【Road to Beijing 2022】日本を代表する2人のエースも出場。ノルディックスキージャパンカップ札幌大会レポート

【Road to Beijing 2022】日本を代表する2人のエースも出場。ノルディックスキージャパンカップ札幌大会レポート
2021.03.02.TUE 公開

2月23日から25日まで、札幌市・白旗山競技場で「2021ワールドパラノルディックスキージャパンカップ札幌大会」が開催された。北京2022冬季パラリンピック出場権を争うポイントレースの対象となる貴重な場に、11人の選手が集まった。

20歳の川除がフリー2種目を制す

色白の頬を紅潮させ、20歳の川除大輝がイキイキと、楽しそうに滑っていく。その動きはスキーヤーというよりスケーターのようだ。

生まれつき手足の指の一部が欠損している川除は、ストックを持たずにレースへ挑む。だから上半身をダイナミックに動かすフォームは、スケートに似る。さらに2本の溝を走るクラシカル走法より、走路を選べるフリー走法では、平地でも加速でき、上りから下りに切り替わる地点でブレーキがかかりにくく、タイムを出しやすい。

初日のクラシカルを2位で終えた川除は、フリーに向けてこう意気込んだ。「明日は、得意種目なので優勝したいです」。

その言葉通り、川除は2日目の立位フリー(ミドル12.5km)を制すと、3日目のフリー(ショート7.5km)でも優勝を果たした。

今大会は、川除にとって今季初のパラレースだった。新型コロナウイルス感染症の影響でワールドカップは相次いで中止となっており、貴重な勝負の場とあって、平昌パラリンピックの金メダリストである新田佳浩との競り合いが期待された。

しかし、2日目のフリーでは周回コースの1周目で新田は大会前に痛めた腰痛で途中棄権。ここで「どれだけ後ろの選手を離せるか」に目標を切り替えた川除は「よく滑る雪だったし、ワックスも当たった」と、2周目以降も快調に距離を稼ぐ。「いつもだったら減速する後半もスピードを上げられた」と、障がいに応じた係数をかけた計算タイムで37分30秒4をマークし、優勝を遂げた。

「うれしいです。でも、ここにロシアとか海外選手がいたら力が足りなかったと思う」と冷静に話した川除。ここには、1年後に控える北京パラリンピックで全種目表彰台に立ちたいという強い向上心がうかがえた。

17歳で出場した平昌パラリンピックでは、まだ新人だったが、その後、国際大会でレースの経験を積み、エースへと成長。2019年には世界選手権のクラシカル(ロング)も制し、いまや新田とは「勝ったり負けたり」(川除)で、パラリンピックの頂点は手の届く位置にある。

北京パラリンピックは、20歳の川除(左)と40歳の新田の2人に注目だ

北京に向けては「登りから下りのつなぎの部分で減速してしまいがち。そこで10秒くらい違ってしまうことがあるので、1秒でもタイムロスを減らしたい」と課題を口にする。

インカレ常勝校の日本大スキー部に所属。コロナ禍では地元で一人での練習を余儀なくされ、精神的にも逞しさが増した。「時間を無駄にせず、一戦一戦をパラリンピックにつなげたいです」と誓っていた。

新田は北京ではクラシカルに照準

新田は北京パラリンピックを「最終目標」と位置づけた

この川除が「小さいころからあこがれだった」と尊敬してやまない新田は、初日に男女の立位、座位、視覚障がいの混合で実施されたクラシカル(ショート5km)を計算タイム16分03秒でV。2位の川除に約23秒差をつける圧勝だった。

今年、41歳になる新田だが、その進化はまだ止まらない。「最近、レース後半は落ち気味になっている」と打ち明けるが、「昨年は、コロナの影響で集中して肉体的な能力は上げられた」と好材料を拾っている。

滑りに関しても「クラシカルは、いままで上りを頑張って、平地を耐えるイメージでしたが、いまは上りを8、9割にして、余力を平地で出すというイメージにしている」と最速に向けての試行錯誤を続けている。

「最終目標」と語る北京パラリンピックについては、クラシカル20kmにのみ照準を絞ることを明言した。

「メダルを狙える種目はクラシカル。そこで自分がどうすれば力を出し切れるか、残りの時間で考えていきたい」とし、「最終的には、日本チームとして7大会連続してメダルをとれるようにチーム力を引き上げたい」と、3つの金メダルを持つレジェンドらしい言葉で締めた。

