【Road to Beijing 2022】再び世界で勝てるチームへ。キャプテン・児玉直が語るパラアイスホッケー日本代表の伸びしろ

【Road to Beijing 2022】再び世界で勝てるチームへ。キャプテン・児玉直が語るパラアイスホッケー日本代表の伸びしろ
2021.01.20.WED 公開

平昌2018冬季パラリンピックでは、出場8チーム中最下位の8位に終わり、辛酸をなめたアイスホッケー日本代表。最近の世界選手権でもAプールとBプールを行ったり来たりが続き、世界を相手に、かつてのインパクトを残せていないのが現状だ。だが、若返りを果たしたチームは活気づいており、明るい兆しが見え始めている。成長著しい日本代表チームの中心で奮闘する児玉直キャプテンに話を聞いた。

新監督&若手加入の新体制で目指す北京パラリンピック

日本代表チームの記事が「平均年齢40歳越え」「高齢化チーム」の見出しで報じられたのも今や過去の話。北京2022冬季パラリンピック出場を見据えた強化合宿のメンバーを見てみると、若手プレーヤーの姿が目立つ。2019年6月から信田憲司監督体制になり、チームはどう変わりつつあるのか。

児玉直(以下、児玉) 少し前まで、現在34歳の僕はチームで2番目に若い選手でした。ですが、日本スポーツ協会によるトップアスリート発掘事業「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト」のおかげもあって、今では自分より若い後輩が6人くらい増えたんです。うれしいのはもちろんですが、チーム内の雰囲気は変わってきていると感じます。チームの動画を見てもプレーとゲームのスピード感が上がってきていて、僕自身、焦りとプレッシャーを感じているので、他の選手も同じだと思います。そして新加入の選手たちは成長スピードが早い。それは後輩たちの努力はもちろんですが、氷上での練習が以前よりたくさんできているというのも理由かなと。個人的には、「後輩に教える」という経験が増え、四苦八苦しているところです。

チームの平均年齢が下がったとはいえ、長年の苦楽を知るベテランメンバーなくしてチームは成り立たない。

児玉 ベテラン選手の存在も大きいです。皆さん、職人気質のような「俺の背中を見て学べ!」みたいなと頑固さはなく、後輩にも惜しみなく教えてくれますし、たとえばパラリンピックに5大会出場している吉川守選手なんかはスレッジなど用具の調整を行ってくれるんです。新しいメンバーの勢いと、それを支える選手のバランスが釣り合っていい方向に向いている。チームとして強くなるためにはいろんなことを教えていかないといけないと思うけれど、ベテランと中堅の選手がその自覚をしっかりと持っているんですよね。

日本は8位。平昌パラリンピックは満足できるような結果にはならなかった ©X-1

新キャプテンは“縁の下の力持ち”!?

平昌パラリンピック以降、日本代表はしばらくキャプテンを固定していなかったが、いつからか児玉が練習などでキャプテンの役割を担うことが増えてきた。そして2018年の年末、児玉が正式に“C(キャプテン)マーク”を付けることになる。

児玉 僕は甘ったれの三男坊ですから(笑)。本来ならCマークはリーダーシップのある人がやったほうがいいと思うんですけど……。2018年のシーズン当初は順繰りでキャプテンを回していたんですが、そうしているうちにキャプテンを任される回数が増えてきて(笑)。それで、当時の中北浩仁監督から正式にキャプテンに任命され、引き受けました。

キャプテンになってから、「Aマーク(副キャプテン)はお前が決めろ」と言われました。若手とベテランが混在するチームですから、判断を間違えれば波を立てることになります。でも、自分の中では「世代交代をしないといけない」「ベテランの方々に頼りっぱなしではチームとしての成長はない」と思っていたので、ベテランの選手たちにも助言をしてもらい、中堅の熊谷昌治選手と塩谷吉寛選手を指名しました。

こういった決断が良かったか悪かったかは、今はまだわかりません。どんなときも100点満点はありませんからね。でも、結果がどう転んでも、そこから学ぶことができたら、それは成功なのかなと思います。

控えめで、物腰の柔らかい児玉。力でグイグイ引っ張っていくというよりは、メンバーと協力しながら、チームが同じ方向を向くように導く裏方タイプのようだ。

児玉 小学生時代、ミニバスケットボールのチームでキャプテンをしていたんですが、当時からキャプテンには向いてないと思っていました(笑)。キャプテンなら周りにガンガン指示を出せると思うのですが、僕は全部自分でやろうとしてしまって抱えてしまうので……。どちらかというと選手をサポートする裏方の仕事が得意です。15歳で骨肉腫になったこともあり、高校時代はバスケットボール部のマネージャーをやっていましたが、そちらのほうが向いていたかもしれません。キャプテンのやりがいですか? ありませんよ、楽しいと思ったことは一度も(笑)

