すべてはイノベーション創出のために! パラスポーツを通して「インクルージョン&ダイバーシティ」をエネルギッシュに進めるNECの取組みとは?
先行き不透明な状況が続く現在、世の中に絶えず新しい価値を提供し続けるには、イノベーションを生む人材育成と組織づくりが欠かせない。そこで、日本電気株式会社(以下、NEC)では企業カルチャーの同質化を避けようと、「インクルージョン&ダイバーシティ」の定着を経営戦略の一環として積極的に推進している。今回、その実現に向けて打ち出している数ある施策の中から、先日NEC社員とその家族に向けて行われた、パラスポーツを活用した子ども向けのワークショップ型プログラム「あすチャレ!ジュニアアカデミー」を紹介したい。視座や視点を変えることで、新しい気づきやアイデアが生まれるという本プログラムの魅力とは?
パラアスリートから学ぶ、多角的な視点や柔軟な発想力
NEC協賛のもと、日本財団パラリンピックサポートセンターが主催する「あすチャレ!ジュニアアカデミー」は、子どもたちに「インクルージョン&ダイバーシティ」の文化を学んでもらう新感覚の出前授業だ。対象は小学校4年生から高校3年生まで。パラアスリートを中心とした経験豊富な講師が学校を訪問し、子どもたちと対話をしながら講義を進める。2018年10月の開講以来、これまでに出前授業は218回、延べ3万名以上の生徒たちが受講し、多くの現場から感謝の声も届いている。(2020年11月末時点)
授業2コマ分に相当する90分の出前授業プログラムは、パラリンピックやパラスポーツを題材に、「レクチャー」「体験」「グループワーク」の3部で構成される。「レクチャー」では、まず講師のパラスポーツとの出会いや向き合い方などを伝えることでパラスポーツの魅力について学ぶ。そして、ゲームによる視覚障がい者・聴覚障がい者の「体験」を通してコミュニケーションの大切さを学び、最後の「グループワーク」で「健常者と障がい者がどうしたら一緒に楽しく遊ぶことができるか?」を考えるという流れだ。こうしたステップを踏むことで、共生社会の実現に向けたプロセスと障がいへの理解をよりいっそう深められる仕組みになっている。
子どもたちにとって大切なことは、障がい当事者だからこそ伝えられる実体験やパラスポーツの知識から、「障がいとは何か?」を“自分ごと”として考える機会を得られるという点だ。たとえば、パラスポーツでは競技の特性や障がいの部位・程度などを踏まえてルールが変更されていたり、障がいを補うスポーツ用具にも目を見張るようなアイデアが盛り込まれている。彼らが様々な工夫を重ねて自分たちと同じ生活をしている事実を知ることで、物事を多角的に見る力が養え、柔軟な発想ができるようになる。子どもは大人と違い、余計な先入観や固定観念が植えつけられていないため、少年期こそ多様性を学び、自身の視野を広げるまたとないチャンスなのだ。こうした経験が、今後必要となる豊かな人間性を育むこととにつながるのは言うまでもない。
また、「あすチャレ!」シリーズには、大人を対象とした「あすチャレ!Academy」も用意されている。同じく、障がい者の“リアル”を当事者である講師から学び、ともに考える研修プログラムとなっており、知識を得るだけでなく、実際の行動へ移せる工夫が施されている。
コロナ禍の現状を踏まえて、今年9月に開講することとなったオンライン版プログラムを受講したNEC 佐藤千佳さん(シニアエグゼクティブ/カルチャー変革本部長 兼 人材組織開発部長)は、「本当の『障がい』『バリア』は個々人の心の中にある。相手の視点や考えを理解しようとしなかったり、自分の視点で思い込み決めつけていたり。相互に表現をして、伝えあうことの重要性を再認識したセミナーでした」と述べている。
親子で学ぶ! 障がいから生まれたポジティブ思考と創意工夫
「あすチャレ!ジュニアアカデミー」では、従来の学校訪問型に加え、授業1コマで完結するオンライン版のプログラムも今年の8月から開講している。コロナ禍でもより教育現場で取り入れやすいよう、実施時間を短縮したり、必要な機材を貸し出すなどの工夫をし、遠く離れた場所でもリアルタイムに講師と対話をしながら学ぶことができる授業へと進化した形だ。オンライン版もこれまでに88回開催し、6千人以上が参加している。(2020年11月末時点)
