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バドミントン
【後編】東京パラリンピックで金メダルを。 バドミントン・鈴木亜弥子 世界女王の覚悟
鈴木が復帰を決意したのは2015年秋。そこから5年間のブランクをどう埋め、世界ランク1位までの道を歩んだのか。また今後の課題をどう考えているのか。鈴木がこの2年間とこれからを語る。
5年のブランクを乗り越え、再び世界の舞台へ
2015年秋、復帰を決めた鈴木はパラアスリートとしてどう活動していくか、計画を立てた。
鈴木亜弥子(以下、鈴木) 復帰を決めて、「じゃあ、実際どうしようか」と考えたとき、勤めていた会社を辞めて、しばらくフリーターになろうとしたんです。障がい者のアスリート雇用をしている企業があることは知っていました。でも、私には5年前の成績しかない。その成績で採用してくれとお願いしても無理な話ですよね。
だからまず1年目はフリーターをしながら結果を出し、その成績で支援してくれる企業があればと考えていたんです。なぜか国内で成績を残すことへの自信はありました。
ところが、予想以上の早さで復帰計画は進んだ。狙い通り、2016年2月の全日本選手権で優勝すると、5月に宮城県の七十七銀行への入行が決まった。七十七銀行は、現在、S/Jリーグ(国内リーグ)1部に所属する強豪だ。
鈴木 昔、お世話になった方に復帰について話したら、七十七銀行に「こういう子がいるんだけど」と話してくださったんです。それで全日本で優勝した後、話がまとまったんです。
こうして環境は整ったものの、大変だったのは、以前の状態に自分を戻すことだった。七十七銀行の草井篤監督は、入行当時を「本当に大丈夫なのかなと思いましたね(苦笑)。だってスマッシュを『怖い!』ってレシーブできなかったんです」と振り返る。
鈴木 ほかの選手と打ち合えるレベルではなかったので、初めはノックばかりでした。あと、何をしてもすぐ息が切れる(苦笑)。もちろんイメージ通りにプレーもできません。去年、私のプレーを見た姉は『中学1年生のときのレベルだね』って。高校まで一緒にやってきた姉がそういうなら間違いない。だからいまの目標は高校時代の自分に戻ることなんです。
自分を強くする中国選手の存在と明確な目標
しかし、徐々に実戦感覚は取り戻しつつあり、強力なライバルも現れたことで、いっそう練習に身が入るようになった。
鈴木 中国選手はあまり世界の大会に出てこないんです。だけど、2016年11月のアジア選手権にやっと出てくれて。このとき、決勝で楊秋霞選手に負けたんです。変ないい方ですけど、うれしかった。語弊を恐れずに言うと、復帰後、2大会連続で優勝して、どこかでパラリンピックの金メダルも難しくないように感じてしまっていたんです。だから楊選手が出てきてくれて、頑張らなければと思えました。
強い相手との対戦は学ぶことが多い。しっかりトレーニングしている楊を通し、自らの課題も明確になった。
鈴木 楊さんはネット前を拾いに行くとき、上体が起きているんです。楊さんは半そでのユニフォームを着ると、腕が見えないくらいの切断なんですが、体幹がしっかりしていてブレない。
では私はというと、いつも前のめりで拾っていたんです。上肢障がいの日本選手はそういう人が多いので仕方ないと思っていましたが、違うんだなと。楊さんとの対戦で、ショットを極める以前に、体幹、そして下半身強化をしないといけないことが明確になったんです。
そんな強敵・楊にはアジア選手権から10ヵ月後の東京・町田市で開催された国際大会の決勝で初めて勝った。2017年11月の世界選手権でも楊に2勝目を挙げ、優勝している。
鈴木 JAPANインターナショナルでは予選リーグで負けたんです。その後、決勝戦で勝ったとはいえ、私はシングルスだけなのに対し、楊さんはダブルスとミックスも兼ね、10試合くらい多く戦っていました。だから勝ったことはうれしいんですが、疲労度が全然違うので勝てたのかなと思う部分があります。
ただ徐々に勝ち方はよくなっているんです。世界選手権でも楊さんはミックスに出ていましたが、過酷さはJAPANインターナショナルほどではなかったはず。そんななか、1時間も試合をして楊さんに2連勝できたことは自信になりました。1年前のアジア選手権では、1ゲームで体力を使い果たしてしまっていたので、体力が持つようになったんだなと。
鈴木の最終目標は、もちろん東京パラリンピックでの金メダルにある。いま鈴木はワクワクしながらその道を進んでいるという。
鈴木 2020年まではケガをせず、世界ランキング1位を維持して、楊さんにもストレート勝ちできるようになりたい。いまは30歳という年齢でどれくらい自分の体が戻れるのか挑戦していくことが楽しいし、学生時代とは別で「優勝するぞ!」と思いながらやっているのが違って新鮮です。今までで一番責任もありますが、一歩一歩金メダルに近づきたいです。
取材していて分かったことは、鈴木の魅力のひとつは目標に至るまでにどう努力したらいいか、道筋をはっきり描けるクレバーさだ。2020年の大きな舞台で楊という強敵に完勝するまでどんな道をたどるのか、その歩みを追いつつ、東京パラリンピックを楽しみに待ちたい。
text & photo by Yoshimi Suzuki