったし、相手に研究されているなと感じる」
香西は続ける。
「日本は世界の3、4番の力はあると思うし、東京パラリンピックでメダルを獲れる位置にいると思う。でも、対策を練られると打開する力がないというのもわかったし、ここで12人が経験を積めたのは東京に向けてすごく大きなことだった。東京までもう公式戦はなくなってしまったので、僕たちは死に物狂いで準備しなくてはならない。フィジカルもメンタルも、戦略戦術、個人スキル、チームの合わせ……すべてステップアップしなくてはならないだろうなと」
死に物狂い――リオパラリンピックで9位に終わった悔しさを痛いほど知る香西の言葉には、東京パラリンピックで必ずや上位に食い込みたいという強い覚悟を感じさせた。
一方、コート上でのたくましさを増したのはチーム最年少19歳の赤石竜我。3位決定戦でもスターティングラインナップを構成し、献身的なディフェンスを発揮した。
「2018年のアジアパラはデビュー戦ということもあり、混乱してしまうことがあったけど、コート上で冷静に判断することができるようになったし、それによってディフェンス面で味方とのコミュニケーションも取りやすくなった。これからはもっと味方から信頼を得ることでパスを出してもらえるような選手に成長したい」
最終戦で敗れ、3位を逃した危機感もある。パリパラリンピックのアジア枠が「3」だとしたら、4位は出場枠を逃す順位だ。
「準決勝後に負けを引きずって気持ちがなかなか切り替えられなかったのは大きな反省点。もしそれがパフォーマンスや結果に影響してしまったとしたら僕のせいになる。重く受け止めている」
今大会で男子は開催国枠の日本に加え、オーストラリア、韓国、イランが東京パラリンピックの出場権を手にした。
3位の女子日本代表、厳しい状況は続く
女子は2つのディビジョンに分けて行われ、ディビジョン1の日本はオーストラリア、中国との3ヵ国で2回総当たりの予選を行った。
2011年のロンドンパラリンピック最終予選でパラリンピックの出場権を逃して以降、暗黒時代が続く女子日本代表は、自国開催の東京パラリンピックをきっかけに再浮上を狙う。しかし、そのためには強豪オーストラリアと2018年世界選手権4位の中国を破らなければならないが、その2ヵ国を相手に結果は予選全敗。準決勝もオーストラリアに37-49で黒星を喫し、決勝進出はならなかった。
敗れた準決勝を振り返り、萩野真世は言う。
「序盤リードしていた分、勝ち切れなかったのが悔しい。前半は(日本の持ち味である)トランディションでいい流れを作ることができた。一方で後半、相手に対応されたときに自分たちのバスケットを継続できなかったことが敗因」
決勝進出を逃した落胆からチームは奮い立ち翌日、日本は3位決定戦で格下タイに圧勝した。だが、そんな中でもショットの成功率の低さが浮き彫りになったとキャプテンの藤井郁美は話す。
「プレッシャーのない状態のゴール下のショットを外しているうちはダメ。タフなショットもねじ込んでいかなきゃいけないし、どんな相手でも決められる力をつけなければ。
今大会を振り返り、ひと言で表わすと悔しい大会になったが、ここはゴールではない。ディフェンスではハーフコートでもオールコートでも中国とオーストラリアを苦しめることができた。2020年に向けてここからあとは自分たちで成長していくしかない」
では、日本はどんなところを強化していく必要があるのか。岩佐義明HCは改めて日本の課題を挙げる。
「1年かけて取り組んできた張り出したディフェンスは機能してきたと感じたが、やはりオフェンス、とくに勝負どころのシュート力が課題。(準決勝で逆転負けを喫したが)このレベルの試合で勝てないと東京パラリンピックのメダルはない。選手は泣いている暇はない。シューター軍団を作らなければ。ゲームメイクできる選手の養成と全体の底上げをしながら、車いすのスピードとシュートやパスのスピードをさらに磨き、強いチームを作ります」
いよいよ選手たちがターゲットとする2020年の幕が開かれようとしている。香西が話したように「本当の戦いはここから」。東京パラリンピックでは今よりもう一段階強くなった日本代表が強豪国と肩を並べ激しいつば競り合いを繰り広げるだろう。群雄割拠の様相を呈する車いすバスケットの頂点争いからますます目が離せない。
男子:
1位 オーストラリア
2位 韓国
3位 イラン
4位 日本
5位 タイ
6位 中国
7位 マレーシア
8位 サウジアラビア
女子:
1位 中国
2位 オーストラリア
3位 日本
4位 タイ
text by Asuka Senaga
photo by X-1