「(北京パラリンピックまで)いまの力を継続して走る力をつけていきたい」(新田)

座位のホープの森はメダルを誓う

座位カテゴリーでは、2017年に競技をスタートした24歳の森宏明が、ミドルを計算タイム41分58秒7、ショートを20分42秒6で制し、伸び盛りの強さをアピールした。

「今シーズンは海外遠征がなくなり、初めてちゃんと基礎を練習することができた」という森は、秋から冬にかけ、1回の練習で25kmを走るなど基礎体力の向上に努めたほか、重心をシットスキーのどこに乗せるかなどの研究を重ねた。

「シットスキーでは、少しでも前につんのめると急ブレーキがかかる。一番滑るのはニュートラルな位置ですが、そこを保つのが難しいので体幹はもちろん、上半身の持久力の強化をしてきました」と説明する。

すでに北京パラリンピック出場のための最低条件はクリアしており、「今年1年の過ごし方でメダルも見えてくる。逆算して年間スケジュールをしっかり立てたい」と前を見つめていた。

元野球少年の森は「今回のレースにはありませんでしたが、スプリントレースが得意」と語る

立位女子は、ベテランの出来島桃子が、フリーのミドルを計算タイム38分41秒5、ショートを18分31秒2で2冠を達成した。

今年6月に47歳を迎え、「体力的に落ちてきている」と率直に明かすが、「技術的な部分で前に進められる部分はある」とし、パラリンピック5大会連続出場に全力で向かうことを誓った。

「大会出場は、去年の2月以来」という出来島

視覚障がいクラスには、期待の新人が現れた。夏季パラリンピック競技・ボートの強化指定選手・有安諒平が初レースに挑み、初日のクラシカルを計算タイム19分14秒2で終え、7位だった。

「今シーズンに入って本格的に競技を始めたので、自分の実力の加減を探しに行きました。新田さんや川除くんがいるので、自分と世界のレベルをはかれたと思います」

今後、有安は、3月のフィンランド遠征に参加した後、出場が有力視されている東京パラリンピックが終わるまではボートに軸を置く予定だ。

「ボートとクロスカントリースキーには親和性があり、やってみたくて始めました」(有安)

なお、平昌パラリンピックで日本のクロスカントリースキーチームのコーチを務めた長濱一年氏は、「(強豪の)ロシアが復帰してくるので簡単ではないが、男子4人、女子2人は送り出したい」と展望を話した。

【2021ワールドパラノルディックスキージャパンカップ札幌大会 リザルト】

ショートクラシカルコンバインド 5km:1位 新田佳浩(LW8)2位 川除大輝(LW5/7)3位 岩本啓吾(LW4)
ショートクラシカル知的男子 5km:1位 山田雄太 2位 西村潤一 3位 長江充
ショートクラシカル知的女子 5km:1位 志村里莉朱

ミドル座位男子 10km:1位 森宏明(LW12)2位 柴田真聖(LW11.5)3位 源貴晴(LW12)
ミドルフリー立位男子 12.5km 1位 川除大輝(LW5/7) 岩本啓吾(LW3)
ミドルフリー立位女子 10km:1位 出来島桃子(LW6)2位 岩本美歌(LW8)3位 阿部友里香(LW6)
ミドルフリー視覚男子 12.5km:1位 有安諒平 ガイド=藤田佑平
ミドルフリー知的男子 12.5km:1位 山田雄太 2位 西村潤一 3位 長江充
ミドルフリー知的女子 10km:1位 志村里莉朱

ショート座位男子 5km:1位 森宏明(LW12) 2位 柴田真聖(LW11.5)3位 源貴晴(LW12)
ショートフリー立位男子 7.5km:1位 川除大輝(LW5/7) 2位 岩本啓吾(LW3)
ショートフリー立位女子 5km:1位 出来島桃子(LW6) 2位 阿部友里香(LW6) 3位 岩本美歌(LW8)
ショートフリー視覚男子 7.5km:1位 有安諒平 ガイド=藤田佑平
ショートフリー知的男子 7.5km:1位 山田雄太 2位 西村潤一 3位 長江充
ショートフリー知的女子 5km:1位 志村里莉朱

ミドルフリーの立位女子は、出来島(中央)の後に、岩本(左)、阿部が続いた

text by TEAM A
photo by X-1

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