-
- 競技
-
アルペンスキー
【Road to Beijing 2022】若手もベテランも進化の過程! アルペンスキー・初のアジアカップレポート
国内唯一のワールドパラアルペンスキー(WPAS)公認大会「2020パラアルペンスキー競技大会アジアカップsupported by 前田建設工業」が13日から16日にかけて長野県・菅平高原パインビークスキー場で開催された。
同スキー場は今シーズンからスポーツ庁指定のナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点になっており、多くの選手たちは大会前後の合宿を含めた日程で滞在して強化に励んでいる。
北京を2年後に控えて次世代育成
毎年行われているジャパンパラアルペンスキー競技大会に代わる今大会は、大回転と回転がそれぞれ2レースずつ行われ、視覚障がい、座位、立位、聴覚障がい、知的障がいの選手が参加。視覚障がい・座位・立位の選手にとってはWPAS(ワールドパラアルペンスキー)のポイント対象大会であり、とりわけ若手選手にとっては世界に続く道になる。
日本障がい者スキー連盟は2019-20シーズン、初めて次世代育成選手を公募し、未来のパラリンピアン育成を図る。今大会には7人中4人が出場し、そのうちのひとりである28歳の岸本愛加も女子座位の全レースに出場。大回転2戦目はコースアウトしたため、最終レースを終えると「ゴールできてほっとした。今後、海外の大会出場を目指す上で課題が明確になった」と表情をゆるませた。
男子立位・新エースの誕生!
狙っていたのは4冠だった。平昌2018冬季パラリンピック日本代表の高橋幸平は、最終日のレースを終えると、「今日はけっこう悔しい。ナーバスになっていたのかな。もっと強い気持ちを準備しないとだめだなと思いました」と複雑な思いを口にした。
大回転の初戦は硫安がまかれた滑りやすいバーンで「イメージ通り滑り切ることができた」と表彰台の中央に立つと、続く2戦目も勢いに乗った。世界最高峰で活躍するチェアスキー陣から「2冠を獲れ!」と発破をかけられ、期待通りの滑り。今シーズン、重点的に取り組んできた回転も、負ける気はしない。調子の良さから体も動き、見事3連覇で自信を手にした。
「明日はどうかな……」。ここで4連勝して3月のワールドカップ最終戦に臨みたい。前夜に思いを巡らせた。
そして迎えた最終日、雨予報もなんとか持ちこたえ、レースがスタート。「滑りやすいバーン状況だと思ったんですけど、滑ってみるとポールを待ってしまい、次へ次へと進めなかった」。アップ不足も影響し、体幹に力を入れられず、動きの硬さが要因と分析する。「ポールを待ってしまい、次へ次へと進めなかった」。1本目で先輩格の三澤拓にリードを許し、2本目は発奮したものの、合計タイムでわずかに及ばず。「急斜面はまあまあ良かったと思うが、緩斜面でがくんとスピードが落ちた」と課題を述べつつ、「拓さん、速かったな。観客の拓さんへの応援もすごかった」と負けを認め、謙虚な姿勢を見せた。
スキーは3歳で始めた。岩手の高校生だった平昌大会の後、上京して日体大入学。太ももなどのフィジカル強化に取り組み、体重は5㎏アップ。ターンの技術も向上し、今年からスキー―板を以前よりたわむものに変えたことも功を奏した。「硬いバーンは苦手だが、いろいろなところで練習して克服し、北京ではてっぺんをとりたい。GS(大回転)も表彰台を目指すが、今はスラローム(回転)で、という気持ちが高いです」
最大の武器は「若さ」。伸び盛りの19歳は北京に向かってまっすぐに走り続ける。
女王不在の女子も世界で躍動
