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テコンドー
全日本テコンドー・東京パラリンピック内定の工藤俊介が自力の差を見せて優勝
3月7日、全日本テコンドー選手権大会が東京の駒沢体育館で開催された。昨年1月の代表選手最終選考会以来の公式戦となるパラテコンドーの強化指定選手も、感染症拡大の影響を受けるなかで1年間をいかに過ごしてきたかの成果を見せようと意気込む。パラキョルギでは男子-61kg級と-75kg・+75kg合同級、女子+58kg級の3階級で王者が決まった。
階級アップした先駆者・伊藤力を工藤俊介が振り切る
理由は後述するが、この日唯一の試合となったのが-75kg・+75kg合同級の決勝戦。東京2020パラリンピック代表に内定している工藤俊介の相手となったのは、パイオニアとしてこの競技を引っ張ってきた伊藤力だった。これまで-61kg級で戦い、昨年の代表選考会で田中光哉に敗れた伊藤にとっては階級を上げての再起戦となる。
1ラウンド、工藤は右手を前に、伊藤は左手を前に構える。お互いに欠損している腕を後ろにし、前手をディフェンスに使うための構えだ。先にペースを掴んだのは伊藤。重心を落とした構えで巧みに距離を詰めて工藤の連打を封じ、肩で押し合うような展開から工藤の背中側に回り込んでの右の回し蹴りを決める。押し合いの展開でも力負けすることはなく、階級アップに伴ってフィジカル面を強化してきたことと、試合巧者らしさを感じさせ、5−4と伊藤がリードして1ラウンドを終えた。
2ラウンドに入ると、工藤も体がほぐれてきたようで、従来の軽快なステップからカットと呼ばれる前足の蹴りで距離をキープし、後ろ足の強力な回し蹴りを当てるパターンが機能し始める。伊藤はやや後手に回っている印象で、6-9とこのラウンドで工藤が逆転する。
最終ラウンドは伊藤が積極的に前に出て逆転を狙う。肩で押して回り込んでからの右の蹴りは効果的だが、完全にいつものペースを取り戻した工藤は連打でポイントを重ね、代表選手としての貫禄を見せる。背面に回り込んでくる伊藤に対して、後ろ回し蹴りを合わせる場面もあり、動きも見切っているようだ。伊藤もポイントの高い回転蹴りを当てるなど意地を見せたが、13-22の差で工藤が伊藤の反撃を振り切った。
試合後、「伊藤選手はガードも堅く、押して来るパワーも感じた。2ラウンドから先手先手で動いてなんとかなった」と振り返った工藤。一方の伊藤は「工藤選手は(東京大会が延期となって)いつ大会があってもいいようにと準備をしてきた差が出た」と代表選手としての自覚が勝敗を分けるうえで大きなポイントになったと分析した。
選手層の薄さという課題も
大会後の記者会見では「東京パラリンピックが延期になったことをポジティブに捉え、ステップや蹴りのスピードアップなど基礎をみっちりやる時間とした」と語った工藤。東京へ向けては「海外の選手はパワーがあるので、前手のディフェンスでチャンスを作って攻めることが大切」とし、改めて「東京パラリンピックで金メダルを獲ることがゴール」と力を込めた。
今大会はほかに出場者がなく、試合をせずに王者となった東京パラリンピック内定選手の太田渉子は「試合ができなかったのは残念」としながらも、「東京パラリンピックが延期となったことでステップなどの基礎を見直し、コートの中を自由に動けるようになった。単発になりがちだった蹴りも連打ができるようになっているので、東京ではその成果を見せたい」と意気込みを語る。
男子-61kg級で全日本選手権2連覇を果たしたが、試合をする機会がなかったのが阿渡健太。「ステップなど基本的なことを強化することで大きくレベルアップできた。(東京パラリンピック日本代表に内定している)田中選手と試合して、その成果を見せたかった」と今大会を欠場した田中光哉との対戦を楽しみにしていたと残念がった。
また、今大会で1試合しか行われなかった理由の1つが、国内大会では全日本選手権のみで行われている「ランダム計量」で2名が当日朝に失格となってしまったこと。この制度は選手の過度の減量を防ぐために、前日計量に加えて当日朝に全選手からランダムに選ばれた選手の計量を行い、出場階級の体重を5%以上超過していないか確認するためのもの。体重が5%以上超過していた場合のほか、当日朝の規定の集合時間に遅れた選手も失格となる。競技経験の短い選手が少なくないパラテコンドーとはいえ、選手層が薄いため失格者が出たために試合が行えないという事態にもなり得る。阿渡は競技の普及促進のため、YouTubeを使ったオンラインでのパラテコンドー教室も行っているというが、競技全体として取り組まなければならない課題でもあるだろう。
text by TEAM A
photo by Jun Tsukida