発信機内蔵のハイテク点字ブロックが登場!道から飲食店まで案内!?
かつては日本を訪れた外国人が、「街中の至る所で目にする…」と驚く光景のひとつとして知られていた、日本発祥の点字ブロック。近年では海外での認知も広がり、様々な国で設置されつつあるが、今、この点字ブロックにテクノロジーを搭載した画期的なシステムが完成しつつあるという。それを活用すれば、視覚に障がいがある人による道案内が実現するというのだ。一体どういうことなのか? プロジェクトの代表であるタキザワケイタ氏にお話を伺った。
点字ブロックをテクノロジーでアップデート
~視覚障がい者が安心して外出・行動できる社会に~
この道案内システムの一番のポイントは、発信器内蔵の点字ブロックだ。なんと、視覚に障がいがある人がブロックに近づくと、その場所のスポット情報と目的地までの道案内情報が、スマホに届く。
実際の使い方をシミュレーションしてみよう。まず視覚に障がいがある人は外出するとき、スマートスピーカー(Clova)から目的地を設定すると、ルート上にある点字ブロック(VIBLO BLOCK)が設定される。耳にはイヤフォン(Xperia Ear Duo)を装着し、スマホを持ってお出かけ。実際に点字ブロックに近づくと、スマホのLINEに情報が届くので、イヤフォンで情報の読み上げを聞くだけ。
視覚に障がいがある人は、片手に白杖を持っているので、もう片方の手がスマホでふさがれてしまうのは避けたいところ。その点、このシステムが実現すればスマホを手に持ち続ける必要がなく、イヤフォンも外界の音を遮らない構造になっているため、安心して外出ができるのだ。
現在は、JR西日本とタキザワケイタ氏がリーダーをつとめる一般社団法人PLAYERSが中心となり、実用化を目指して活動している。大阪と言えば2025年には大阪万博の開催が控えている。果たしてその時、この画期的なシステムが大阪を、そして日本をどう変えていくのか期待は膨らむばかりだ。
はじまりは、妊婦さんの「困った」を解決したいという想いから
点字ブロックに発信機を内蔵し、視覚障がい者自身が誰かに道案内できるようになる、というこの超画期的なシステムは一体どのようにして生まれたのだろうか?
きっかけは、障がいのある人、ではなく実は妊婦さんだったという。
「発端は僕の妻が妊娠中に、切迫流産で通院していたときのこと。電車で席を譲ってもらえたことがとてもありがたかったんです。妊婦さんが身につけているマタニティマークは、ときにはいわれのない非難を受けることもあるということを聞き、それはおかしいと思って、そこからまずは『スマート・マタニティマーク』を考案しました」
「スマート・マタニティマーク」は、妊婦が携帯し電車などの交通機関で立っているのがつらいときにボタンを押す。すると周囲にいるサポーターのスマホに通知が届き、席を譲ってあげるというシステムだ。そのアイデアがGoogleの「Android Experiments OBJECT」というコンテストで2016年にグランプリを受賞。その後、東京メトロ銀座線で実証実験をすることになった。
「銀座線の平日5日間を使った実験で、サポーターはLINEの友だち登録で11,415人が集まりました。結果は1人の妊婦さんに平均して3人のサポーターが現れたんです。席を譲ることのできるのは1人ですから、2人は席を譲れなくてがっかり!悔しい!ということに。妊婦さんの取り合いですね(笑)。電車内がやさしい雰囲気に包まれていました」
スマート・マタニティマークの実証実験を行った後、今度はJR東日本から声がかかる。鉄道会社は連携して「声かけ・サポート」運動に取り組んでいるのだが、その活動の一環として、駅や電車で視覚に障がいがある人の安全をどのように確保できるか、相談されたのだという。
「まず初めに、ワークショップを行いました。視覚に障がいがある人8名、鉄道会社の社員10名に参加してもらいました。ワークショップでは、駅員にサポートをお願いすると待たされるので、自分だけでどうにかしようとしてしまう、という視覚障がい者。駅員からは、声をかけても “大丈夫です”と言われることがあるが、本当に大丈夫なのか余計な心配をしてしまう、といった声が聞かれた。そんな現状やジレンマをお互いに理解した上で、お互いにとって理想的なサポートの形を対話していきました」
鉄道会社だけではなく、自分たち一般乗客も含めて社会全体で見守り合う。そんなコンセプトから生まれたのが「mimamo by &HAND」プロジェクトだった。妊婦から今度は視覚に障がいのある人へと視点をシフトしていくと、新しいアイデアがまたさらに生まれていったという。
「2019年にJR東日本と赤羽駅で行ったこのプロジェクトの実証実験では、駅員だけではなく店舗の案内員にも参加してもらい、視覚に障がいのある人の買い物の支援についても検証しました。障がい者が道案内をお願いすることは日常的だけれども、美味しそうなたい焼きの匂いがしても、買い物の手伝いを頼むのは申し訳なくて遠慮してしまうのだそうです。実証実験では、初めて試食ができたとか、買い物で悩むことを楽しめたなど、嬉しい声を聞くことができました」
画期的な点字ブロックの開発に至るまでには、上記のような経緯、そして妊婦や視覚に障がいのある人との課題への取り組みがなければ知り得なかったことがあったのだ。
点字ブロックは社会インフラとして本当に機能してる?
