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陸上競技
見据えるのは東京パラリンピック――世界トップランナーたちが競い合った東京マラソン2018
2月25日に行われた「東京マラソン2018」は、マラソン男子の日本記録が16年ぶりに塗り替えられるなど大いに沸いたが、一般レースより5分早くスタートした車いすマラソンの部も過去最多となる30人超が参加。それぞれ見ごたえのあるレースが展開された。
2020年の東京パラリンピックを見据え、今年はとくに女子のレースに注目した。出場者は6人で、昨年優勝のアマンダ・マグロリー(アメリカ)をはじめ、リオパラリンピック上位入賞者ら実力者が集っていたからだ。そんななか、優勝を飾ったのは今季のアボットシリーズで4勝するなど絶好調のまま来日したマニュエラ・シャー(スイス)。タイムは1時間43分25秒だった。
攻めの走りでレースを制した世界記録保持者のシャー(スイス)
「タフなレースだった。集団からなかなか抜け出せなかったが、勝てて嬉しい」
1984年生まれで1993年に事故で脊髄を損傷後、車いす競技を始めたシャーは2013年には女子マラソンの世界記録(日本の土田和歌子と同タイムで1時間28分17秒)も樹立しているトップランナーの一人。だが、昨年はゴール前のスプリント合戦でわずかに遅れ、同タイム2位に甘んじていた。だからこそ、今年は早い段階で勝負を決めたいと、「最初からアグレッシブに攻めて、スピードを落とさず走り切る。“オール・オア・ナッシング”のリスクある戦略」を貫き、ゴールまで突き進んだ。
ハーフ地点辺りまではマグロリーと、メジャー大会を何度も制しているタチアナ・マクファーデン(アメリカ)と三つ巴。マグロリーが落ち、マクファーデンとの二人旅となってからも、「ラスト勝負」を嫌って何度もアタックを仕かけ、ようやく39km過ぎに単独トップに。その後もレーサー(競技用車いす)を漕ぐ手を緩めることはなかった。
一般に集団でレースが進むことの多い車いすレースでは上り坂や橋などのアップダウンを機にアタックを仕かける選手が多い。だが、東京マラソンは起伏が少ない。「フラット(平坦)なので、仕かけ所がなく難しいコース。でも、最後まで攻め切るという戦略を変えなかったところが良かった」とシャーは勝因を語り、笑顔を見せた。
今回のコースは2020年のパラリンピックのコースとも一部重なる見通しだ。「東京パラリンピックにはスイス代表として戻ってきたい。パラリンピックでは過去2大会で逃しているメダル獲得が大目標。それに、日本ではこれまで(東京、大分国際など)多くのレースを走っていて、“ホーム”のような感覚もある。本当に楽しみ」と話し、2年後の大舞台を見据えた。
2着はオールラウンダーで「最強女王」のマクファーデン(アメリカ)
2位に入ったマクファーデンは1989年、先天性の下半身まひで生まれ、8歳から車いすレースを始めると、才能が開花。トラックからマラソンまで幅広い強さを見せ、「最強女王」の名を欲しいままにする。だが、昨年前半は両脚の深刻な血栓症に苦しみ、多くのレースで欠場を余儀なくされた。
東京マラソンにも2位に終わった2016年から2大会ぶりの参戦となったが、「去年は出場できなかったので、2位でも満足。(1時間44分51秒という)タイムも2月としては悪くない。今年は“立て直し”の年。そのスタートとして体力の回復ぶりにも手応えがあったし、自分を誇りたい」と充実の表情を見せた。
オールラウンダーのマクファーデンは2016年のリオパラリンピックで、100mからマラソン、さらにはリレーを含めた7種目を制す偉業に挑んだが、残念ながら手にした金メダルは5個にとどまった。
「東京の新コースはフラットで走りやすい。観衆も多く、声援も温かった。2020年はもちろん、“セブン・ワンダーズ(7つの金メダル)”に再チャレンジするわ。今からワクワクしています」
そう話すマクファーデンの東京までの道のりにも注目だ。
沖縄のホープ喜納(日本)が初の表彰台!
3位には、昨年覇者のマグロリーを抑え、1時間44分56秒で日本の喜納翼が食い込んだ。ホスト国として迎える東京パラリンピックのホープに名乗りを上げた格好だ。1990年沖縄生まれの喜納はバスケットボール選手として活躍していた大学1年のとき、練習中の事故により車いす生活となる。2013年から車いす陸上を始め、フルマラソンは16年に初挑戦。昨年大会は5位と、徐々に力をつけている。
「今日は世界トップの選手たちが揃っていたので、どこまでついていけるか、とにかく先頭を目指して走っていた。20km手前で切れて集団から離れてしまい、追いつけなかった。思ったより早く切れてしまったのが心残り」と悔しそうにレースを振り返ったが、25km地点で40秒以上離されていたマグロリーに30kmまでに追いつく粘りをみせ、2分近く突き放して初の表彰台をつかみ取った。
そんな喜納の活躍を、2016年から車いす部門のレースディレクターを務め、今大会は自身も参戦した副島正純も喜んだ。副島は折り返しなどで女子のレースぶりも見ていたといい、前半でトップから離され気味の喜納の姿に、「もう少しがんばってほしい」と健闘を祈っていたところ、自身のゴール後に喜納から結果報告を受け、「厳しくなる後半に粘っての3位。よく頑張った」と称えた。
レース後、喜納は、「3位は嬉しい。持久力を上げ、スピードを維持する練習をしてきた。昨年に比べれば成果が見えた部分もあったが、カーブからのスピードアップなどは世界に比べると、まだまだ。今後のトレーニングで修正していきたい」と話し、さらなる成長を誓っていた。
また、男子は世界ランキング1位のマルセル・フグ(スイス)が航空便のキャンセルにより来日がかなわず不参加となったが、リオパラリンピック日本代表でもあるベテラン山本浩之が昨年3位の鈴木朋樹とのデッドヒートを制し、1時間26分23秒で自身大会4度目となる優勝を果たした。
2年後の「世界最高峰の戦い」をにらみ、前哨戦とも成りえる東京マラソン。来年、再来年も見逃せないレースになるはずだ。
text by Kyoko Hoshino
photo by TOKYO MARATHON FOUNDATION