人懐っこい笑顔を見せて声を弾ませることもあれば、大粒の涙を流すこともある。レース後に感情をあらわにする姿が印象的だ。東京2020パラリンピック日本代表の外山愛美。陸上競技400mで上位進出を狙うホープだが、外山が代表の座を掴むまでの道のりは決して平たんではなかった。それでも、コーチが伝え続けたのは、「陸上は人生を輝かせてくれる」ということ。練習拠点の宮崎で話を聞いた。
<AMAZING PLAYERS Vol.7>
知的障がい者陸上・東京パラリンピック日本代表 外山愛美(とやま・あいみ)
――2020年3月。東京パラリンピックを目標に掲げて練習に励む中で大会の1年延期が発表された。そのとき、一度は引退を決意した外山選手。それでも2ヵ月後には陸上競技場に戻ってきた。
「延期」のニュースを聞いたときの気持ちを教えてください。
ショックが一番大きかったです。2020年に東京パラリンピックがあり、そこを目指してやっていたのに、「私は何で陸上競技をやっているのだろう」という気持ちになってしまいました。
(東京パラリンピック出場枠を争う)ランキングは圏内の6位にいて、そのままいけばパラリンピックに出られるからです。やはり東京パラリンピックを目標にやってきたので……。
外山選手にとってパラリンピックはどんなものですか?
世界選手権よりも、さらに強い選手が現れ、レベルの高い中で競い合うのがパラリンピックです。実は、陸上を始めた当初、パラリンピックの存在は知りませんでした。でも、高校時代にパラの大会に参加するようになってから自然と出場したいと思うようになりました。
そして2021年5月、東京パラリンピック日本代表に内定。7月には正式に日本代表に。どんな気持ちでしたか?
内定の知らせはうれしかったけれど、正直なところ夢か現実かわからなかったです。本番が近づいてきて緊張しています。
――外山選手は宮崎で生まれ育った。知的障がいがあり、物事を記憶することが得意ではなく、他者を理解することも難しい。中学時代に陸上競技を始め、高校でパラ陸上と出会うが、その障がいゆえ毎日の反復練習が苦手だ。事実、練習中には、なかなか笑顔が見られない。
中学のとき、初めて400mを走って「こんなにきつい競技はない!」と感じました(笑) 400mの適性ですか? 自分ではわからないんです。一番好きなのは(非パラリンピック種目の)800mかもしれません。
遠征や合宿です。飛行機に乗って景色を眺めたり、おいしいものを食べたりすることが毎日の原動力になっています。
パリがお気に入りです。食事はパンを中心にいろいろあっておいしかったですね。建物も美しかったので記憶に残っています。
2019年10月にオーストラリアのブリスベンで行われたINASグローバルゲームスです。59秒42の自己ベスト(日本新記録)を出すことができたからです。実は、出発前にプライベートでいろいろあって、イライラしていたんです。そのイライラをレースにぶつけたというか……スタートに立ったら、逆に自分のことに集中できたんです。
――コロナ禍で一度は目標を失い、筋肉量も落ちてしまった外山選手。どのようなトレーニングをして本番に備えているのだろうか。
フルタイムで働いているので、平日は公園などで朝練を行い、その後、職場に直行しています。夕方は、(日本知的障がい者陸上競技連盟理事長でもあるコーチの)奥松美恵子先生が勤める、県立みなみのかぜ支援学校の運動場などでスピード強化の練習などを行っています。
コーチはお母さんみたいな存在です。私は同じことを何回も質問してしまったり、話してしまったりするのですが、いつも質問に答えてくれるし、話を聞いてくれます。
もともと筋力が足りないので、苦手な筋力トレーニングをがんばっています。ゴムチューブを使って、美しいフォームを維持するために、腸腰筋、内転筋、中殿筋を鍛えています。
コロナ以前は、トレーニングの成果で太ももが大きくなった実感を得られていたのですが、今は痩せて体重も落ちてしまいました。奥松先生やグループホームの世話人の方からは、規則正しく食事をとるように言われています。
400mのレースでは、(55秒99の世界記録を持つ)アメリカ選手と同じ組で走れたら、その背中に食らいついていこうと思います。ラスト100mは、なんといってもあきらめない気持ちが大事です。現在の自己ベストを上回る59秒37を出したいです。
text by Asuka Senaga
photo by Hiroaki Yoda