パワーリフティング・東京パラリンピックをかけた勝負は終盤。全日本も熱き戦いに

パワーリフティング・東京パラリンピックをかけた勝負は終盤。全日本も熱き戦いに
2020.02.06.THU 公開

日本一を決定する第20回全日本パラ・パワーリフティング国際招待選手権大会が、2月1日から2日まで、東京・八王子市の日本工学院八王子専門学校で開催。男子9階級、女子7階級が行われ、一般、ジュニアの部を合わせ8人の選手が日本新をマークした。

ここでは、東京2020パラリンピックの出場資格基準(MQS)の突破を狙った選手、2月20日からのワールドカップ・マンチェスター大会、4月のドバイ大会で東京2020パラリンピックランキング(以下、東京PR)の上昇を見据える選手たちの姿を追う。

なお、東京パラリンピック出場権は、4月23日時点で東京PR8位以内の選手に確実に与えられる。ただし、1ヵ国・地域に1人が原則のため、9位以下でも繰り上がる場合があり、日本パラ・パワーリフティング連盟・吉田進理事長は「東京PR9~10位なら出場のチャンスはある」と説明した。

男子49kg級でも輝いた西崎哲男

開会式で選手宣誓を務めた西崎哲男(右)と山本恵理

その瞬間、鉄のようだった表情に破顔が浮かんだ。逞しいガッツポーズで日本新記録を喜んだのは男子49kg級の西崎哲男。第2試技で130kgを挙げたあと、133kgで臨んだ3回目はバーの止めが甘く失敗に終わったが、それより2.5kg増した特別試技の135.5kgは白ランプ3つが点灯する完璧なリフティングだった。

現在、59kg級、54kg級の日本記録を保持。昨年8月の世界選手権は54kg級に出場したが、「より東京パラリンピックの出場を高めるため」(西崎)、昨年9月、49kg級へ転向したことにより、全日本は初優勝だった。すでにMQS(105kg)は突破し、東京PR13位と順調に夢に向かっている。

日本新記録を樹立した西崎は好調の波に乗れるか

トレーニング計画も順調だという。体重を6kg落としたことで、挙上できる重さは減ったが、落ち幅は想定内の12㎏に収まり、あとは54kg級時代に挙げた自己ベスト142kgにどれだけ近づけるかを目標にしているという。

東京パラリンピックに出場できれば、パラリンピック2大会連続出場になる。西崎は、「マンチェスター大会では、今大会くらいの重量を第2試技か第3試技に持ってこられれば。4月のドバイ大会ではさらに積み上げて、パラリンピックに出場する夢を叶えたい」と半年後の大舞台に向ける道筋を語っていた。

西崎を鼓舞する応援団も好記録を後押し

女子79kg級に階級変更した坂元智香は日本新

西崎が階級を下げた一方、階級を上げた選手もいる。そのうちの一人が女子79kg級に初めて出場した坂元智香だ。

坂元は73kg級のMQSは獲得済みだが、東京パラリンピック出場の可能性をより広げるため79kg級にもチャレンジ。3回目に挑戦した79kg級のMQSにあたる77kgは、バーを胸まで下ろしたあと押しきれず失敗したが、白ランプ3つの完璧な試技を見せた2回目の75kgは日本新記録で、東京PR12位相当の好結果だった。

「77kgは一押しが足りなかったけど、ここまでイケるんだ、と分かったことは収穫です」と坂本の表情は明るい。

73kg級だった坂元は79kg級にもチャレンジし、自ら可能性を広げた

11月のイギリス合宿でコーチから79kg級への挑戦を打診された際は「脊髄損傷の体で体重を増やすことは日常生活に支障をきたすし、女性としてためらいがありました」と苦笑するが、「いまはプライベートより自分の可能性を広げたい」と覚悟は決まっている。「最終的にどちらの階級でいくかは連盟の判断に委ねるつもり。私はただ全力を尽くすだけ」と力を込めていた。

男子65㎏級2位の奥山一輝は特別試技で日本新141㎏!

今大会の男子65kg級に初出場し、特別試技で日本新記録の141kgを出した22歳の奥山一輝も59kg級から転向組だ。3回の試技が終わった時点で佐野義貴と139kgで並び、体重差により2位で勝負には敗れたが、日本記録は残した。

昨年9月に転向後、記録は順調に伸びている。2ヵ月前のイギリス合宿では「140kgがまったく持てず、悔しい思いをした」というが、今回は「139kgがすごく軽く感じた」と笑顔で振り返る。現在、東京PRは20位だが、「自分には伸びしろがあるはず。東京PR10位以内を目指したい」とジャンプアップを誓った。