もうひとりの立位の若手注目選手・本堂杏実は日体大大学院に通う23歳。2019年の世界選手権は滑降で女子立位3位と表彰台に上っており、北京パラリンピックでも活躍が期待されている。1月のワールドカップでケガをした影響で小休止していたという本堂は、今大会を3月のワールドカップに向ける絶好の調整の場と位置付け、コースやターンを一つひとつ確認しながらレースをこなした。
女子は平昌パラリンピックで全種目メダルを獲得した座位の女王・村岡桃佳が陸上競技に挑戦中で不在。そんな中、本堂にかかるプレッシャーは小さくないが、「今大会は転倒もあり悔しい思いもした。世界のコースはもっと急斜面。しっかりパフォーマンスをあげていかないと」と話し、さらなる高みを見据えた。
「今大会のレースはワールドカップに向ける準備という位置づけだが、育成選手が出場しているので、自分のタイムがこれくらいのタイムなら世界へ行けるという、ひとつのきっかけになってくれたらと思って滑りました」
そう話したのはトリノ、バンクーバー、ソチで日本代表だった女子座位のベテラン田中佳子だ。今シーズン、10年ぶりにワールドカップの表彰台に上がった。
「世界の一位とタイム差があるし、他の人のミスで順位が上がっただけ。もっといい勝負をして勝ちたい」と瞳の奥を光らせた。
北京パラリンピックで復活を誓う男子チェア陣
昨年1月に左手首を痛め、その後手術・とリハビリを経て10月に復帰した鈴木猛史も北京パラリンピックをターゲットに調子を上げている。
2014年のソチパラリンピックでの金メダルを獲得した鈴木は、平昌大会でメダルなしに終わった。だがその後、第一子が生まれたことで「息子にかっこいい姿を見せたい」と奮起し、2022年の金メダル奪還を目指す。
そんな中で臨んだ今大会。もっとも得意とする回転の第一戦は、1本目で森井大輝と狩野亮に首位を譲ったものの、2本目で逆転し、勝利を手にした。
鈴木は明かす。
「一本目はポールを体で当てて旗門を通過するやり方で滑ってみたんです。でも、やはり僕には合わないと思って2本目は戻しました」
鈴木と言えば、アウトリガーを振り上げてポールをなぎ倒していく「逆手」と呼ばれるテクニックの持ち主。より旗門に近いラインを攻めて最速タイムを狙う。しかし、現在これまでの日本勢に変わり表彰台の常連となっているヨーロッパの若手はポールを体で当てるスタイル。「世界のトップ選手がなぜ速いのか、知らなくては勝てないと思い、実戦で試してみました」
来る3月の勝負は、温暖で日本の雪質に近いバーン状況の可能性もある。「今回のレースを活かし、勢いを持って挑めればいいけれど……。それを上回る海外選手がいる中で勝利するのはなかなか難しい」。悩み、もがきながらも、再び表彰台の中央に上がるために前だけを見て進む。
一方、大回転と回転でそれぞれ1勝した森井大輝は、昨シーズン途中から構造の異なるサスペンションに変更するなどマテリアルの改良を重ねる。
回転の初日はセッティングが合わずにフィニッシュ後に首をひねっていたが、最終日は所属企業のサポートも味方にセッティングを修正し、最速タイムをマークして有終の美。
「3月に弾みのつくレースができた。国内でしっかり調整して万全の調子で臨みたい」と力強くコメントした。
なお、パラリンピック種目ではないが、知的障がいの木村嘉秀、聴覚障がいの中村晃大はそれぞれ4冠の偉業を達成した。
「勢いのある高橋選手にいい刺激をもらってる。チーム皆で力を合わせて世界と戦っていきたい」
アメリカを拠点に活動し、アジアカップは6年ぶりの国内レースだったというベテランの東海将彦(男子立位)がこう話すように、高橋や本堂ら若手の勢いがチームの円滑油になっている。残りのシーズンも、次世代選手を含む若手選手たちの存在が北京パラリンピックで活躍を誓う日本チームを引き上げてくれるに違いない。
text by Asuka Senaga
photo by X-1