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アルペンスキー
メダル第一号の村岡桃佳 父とともに掴んだ銀・銅メダル/平昌パラリンピック
青空の下、両手を高く上げた。その笑顔がまぶしく輝いていた。
アルペンスキーは10日、高速系種目・滑降が行われ、女子座位で村岡桃佳が2位となり、今大会の日本勢メダル第1号となる銀メダルを手にした。女子滑降の銀メダル獲得は、2006年トリノ大会で、今大会の日本代表選手団団長を務める大日方邦子が獲得して以来、3大会ぶり。21歳での獲得はアルペン女子の最年少で、村岡は11日のスーパー大回転でも銅メダルを獲得した。
勝ちたい思いで乗り越えた恐怖心
レースは視覚障がい、立位、座位の順番で行われるが、座位が始まると、選手たちは荒れた雪面に苦戦。転倒が相次いだ。
「ひとり転倒したことは知っていましたが、ゴールした後に2人転倒していたと知りました。滑りながら何回いなくなるか(転倒してしまうか)という、不安と恐怖のなかで滑っていたので、メダルが獲得できて本当にうれしいです」
攻めるか。守るか。その迷いを吹き払ったのは自身の強い気持ちだ。「スタートハウスに入った瞬間『ちょっと無理かも』って思いました」と一度は気持ちがすくんだと明かしつつ、「スタートバーの前に立って『勝ちに行こう』と思った。ベストな滑りができ、4年間の成長を感じることができました」と胸を張った。
村岡がナショナルチーム入りするまでコーチだった野島弘さんも、日本でレースを見守った。
「苦手な右ターンも、頭を使ったいいライン取りをしているように見えたし、なにより桃佳が憧れていたキレキレの攻めのターンができていた。攻めの滑りをした勇気に拍手を送りたいです」
村岡は5種目に出場予定。この日の滑降でスタートする競技日程は最終日の大回転で締めくくられる。「わたしに始まり、わたしに終わる」。自身がそう表現したように、村岡は再び躍動すると誓う。この日、同種目で銀メダルを獲得した男子の森井大輝も「今回はラッキーなメダル。桃佳はオールラウンダーでなくてはならないし、まだまだこれから」と発破をかける。
村岡も「結果も踏まえてまだまだ通過点。高みを目指してがんばりたいと思います」と語った。
2日目のスーパーGでは銅メダル!
そして、2日目のスーパー大回転。1分36秒10でフィニッシュした村岡は、2日連続のメダルとなる銅メダルを獲得した。
4年前、パラリンピックの初舞台となったのがスーパー大回転だった。結果は旗門不通過による失格。緊張に押しつぶされそうになった当時の悔しさもまた、厳しいトレーニングの糧になったに違いない。「メダルもうれしいけど、4年越しでゴールできてよかった」と話し、安堵感をにじませる。
だが、「滑り切った達成感は(銀メダルを獲った)昨日のほうがあった」と村岡。
次は、金メダルを狙いにいく。
父・秀樹さんの胸に輝いたメダル
日本座位チームの先輩たちを見て過ごし、ついにメダリストの仲間入りを果たした村岡。だが、幼いころは運動が苦手な「お家遊びが好きな女の子」だったという。
そんな村岡を車いすスポーツやスキーに連れだしたのが父・秀樹さんだ。中学2年生から本格的に競技生活をスタートさせた後も、現在通う早稲田大学に入学するまで、自宅のある埼玉から長野のゲレンデに一緒に通い、練習を重ねた。
村岡の持ち味であるきれいな弧を描くカービングターンも、父との練習がベースとなっているという。
「父にメダルをかけてあげたい」かねてよりそう話していた村岡は、メダルセレモニーの後、平昌に応援に来ている父に輝く銀メダルをかけた。
秀樹さんは言う。
「ズシリと重いメダルでした。今までの苦労や思いが詰まっていますからね」
2人に特別な言葉はいらなかった。互いに涙を流し「幸せな時間でした」と秀樹さん。11日には2個目のメダルも目撃した。
小さい体を風呂桶のようなシートにうずめてスキーをした小学生時代を懐かしみながら、「こんな瞬間が来るとは」と優しく微笑んだ。
text by Asuka Senaga