65㎏級2位となったが、着実に記録を伸ばしている奥山(左) photo by Yoshimi Suzuki

最多の9人が出場した59kg級も接戦になり、東京PR13位の戸田雄也のあとを追った同12位の光瀬智洋が逆転勝ちで初優勝した。

第2試技まで戸田が先行。家族の熱烈な応援を浴びながら、130kg、135kgのリフトに成功する。一方、「行きます!」と凛々しい声を響かせて試技に入った光瀬だが、128kgを挙げたあと、2回目の133kgの試技は失敗に終わっていた。

しかし、2回目でひじを傷めたしぐさを見せた戸田が3回目をパスすると、光瀬は果敢に135kgに挑戦。白ランプ3つの挙上に成功し、体重差で勝負をモノにした。その後、光瀬は、特別試技で135.5kgの日本記録に挑み、白ランプ1つに終わったが、「インターバルが長ければ(特別試技の記録を)取れたと思う」と手応えを掴んでいた。

逆転勝ちの初優勝を飾った光瀬は東京パラリンピック以降も見据える

光瀬は出場3回目にしての戴冠。1回目は7位、前回は失格に終わっていただけに「今回は1位になってみたかったんです」という思いを秘めていた。

26歳と若く伸び盛りなだけに、見据えている先も長い。「東京出場に向け100%の挑戦をしますが、パリ(パラリンピック)ではメダルを獲りたいし、(2028年の)ロサンゼルスにも出たいです」と夢を語っていた。

成毛美和がMQSを突破。女子では3人目

日本記録も樹立し、女子3人目のMQS突破者となった成毛

女子41kg級では、成毛美和が第1、2試技失敗のあと、第3試技で57kgを成功させるスリリングな展開で優勝、女子では中嶋明子、坂元に続き3人目となるMQS突破者になった。特別試技で58kgを成功させ、日本記録も樹立している。

「MQSは9月のテストイベントで出さなくてはいけなかったので、最低限のことはできたかな。ドバイ大会(への出場)につながったと思うのでよかった」と、東京パラリンピックへのチャレンジができる見込みが立ったことを喜んだ。

一般及びジュニアの日本新をマークしたものの、悔しさをにじませた森崎

67kg級の17歳、森崎可林は、目標だった70kgのMQS突破ならずも一般及びジュニアの日本新をマーク。栄えある結果だが、その顔には悔しさがあふれていた。

「周りは先が長いんだから十分だよと言ってくれますが……。将来は必ずパラリンピックで金メダルが欲しいです」と気を吐いていた。

すでにMQSを突破している女子50kg級の中嶋明子も63kgで優勝。「世界で50kg級は層が厚く、私には階級を変えるという選択があったかもしれませんが、この階級にこだわっていきたい」と思いを打ち明けた。

MQSを突破している女子50kg級の中嶋は63kgで優勝

なお、日本のエース、男子72kg級・樋口健太郎(東京PR11位)、男子88kg級・大堂秀樹(同12位)、男子107kg級・中辻克仁(同13位)は、マンチェスター大会への調整のため欠場。吉田理事長は東京パラリンピックについて、「ロンドン、リオでは3選手を送り出したが、東京へは4~6選手を送り出したい」と語った。

東京大会ではリオ大会より多くの選手を送り出したいと語った吉田理事長

東京パラリンピック出場を狙う日本選手は、直近では東京PRアップを狙ってマンチェスター大会に出場する。ここには東京パラリンピックの当確線上にいる東京PR9位前後の選手が世界中から押し寄せる見込みで、日本選手にとっても大一番になりそうだ。

【第20回全日本パラ・パワーリフティング国際招待選手権大会 リザルト】

▼男子(階級/優勝者・記録)
49kg級/西崎哲男 130kg 特別試技135.5kg=日本新
同ジュニア/中川翔太 40kg
54kg級/市川満典 141kg
59kg級/光瀬智洋 135kg
同ジュニア優勝/井内英人 55kg
65kg級/優勝 佐野義貴 139kg
2位 奥山一輝 139kg 特別試技141kg=日本新
同ジュニア優勝/大宅心季 74kg=日本新
72kg級/斉藤伸弘 150kg
80kg級/宇城元 170kg
88kg級/金谷晃央 125kg
97kg級/馬島誠 159kg
107kg超級/松崎泰治 153kg

▼女子(階級/優勝者・記録)
41kg級/成毛美和 57kg 特別試技58kg=日本新
45kg級/小林浩美 58kg
50kg級/中嶋明子 63kg
55kg級/山本恵理 61kg
同ジュニア/見﨑真未 45kg
61kg級/瀧川崇子 62kg=日本新
67kg級/森崎可林 67kg=日本新(ジュニア記録兼)
79kg級/坂元智香 75kg=日本新

text by Yoshimi Suzuki
photo by Yoshio Kato

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