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陸上競技
視覚障がいランナー唐澤&和田が快挙! 切磋琢磨してつかんだ2つのメダル
東京2020パラリンピック陸上競技初日の27日、オリンピックスタジアムでは男子5000m決勝が行われ、唐澤剣也(T11/全盲)が15分18秒12で銀メダル、和田伸也(T11/全盲)が15分21秒03で銅メダルに輝いた。今大会を通じて初のダブル表彰台となり、陸上チームに勢いをもたらした。
猛暑はドバイで経験済み!
この日は気温32度、湿度65%と、タフなコンディションの中での戦いとなった。
ただ、唐澤にとって、猛暑でのレースは今回が初めてではない。ドバイの世界選手権(2019年)では、30度を超える暑さの中で銅メダルを獲得した経験を持つ。「それが自信になっていて、自分では暑さには強いと思っている」という。
もう一つ、唐澤の自信につながっているのが、今年5月に行われた東日本実業団選手権でマークした15分09秒94の世界新記録だ。最大の武器である終盤のスパート力を生かすため、4000mまでは力むことなくリラックスした走りを心がけたという。今大会に向けても、「もう一度同じレースができれば勝てる」という考えで臨んだ。
ガイドとの息もぴったり
レース序盤は、ややスローな展開の中、3番手から5番手を追走。4000mまでの伴走を務めたガイドランナーの小林光二は、「最初から3番手、4番手あたりに楽につかせてあげることだけを考えていた。位置取りはすごくよかった」と振り返る。「唐澤選手とはほとんど同じピッチ」(小林)という2人のリズムは、終盤まで乱れることはなかった。
中盤から後半にかけては、2人の外国人選手がやや抜け出す形になった。それでも、「早い入りや遅い入りをはじめ、何通りものプランを立ててきた。想定内のレース展開だった」(唐澤)と、慌てることなく、戦略通りのリラックスした走りを心がけた。
「ラスト、勝負行こう!」
ラスト1000mに差し掛かると、一気にギアを上げた。終盤の伴走を務めたガイドランナーの茂木洋晃は、「前の選手が落ちてきて、苦しそうなところが見えたので、ラスト400mで仕掛けられると思った」という。
唐澤が本格的に競技を始めてから、茂木は地元の群馬に戻り、実家のトマト農家を手伝いながら、唐澤の練習やレースのサポートをしてきた。唐澤も「ずっと一緒に付き合ってもらっているので、自分の強いところも弱いところもすべて知り尽くしている伴走者」と絶対の信頼を寄せる。
茂木の「ラスト、勝負行こう!」の声に反応した唐澤は、ついに残り1周でトップに。残り200mで抜かれ、惜しくも表彰台の一番高い場所は逃したが、「金メダルを目標にやってきたので悔しい気持ちもある。ただ、今出せる力はすべて出し切っての銀メダルで素直にうれしい」と、パラリンピック初出場でのメダル獲得に充実の表情を見せた。
ダブル表彰台の二人はただのライバルではない
唐澤は2016年のリオ大会で、自分と同じ視覚障がいのランナーが活躍していることを知り、競技を始めた。そのランナーが、唐澤に続いてゴールし、銅メダルを獲得した和田伸也だ。「和田さんは目標とする選手でもあり、ライバルでもある」と言うように、これまで国内外の大会でしのぎを削ってきた。
唐澤の登場までこの種目をけん引してきた和田は、「金メダルには届かなかったが、2人とも金メダルを目指して切磋琢磨してやってきた。互いにメダルを取れてよかった」と健闘をたたえ合った。
以前、「走ることは感謝の気持ちを表現すること」だと語っていた唐澤。フルタイムで働きながら競技と向き合ってきた唐澤にとって、これまで支えてくれたすべての人に捧げる銀メダルとなった。
edited by TEAM A
text by Kenichi Kume
photo by Takashi Okui