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卓球
[2017FIDジャパン・チャンピオンシップ卓球大会]加藤と美遠が初のシングルス優勝。急成長を遂げる若手への期待高まる
6月3、4日の2日間、神奈川県横浜市・平沼記念体育館で「2017FIDジャパン・チャンピオンシップ卓球大会」が行われた。
この大会は、知的障がい卓球の競技力向上のためにスタートし、男子上位12選手、女子上位8選手には12月の「2017ジャパン・チャンピオンリーグ大会」への出場権が与えられる。さらに第20回を迎える今年は、優勝者には8月に開催されるアジア選手権(中国)の出場権も与えられるとあり、熱戦が繰り広げられた。
加藤耕也がタフな戦いを制し、シングルス&ダブルスの新王者に
——歴史が動いた。シングルスでは2013年から4連覇、ダブルスでは5連覇中だった竹守彪を破り、加藤耕也が初優勝を果たした。加藤は今年1月の「ジャパン・チャンピオンリーグ大会」の初制覇に続いてのV。「粘り勝ちできました」と、はにかんで見せた。
試合後、加藤が「限界を見ました」と話したとおり、心身のスタミナを出し切っての勝利だった。苦しいロードは、2日目午前中のダブルス決勝トーナメントから始まった。準々決勝から決勝まですべて3-2のフルゲームだった。
とくにダメージが大きかったのは準決勝の竹守・木川田優大組との一戦。今年からパートナーを変えて6連覇を狙った竹守は、リオパラリンピックにも出場しており、加藤にとって見上げる存在だった。だが、手ごわい彼らの攻撃を加藤と福井昴孔は辛抱強くかわし、なんとか勝利を収めた。
うれしい1勝だったが、この激戦のダメージは大きかった。直後に始まった宮内良・高橋利也組との決勝戦では、それまで出ていた雄叫びは出ず、顔には濃い疲労が浮かんだ。そして2ゲーム4-8でとうとう足にけいれんを起こした。
ここで加藤には棄権という選択もあったという。だが、「お世話になった人に恩返しがしたい」という気持ちが勝り、試合の続行を決心。福井は加藤から「僕がつなぐから決めて」と頼まれると、本来の役割ではない攻撃役を果たしてみせた。「加藤に無茶をさせないように厳しいコースを狙っていきました」と福井は語った。
すると最終ゲームは6-6まで均衡したが、その後、主導権を奪い返し11-7で試合を終わらせた。
シングルス本命・竹守の5連覇を阻止!
辛くもダブルスで優勝を果たした加藤だが、その後も苦境が待っていた。
午後から始まったシングルスで優勝するには5試合を勝たなければならない。準々決勝まではストレート勝ちを収めるが、同じ強化指定選手の宮内良との準決勝は最終ゲームに。
続く決勝では、予想通り、5連覇を狙う竹守が勝ち上がり、加藤にとってはさらに苦しい戦いとなった。
23歳同士の決戦は、竹守が2ゲームを先取し、3ゲームも7-4とリード。あと4点で優勝するところまで迫った。ところが、この瀬戸際から加藤が精神力の強さを見せつけた。気力を振り絞った粘りで驚異の5連続得点に成功。疲労困憊しながらも4ゲーム目も奪い返した。さらに5ゲーム目に入る直前、加藤智也ベンチコーチから檄も送られたという。
「僕が(疲れて)よくない態度を見せていたので、『そんな態度じゃ一生懸命やっている相手に失礼だ。棄権しろ』と言われたんです。それで最後の一球まで頑張ろうと思って……」
コーチの言葉を胸に刻んだ加藤の心には火がついた。5ゲームは8-4と一気に引き離し、11-5で優勝を決めた。
「自分の限界を見た大会でした。でも、根性なら誰にも負けない。そう思うことができました」
6月現在、加藤の世界ランキングは11位。今後は東京パラリンピックでの優勝を目指す。
美遠さゆりがシングルス初優勝&ダブルス2連覇
女子の部は、23歳の美遠さゆりがシングルスで初優勝、ダブルスでは木村はるみと2連覇を飾った。
まず優勝を決めたのはダブルス。昨年は最終ゲームの連続で苦しみながらの王座だったが、今年は5ゲームまでもつれたのは予選で一度きり。決勝戦では大野由美・古川佳奈美組に3ゲーム目は取られたが、「勝ちを意識しすぎてしまってミスが出た」と冷静に分析。これを修正した4ゲーム目では、木村がレシーブしてチャンスを作り、美遠がドライブでしっかり決めるという得意パターンに持ち込み、2連覇を決めた。
優勝後、「超うれしい!」と喜びを口にした美遠。パートナーで、女子ダブルスでは日本最多の8回目の優勝を飾った木村にとって美遠は「私が作ったチャンスを必ず決めてくれる頼れる人」だという。
しかし2人はシングルスでは優勝を見据えるライバルでもある。ダブルスの優勝後は喜びもつかの間、すぐシングルスに気持ちを切り替えていた。
シングルスも圧勝! 美遠時代の到来の予感
そんななか、女子シングルスも美遠が圧倒的存在感を示した。
決勝トーナメントは、古川との準決勝で1ゲームを献上しただけで、すべてストレート勝ち。決勝はダブルスでも優勝を争った大野が相手だったが、3-0と寄せ付けなかった。
これは美遠の1年間の努力が実った形でもある。“つぶ高”ラバーを使う大野は、美遠にとって返球しづらい球を繰り出すテクニシャンだが、美遠はしっかりサーブから崩し、ラリーになってもドライブで素早く攻撃し続けた。これには、大野を指導する宮崎直喜コーチが「美遠のサーブとドライブに対応できなかった」とうなるほど。じつは、この1年間、美遠が集中的に取り組んできたのがまさにサービスとドライブだった。
美遠のこの急成長には理由がある。昨年は準々決勝で敗れてベスト8。これが「超くやしかった」美遠は、勝つためには「自分から仕掛ける卓球をしなければ」と練習に取り組んできた。
その甲斐あって、1月のジャパン・チャンピオンリーグ大会で初優勝。さらに今大会の2週間前に行われたスロベニアオープンでは、リオパラリンピックで金メダルを獲得したウクライナのコスミナを下してみせた。
「最近、自分から攻める卓球ができていると思います。今回、予選リーグでは緊張しすぎて初戦を落としてしまいましたが、自分のプレーができれば、世界で戦えるという自信はついてきています」
そんな美遠をこの2年間、指導する丸田徹コーチはこう語る。
「週に6回、片道1時間かけて私のところに来ています。美遠はとてもまじめで几帳面。練習もひたすらやり続けてしまうので私がストップ役なくらいです(苦笑)」
つまり今大会での美遠の躍進は、地道に練習を重ねてきた末の結果なのだ。
当然、目標は東京パラリンピックでの金メダルにある。ドライブに強みのある速効型がこの先、どこまで成長するのか、楽しみだ。
text&photos by Yoshimi Suzuki