冬季パラリンピック競技の車いすカーリング・日本一をかけた熱戦の行方は……?

冬季パラリンピック競技の車いすカーリング・日本一をかけた熱戦の行方は……?
2021.05.26.WED 公開

車いすカーリングの国内クラブチームナンバーワンを決める「第17回日本車いすカーリング選手権」が21日から23日まで長野県の軽井沢アイスパークで開催された。国内で緊急事態宣言が発出されており、予選を勝ち抜いた6チームのうち、出場したのは4チーム。しかし、昨年は大会自体が中止を余儀なくされただけに、それぞれが特別な思いを抱きながら思い切りプレーした。

第17回日本車いすカーリング選手権大会は無観客で行われた

カーリングの本場を拠点とする優勝候補

新型コロナウイルス感染症予防のため無観客で行われた静かな会場に、はじき出された石の快い音が響く――。ハウスに向かってリズムよくストーンを投げていくのは、2019年大会からの連覇を狙う北見フリーグス(北海道ブロック)だ。今大会は4チームが総当たり2回の予選を戦ったあと、最終日に順位決定戦で優勝を争ったが、北見フリーグスはスキップ坂田谷隆のショットが随所で決まり、予選途中まで3勝2敗で首位タイにつけていた。

「初日はアイスの状態を読み切れず、なかなか調子を上げられなかったが、2試合目(のチーム山梨戦)は修正しながら戦うことができ、勝利したことで波に乗ることができた。続く試合(ease埼玉戦)は(同点の場面で、相手のストーンを当てて自らのストーンをステイさせる好ショットで4得点し)気持ちよくショットが決まった。メンバーみんな落ち着いてプレーできている。この調子で決勝に進みたい」(坂田谷)

全道優勝チーム・北見フリーグスのスキップ坂田谷

カーリングの盛んな北海道北見市を拠点とするチーム北見は通年、練習や試合のできる環境が揃い、昨年秋には「自宅から車で10分の場所」(坂田谷)に新しいカーリングホールもオープン。緊急事態宣言下では閉鎖しているが、選手たちも自分たちが日本一恵まれているチームだという自負がある。

軽井沢のアイスと北見のカーリングホールのアイスは特徴こそ大きく異なるが、2019年に日本代表にも選出された彼らの優勝にかける思いは強かった。

ホーム地・軽井沢でチーム長野が見せた粘り強さ

「楽しんでプレー」を合言葉に戦ったチーム長野の選手たち

だが、そんなチーム北見の決勝進出を阻んだチームがいた。同じく優勝候補のチーム長野だ。2018年に日本代表のスキップとして世界選手権Bに出場した和智浩率いるチーム長野は毎週、ここ軽井沢で練習しており、他のチームと比べてアイスの特徴を熟知しているといえる。

しかし、攻略は簡単ではなかったと、サードの斉藤あや子は振り返る。大会前半は雨で湿度が高かったこともあってか、ウエイト(※1)が重く、シートによっては極端に曲がりが強く、難しかった。ストップウォッチでストーンの速さを計るのだが、チーム長野はそのタイムを口にしながらメンバー4人で普段の感覚との違いを調整していく。斉藤は「みんなが『いつも投げているウエイトよりちょっと強めに』と声をかけてくれて。おかげでストーンがいいところに入るようになって助かった」とほっとした表情を見せた。

チーム長野の斉藤は、アーチェリーでも日本代表として活躍した夏冬パラリンピアンだ

北見フリーグスとの1回目の対戦で2-10と敗れたチーム長野は、大差の敗北を引きずった影響で続くチーム山梨戦でも敗れたため、予選は混戦模様に。「北見はテイク(※2)もうまいが、うちはテイクよりドロー(※3)のチーム。ドローがうまくいけば勝てるが、うまくいかなければ大量点を与えてしまう……」と和智は話し、北見との2回目の対戦は、ドローで(最も強い)ナンバーワンをつくってそのストーンをガードし、ガードが空いたらまたガードを置く……というドロー主体の戦い方で勝利を収めた。

その結果、チーム長野が4勝2敗で決勝へ進出。3勝3敗で北見フリーグスとease埼玉が並びDSC上位のease埼玉が決勝に駒を進め、北見フリーグスは敗退となった。

後半に形勢が逆転した決勝戦

そして、チーム長野とease埼玉の対戦になった決勝戦。前半は2010年のバンクーバーパラリンピックに出場した2人を擁するease埼玉が6点リードしたが、ハーフタイムで気持ちを切り替えたチーム長野がじわじわと得点を積み重ねていき、第7エンドに和智がピール(ショット※4)を決めて3得点。逆転に成功したチーム長野がそのまま11-6で勝利し、日本一の栄冠を手にした。

6エンド目のチャンスの場面でドローがスルーしてしまい「ショットの精度が課題」と話したease埼玉のスキップ中島

「3月の大会でドローの精度が良くなかったので、ドローの練習に週2回を費やし、さらに氷の変化に対してどうするかという対策をしてきた」と明かした和智。決勝後は反省点も口にしつつ「大会の中止も頭をよぎったけれど、練習を続けてよかった」と笑顔を見せた。

今大会は出場は4チームと少なかったものの、国内のレベル向上がうかがえた。YouTube配信で解説を担当した、長野県カーリング協会の佐藤みつき強化育成部長はこう話す。

「2~3年前までは無難な試合の組み立てや相手のミスを待つような戦いが多く見られたが、ハウスの中にストーンをためて1エンドに多く点を取る“攻めるカーリング”も増えてきた」

「大量リードされたが、あきらめなかった。途中で声を掛け合い、のびのびと投げられたのが良かった」と和智

そして、クラブチームのレベルアップは日本代表の強化にもつながる。オリンピックのカーリングの盛り上がりとともに、注目されることで選手たちのアスリートとしての意識も高まり、それがバンクーバー以来のパラリンピック出場につながるのではないかと期待する。

またチーム長野の和智は、ミックスダブルスの日本代表でもあり、2026年にイタリアのミラノなどで行われる冬季パラリンピックから新種目として採用されることが暫定的に決まっているミックスダブルスも見据える。

「二人一組のミックスダブルスは、持久力やテイクショットのウエイトに影響する筋力も必須になる。普段はハンドサイクルを漕ぐなどで体力づくりをしているが、ペアの相手である村松(由里)さんと戦略の勉強や意思の疎通をしていかないと世界では通用しないと考えている」

今年4月にフィンランドで行われる予定だった、車いすカーリング・ミックスダブルスの世界選手権は延期になっており、開催は未定となっている。

今大会の4位のチーム山梨・村松はミックスダブルスの日本代表だ

この日、決勝戦でチーム長野が演じたような一投で形勢逆転があるのもカーリングの魅力。そんな魅力を車いす選手たちも広く発信し、盛り上げていきたいと考えている。

※1 ウエイト:投げたストーンに与えられた力のことで、滑るスピードを表す。
※2 テイク:相手のストーンをプレーエリアからはじき出すショットとのこと。
※3 ドロー:ハウスの前か中にストーンを止めるショットのこと。
※4 ピール:アイス上のストーンにヒットさせ、当たったストーンと投げたストーンを一緒にアウトすること。

今大会の熱戦の様子はYouTubeで配信された
【第17回日本車いすカーリング選手権大会 リザルト】
1位:チーム長野
2位:ease埼玉
3位:北見フリーグス
4位:チーム山梨
第17回日本車いすカーリング選手権大会で優勝したチーム長野

text by TEAM A
photo by Jun Tsukida

冬季パラリンピック競技の車いすカーリング・日本一をかけた熱戦の行方は……?

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