去る11月29日には、NECの社員向けに、親子で学べる形式でオンライン版「NEC親子向けジュニアアカデミー」が開催された。「障がいへの理解を通じて、多様性について学んでもらいたい」「将来、人を支えられる人物になってほしい」といった子どもの成長機会を期待するご両親のもと、総勢100名を超える親子が参加した。
この日、講師を務めたのは、パラ・パワーリフティング選手で2021年のパラリンピック出場を目指す、車いすユーザーのアスリート山本恵理。「障がいのある私の気持ちは、コロナ禍でできないことが増えたみんなのモヤモヤ感に似ている」と、できるだけ子どもたちがイメージしやすい表現で障がいについて語り、「5cmの段差は車いすで登れる?」「車いすユーザーは雨の日に傘をさす?」「車の運転はできる?」といった自身の障がいにまつわるクイズを出して、子どもたちの想像力を掻き立てた。
中でも印象的だったのが、山本さんのご両親の教育方針だ。子どもの頃に引っ込み思案だった山本さんに、自分の気持ちや思いを発信し、苦手なことにも挑戦することの大切さを説くことで、山本さんは進んで感謝の気持ちを伝えたり、自ら友だちを遊びに誘えるようになったという。また、自転車に乗れなかった山本さんが無理なく上達できるよう、補助輪を一つずつ取る工夫をしていたというエピソードには、多くの親御さんが「どうやって子どもの成功体験を重ねるか」という観点から子育ての参考になると感銘を受けていた。
実際に受講したNECの社員の方々は、次のような感想を言葉にしてくれた。
「障がいとは社会、人の心、ルールが作ってしまっているということに改めて気づかされました。違いを個性として認め、きちんと向き合える経験ができたことは、息子の教育にとってもよかったと思います」(弘晃さん)
「障がいのある人が、できないことを悪く考えないで、逆にどう上手く使おうかと工夫していることに驚かされました。自分も難しいと感じたときには、どうやったらできるかを考え、諦めずに挑戦したいと思いました」(晃人さん)
「障がいのある方たちの創意工夫は、子育てにおいて大切なことと相通ずるものがあると感じました。子どもも一人ひとり、能力や個性が異なるので、その子に合わせたアドバイスや工夫が必要になります。どうしたら子どものモチベーションを上げることができるかを考える上で非常に参考になりました」(香織さん)
「山本先生が車いすを軽快に乗りこなしている姿を見て、カッコいいと思いました! これまで障がいのある人は暗い気持ちを抱えていると思っていたんですが、すごく前向きで刺激を受けました。自分も苦手なことに挑戦してみたいです」(晄大さん)
「やはり、健常者の方々は障がいに関して知らないことも多いと思います。山本さんがおっしゃっていたように、障がいのある人はどんなことを考えていて、何を工夫していて、どう思っているのかを外に向けて発信していくことが重要だと感じました」(琢さん)
「お父さんは目が不自由なので、視覚障がいのことはよくわかっていたんですが、足が不自由な人の気持ちや工夫についてはあまり知りませんでした。今日の授業を通して、障がい者の方々のことをより深く知ることができたし、お父さんをもっと手助けしたいと思いました」(真衣香さん)
授業の最後には、今日の学びを明日から生かそうと、子どもたちに自分なりの挑戦を公表する「あすチャレ!」宣言を書いてもらい、講義を締めくくった。「できなかったスケボーの技を、人に聞いたり、自分でも調べて、できるようになりたい!」「できないことを恥ずかしいと思わない! やれることからやってみる!」といった宣言が並ぶ中、子どもたちは、まず一歩を踏み出すことの大切さを噛み締めたようだった。
キーワードは「パラスポーツの日常化」。共生社会を目指す、NECの取り組み
NECでは、「あすチャレ!ジュニアアカデミー」「あすチャレ!Academy」以外にも、25年以上に渡る車いすテニスの支援をはじめ、パラスポーツを応援するプロジェクトを数多く進めている。
