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バイアスロン
冬の大通公園が競技場に!?「さっぽろスノースポーツフェスタ2020」特別レポート
2月16日、札幌一の中心地・大通公園周辺で「さっぽろスノーフェスタ2020」が開催された。年々、ウィンタースポーツ人口が先細りするなか、もっと雪のスポーツを身近に感じてもらいたいという願いがこもったイベントは、ジュニア部門・パラ部門のクロスカントリースキー競技大会が実施されたほか、6人のオリンピアンや9人のパラリンピアン・トップパラアスリートとウィンタースポーツ体験ができるコーナーが設けられた。
「未来への扉が開かれた。心からそう感じましたね」
オリンピックの1994年リレハンメル大会、1998年長野大会のジャンプ競技・団体戦で日本の金メダル獲得に貢献した原田雅彦さんは、明るい言葉でイベントを振り返った。
原田さんの心には、「まさかクロスカントリースキーでこんな大がかりなイベントが実現できるなんて」という驚きが含まれているという。
クロスカントリー(距離)、ジャンプ(飛躍)、コンバインド(複合)というノルディックスキーのなかで、とりわけクロスカントリーは、森のずっと奥、人が少ない場所でひっそりと行われることが多い。
しかし、大通公園周辺の道路を封鎖し、雪まつりの残った雪などを再利用した特設クロカンコースには、買い物などで通りかかった多くの通行人がサポーターへと変わった。小学生や障がいのある参加者計300人がたくさんの声援を受けてタイムを競った。
リレハンメルオリンピックのノルディック複合団体の金メダリスト、阿部雅司さんは、「走る車をスキーが追い越したりして、観客から『すげー!』と歓声が沸く場面もありました」と振り返る。
2014年のソチ大会、2018年の平昌大会のパラリンピック日本代表の阿部友里香は、「こんなに多くの人に応援してもらったのは初めて。クロカンはもちろん、パラスポーツの存在を多くの人に知ってもらえたと思う」と喜んでいた。
町の中心部でクロスカントリースキーをアピール
普段、クロスカントリースキーに馴染みのない人に走る姿を見てもらう――。実はこれが、この大会が開催された最大の目的だった。
日本障害者スキー連盟の荒井秀樹強化副本部長は、こう説明する。
「このフェスタには3つの目的がありました。一つ目は大通公園という町中で開催することで、クロスカントリースキーを身近に感じてもらうという目的です」
これに関し、荒井氏は「周知が足りなかった」と課題を口にしていたが、多くの関係者はイベントは大成功だと感じていた。その一人が北京2022冬季パラリンピックを目指す座位の森宏明だ。森は、さらにイベントが発展すれば、選手と地元の間にも“ウイン・ウイン”の関係が生まれるのではないかと期待する。
「クロカンを人が多く集まるところでやれば、いままでクロカンやパラスポーツを見たことはなかったけど、支援してみたい、イベントに協賛したいという企業が札幌市内にも出てくるかもしれません。そうなればうれしいことです」
不特定多数の目に競技が触れることによって、支援企業も増える可能性がある、と森は指摘しているのだ。
阿部友里香もまた、「できることなら今後、スプリント種目だけは町中でやってほしい。距離が短いのでコース設営が可能。北欧やドイツではよくあることです。買い物ついでに見てもらえるような状況をつくることには意義があります」と語っていた。
関係者もその言葉は痛感しており、荒井氏は「将来的には、町中でパラのクロスカントリーのワールドカップを開きたい」と語っていた。
様々なスキー&スノボ大会が大通公園で開催
前出の荒井氏がいう「フェスタの3つの目的」のうち、あと2つの目的も果たされた。残りの目的とは、多くの市民に雪を嫌なものとしてとらえるのではなく、遊べるものなんだと知ってもらうこと、3つ目は障がいがある人もない人も、老若男女すべての人がスキーは楽しめるものだと伝えることだ。
会場には、オリンピアンやパラリンピアンとともに楽しむスキーやスノーボード、クロスカントリースキーの体験会、スノーシューを履いての散歩、バイアスロン競技で使用する銃のレプリカを使っての射撃の体験会が実施された。
アルペンスキーで3度オリンピックに出場した川端絵美さんが教えるスキーのクラスには、低学年までの児童が参加。6歳の小林千紘さんは、母が職場でフェスタの存在を知り、「無料で教えてもらえるなんて」と、会場へ駆けつけた。スキーをするのは3回目で、スキー板を“八の字”の形にして下りる方法を川端さんから教えてもらっていた。
「今日は滑ることができてよかった。スキーを好きになれそうです」(千紘さん)
川端さんによれば、雪国・札幌市でも雪で遊ぶ習慣がない子どもは多く、スキーに関しても「体育の授業でやったけど、寒くてつらいという悪い印象ばかり持っている子が少なくないんです」と語る。
「だから、ここでは、いろんなオリンピアン、パラリンピアンと“一緒に”楽しんでもらうことを心がけました」と思いを打ち明けた。
スノーボードの体験に参加していた9歳の大野紗さんもフェスタを楽しんだ一人だ。昨年5月に東京から札幌へ移住してきた大野さんは、陸上競技の100m走の自己ベストが15秒19で、全国大会優勝を目標に日々練習に励んでいる。
それでも今回のスノーボード体験に参加したのは、「いろんなスポーツを経験して、好きなものを見つけてほしいから」という母の綾さんの願いがあったからだという。
実際、紗さんは午前中にもジャンプ種目を体験する別のイベントにも参加し、ここでもオリンピアンと交流を図っている。母・綾さんは「札幌という町は、市民とオリンピアン・パラリンピアンとの距離が近い。オリンピックに行きたい娘にとって、大きな刺激になっている」とつけ加えた。
2030年へ思いをつなぐ
すでに「さっぽろスノーフェスタ」は、向こう3年間の開催が決定している。来年には札幌市でパラノルディックスキーのワールドカップも開かれる予定だ。
札幌オリンピックミュージアムの名誉館長でもある阿部雅司さんは、イベントを総括し、「ウィンタースポーツにおける、健常者とパラの合同イベントはヨーロッパではよく見かけますが、日本でも実施できたことがとてもうれしい。これも2030年の札幌オリンピック・パラリンピック招致の機運を高めようという後押しのおかげ。この流れを大切にしていきたい」と語れば、パラリンピックで多数のメダリストを輩出してきた荒井氏も、「このフェスタを雪まつりのように札幌の風物詩にしていきたい」と夢を語っていた。
text by Yoshimi Suzuki
photo by Haruo Wanibe