だから、周囲ときちんとコミュニケーションを図り、みんなで問題を共有する……それがキャプテンのあるべき姿かなと思います。

謙虚な姿勢の児玉だが、日本代表やアイスホッケーに対する熱い思い感じさせる

競技歴10年目の節目に誓う、国際大会でのステップアップ

新旧の日本代表を見てきた児玉のキャリアは、2011年、東京都東大和市を拠点に活動する東京アイスバーンズに加入したときから始まった。

児玉 パラアイスホッケーを始めたきっかけは、勤務先である川越市役所の遠藤隆行さんからの誘いでした。遠藤さんは、2010年にバンクーバーパラリンピックで日本代表が銀メダルを獲得したときのキャプテンです。それで、実際に練習に参加することになったのですが、初めてスレッジに乗ったときは、ただただドキドキしていました。当時は、アイスホッケーのルールも用具の名前もわからずという全くの初心者でしたからね。練習時間が午前3時で、とても眠かったのも覚えています(笑)。

競技を始めてまもなく、児玉は日本代表の強化合宿に呼ばれ、海外遠征メンバーにも選ばれたが、試合では出番がなくベンチを温めるだけの時間が続いた。日本代表の試合で初めてリンクに上がったのは、2015年世界選手権だった。

児玉 僕の中での“公式デビュー”となった世界選手権は、何もできなかったというのが感想で、日本代表選手として上位チームとの試合に出られてうれしいな、一生懸命頑張るぞという程度でした。国内のクラブチームで行う試合と、世界を相手に戦う日本代表の試合はレベルが全く違ったので、正直、自分でも何をやっているのかよくわからなかったです。

それでも世界選手権が終わってから、代表選手の数が少なくなったことで、試合に出る機会が増えていきました。それからしばらくして長野で国際親善試合があり、そこで初得点を挙げました。でも実は、自分ではどんなショットでどこにシュートが飛んで行ったかわからず、気づいたらゴールしていて。ブザーが鳴って「ああ、ゴールしたんだ」と思っている間に吉川選手が記念のパックを拾ってきてくれました。

その後、平昌パラリンピックの世界最終予選、パラリンピックなどを経験。個人としては、相手から見えにくいクイックモーションのシュートを武器に戦っています。

現在、北京2022パラリンピックに続く世界選手権に向けて、さまざまなセットを試している段階のチームは、コロナ禍で対外試合ができない状況下で試合機会を渇望している。そんな中、児玉が気になっているのは、世界の中での日本の位置だ。

児玉 2020年1月のイタリア遠征では、これまで点を取れなかったイタリアやノルウェーを相手に1点差、もしかしたら勝てたという試合をすることができ、日本チームの力が順調に伸びている実感を得ることができました。でも、その後コロナ禍で試合の機会がなくなり、イタリア遠征から1年経った今、世界との差はどうなっているのか、日本チームと海外チームとのレベルの差は開いてしまったのか縮まっているのか……やはり気になります。

長野県岡谷市のやまびこスケートの森・アイスアリーナで強化合宿に参加する児玉

北京パラリンピックに向けて、とくに警戒しているのは中国です。中国は平昌パラリンピック後に発足した新しいチームで、実際に試合をしてみないと何とも言えませんが、動画を見る限りではスピードのあるチームという印象です。重要な試合で当たる可能性もあるので、情報収集していかないといけません。

日本チームは、全体的にシュート力は高くないので、ディフェンスを重視し、守って守って数少ないチャンスで得点を目指すというスタイルで戦います。得点力に欠ける弱点については、攻め方のパターン、シュートまでのチョイス、シュートに持ち込むまでのプレーで埋めようと、合宿ではみんなで案を出し合いながらいろいろなことを試しているところです。

もちろん、ボトムアップも重要です。ベンチ層が厚くなれば、うまく交代ができて主力がフレッシュな状態でプレーすることができます。ですから、強化指定のメンバー全員が、世界で通用する選手になることが欠かせません。

選手たちと談笑する児玉。後輩に教える難しさも実感中だ

日本が北京パラリンピックの出場権を得るには、まずは2021年に開催するとされている世界選手権Bプールで上位になり、世界最終予選に駒を進めることが必須となる。

児玉 北京パラリンピックに出場し、メダルを獲得することが目標です。僕個人としては、その目標のために、選手全員が“なすべきことをなせる”チームの実現に向けて頑張っていきたいです。

児玉を中心に、若手、中堅、ベテランがうまく融合するアイスホッケー日本代表。急成長を遂げているチームが、新しい歴史を刻むために、まずは北京パラリンピックの出場権をつかんでほしい。

text by TEAM A
photo by Haruo Wanibe

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