その理由は、大きく2つある。ひとつは、パラスポーツが人と人をつなぐ社会を実現させるため。もうひとつは、パラスポーツが地域をつなぐ社会を実現させるためだ。誰もができるパラスポーツだからこそ、障がい者と健常者が一緒に楽しむことでお互いのバリアを超えることができ、また、そうした試みを全国に支社支店網を持つNECが実践することで豊かな地域社会づくりにつながると考えている。そして、その実現に向けてのキーワードとして掲げるのが、「パラスポーツの日常化」だ。
たとえば、パラリンピックの銀メダリスト・上原大祐さんとのパラスポーツ普及活動では、「パラスポーツ自体へのサポート」「パラスポーツの理解を深める普及・推進活動」「パラスポーツを地域社会に根付かす社会の仕組み作り」の3つを柱に据えるが、中でも「社会の仕組み作り」には両者の想いが強く込められているという。なぜなら、来年の東京パラリンピック以降もその熱を冷ますことなく、日常化するためにも、地域にパラスポーツの文化を根付かせ、自走させる仕組み作りが重要となるからだ。そのために、全国の障がい者スポーツ団体や特別支援学校、商工会議所などを一軒一軒訪ね、企画実現に協力してくれる熱い想いの人を探し回ったそうだ。こうした地道な努力により、長野県民パラスポーツ大会や四国パラスポーツ大会、パラ大学祭の開催へと実を結んだ。
また、「パラスポーツの日常化」は、社内でも実践されている。2017年4月より会社公認の部活動として発足したNECボッチャ部だ。約30名の部員が社内施設や近隣の体育館で練習を行い、選抜大会にも率先して参加するなど、楽しみながらも真剣に取り組んでいる。その結果、ボッチャ東京カップ2019では見事準優勝、ボッチャ世田谷カップでは2019、2020と2連覇に輝いた。部活動以外にも、社内研修でのアクティビティや懇親会でもボッチャを活用しているそうで、社内を巻き込んだ取り組みとして広く認知されているようだ。
こうしたNECのパラスポーツへのエールは、昨年11月に開催されたNECとNUA(NEC C&Cシステムユーザー会)との共催エキスポ「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2019」でのメッセージからも深く感じ取ることができる。
「パラリンピックとダイバーシティ&インクルージョン」をテーマに、パネラーや来場者が「パラリンピックとその先の共生社会の実現」を考える中で、パラサポの山脇康会長はパラリンピックへの取り組みを社会変革につなげる道筋について語った。特に印象的なのは次の発言だろう。
「パラリンピック・ムーブメントは、単にスポーツのイベントを成功させるための取り組みではなく、スポーツを通して社会を変えていく運動です。その実現のためには、3つの要素が必要とされます。『人々の意識と社会認識』『移動の自由/バリアフリー』、そして『機会均等』です。障がい者に対する人々の意識と社会認識を変革し、障がい者が自由に移動できる環境を整備し、そして障がい者のスポーツ・教育・雇用の機会を増やしてゆく。そんな3つのプロセスによって社会変革を進めて、インクルーシブな社会を実現していくことを私たちは目指しています」
日本で生活していると、障がいのある方と出会う機会はそう多くない。それは障がいの有無に関わらず、誰もが暮らしやすい社会に向けて、心のバリアが壁になっているからだろう。
パラリンピック、ひいてはパラスポーツがもつ、多くの人たちの意識を変え、社会を変えていく力により、もっと自然な関係が生まれることを期待したい。
「あすチャレ!ジュニアアカデミー」
https://www.parasapo.tokyo/asuchalle/junioracademy/
「あすチャレ!Academy」
https://www.parasapo.tokyo/asuchalle/academy/
text by Jun Takayanagi(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock,parasapo