様々な取り組みを積み重ねるにつれ、タキザワさんはあることに気づく。
「これまでに障がいを持たれた方々と一緒にワークショップや実証実験を行ってきましたが、そういった場に協力してくれるのは、自ら積極的に行動されている方がほとんど。実はその裏側には、一人ではなかなか外出できない視覚障がい者がたくさんいることを知りました」
そこで、「視覚障がい者の外出に関するWEBアンケート」を実施。すると、視覚障がい者が感じている痛みや、点字ブロックの課題が見えてきた。
「点字ブロックは日本で生まれたもので、すでに社会インフラになっています。でも、当事者に聞いてみると警告ブロックがあっても、具体的に何が危ないのかわからない。また、点字ブロックが自転車で塞がれているなど、せっかくのインフラが十分に機能していないことがわかりました。じゃあ、点字ブロックをテクノロジーでアップデートして、その問題を解決したいと考えたのが、『VIBLO by &HAND』開発のきっかけです」
視覚に障がいがある人が、晴眼者の道案内をする!?
タキザワさんがリーダーをつとめるPLAYERSは、冒頭で説明した「VIBLO by &HAND」のシステムを、JR西日本が主催するコンテスト「UMEKITA INNOVATION CHALLENGE」に応募した。これは、2023年春開業予定の「うめきた(大阪)地下駅」において今までにない”わくわく”を提供するサービスを募集したもの。そこで見事受賞し、現在は実用化を目指して開発を進めている
「コンテストにはインフラとしての『VIBLO by &HAND』に追加して、『ブラインドアテンダント』というサービスも提案しました。『VIBLO by &HAND』のシステムを使えば、視覚障がい者は点字ブロックからさまざまな情報を得ることができるので、初めてその駅を訪れた人よりも地理に詳しい。視覚に障がいがあっても、そのエリアの案内人になることができる。それが『ブラインドアテンダント』というサービスです。初めての駅で道に迷ったとき、ご飯を食べたいと思ったときに、視覚に障がいがある人に教えてもらったり、お店まで連れて行ってもらう。そんな風景を見てみたいと思いませんか? 現在、視覚障がい者の声を取り入れながら、急ピッチでこの開発を進めています。きっと驚くものになると思います。期待してて下さい!」
視覚に障がいがある人が、見えている人に道案内をする。今までだったら、想像できなかったかもしれない。しかし、「VIBLO by &HAND」システムの説明を伺うと、なるほどできるかもしれない、いや、きっとできるだろうと思える。さらには、これが実現することにより「ブラインドアテンダント」という新たな仕事が生まれる。「ブラインドアテンダントになりたい」と憧れを持ってくれる人がひとりでも出てくると嬉しい、と熱く語るタキザワさんの言葉がとても印象的だった。
参考動画:
VIBLO by &HAND:Concept Movie(https://youtu.be/tyFX0V1Vqi0)
Android Experiments OBJECT グランプリ : Smart Maternity Mark(https://youtu.be/slXAP5pHXko)
mimamo by &HAND 赤羽駅 実証実験(https://youtu.be/F4PR23vvKWQ)
PROFILE タキザワ ケイタ
PLAYWORKS株式会社 代表 インクルーシブデザイナー・プロジェクトファシリテーター 新規事業・組織開発・人材育成など企業が抱える課題や、社会課題の解決に向け活動している。一般社団法人PLAYERS・&HANDプロジェクト リーダー / 筑波大学 非常勤講師 / 青山学院大学 ワークショップデザイナー育成プログラム 講師 / LEGO® SERIOUS PLAY® 認定ファシリテーター
https://keitatakizawa.themedia.jp/
text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
photo by Kazuhisa Yoshinaga