-
- 競技
-
柔道
-
- 選手
がっつり昼寝で銅メダル! 体格差はね返し柔道・小川和紗が70kg級初の快挙
今大会、柔道の女子代表に唯一のメダルをもたらしたのは、身長151cmと小柄な小川和紗だった。出場した階級は70kg級。女子としては重量級に当たるだけに、対戦する海外選手は長身揃い。身長差20cm以上ある相手との対戦も珍しくない中で、この階級で初のメダルを日本にもたらした。
メダルゼロのままでは終われない
8月29日、東京2020パラリンピック・柔道競技の最終日に日本武道館の畳に上がった小川。ここまで日本代表のメダルは瀬戸勇次郎が取った銅メダルのみで、女子のメダルはゼロ。「私が取りに行く」という強い決意で試合に臨んだ小川だったが、初戦から展開は波乱含みだった。
足技を使って積極的に仕掛けていく小川は、開始1分過ぎに支釣込足で相手を投げ、うつ伏せになったところに送襟絞に入る。そこで「本当は審判が一本を取るまで放してはいけないんですけど、相手が2、3回タップしたので外してしまった」という。審判がタップに気づかずそのまま試合が続行されかけたが、審判に映像判定をアピールし、これが認められて一本勝ちが決まる。投げ技から絞め技へのつなぎがスムーズで、一瞬何が起きたか分からないほどのスピードだった。
2回戦は不戦勝となり、迎えた準決勝。ジョージア代表のイナ・カルダニに対して強気で攻めた小川だったが、「思った以上に相手の体幹が強くて崩せず、焦ってしまった」と、仕掛けた技を小外掛で返され一本負けを喫する。「気を抜いてしまい、脇が空いたところを狙われた」と振り返るが、時間は戻らない。3位決定戦に回ることになった。
長身の相手に強気に、冷静に
「気持ちが落ちてしまって、気分が悪くなってしまった」というほどショックは大きかったが、ここからは気持ちを切り替えることに集中。エネルギーとなるものを少し食べ、気分を変えるために横になった。「そうしたら寝てしまって。試合の合間に昼寝をしたのは初めてですが、がっつり眠ってしまいました」。時間にして15分ほどだというが、この昼寝によって落ち込んでいた気持ちを切り替えることができたとのこと。
メダルをかけた3位決定戦、小川はここまでの試合以上に強気な姿勢で攻め立てる。相手はRPC(ロシアパラリンピック委員会)のオルガ・ザブロドスカヤ。とりわけ身長差のある相手だが、その差を逆に利用し、担ぎ技を積極的に仕掛ける。「コーチからも『死ぬ気で取りに行け』と言われ、勢いになった」と語るが、一方で「相手は寝技も強い。深追いはしすぎないようにした」という冷静さも持ち合わせていた。
その姿勢が功を奏し、2分51秒に背負い投げからの体落としで技ありを奪う。審判の声を聞いた瞬間は「一本じゃないのかと思った」というが、その後も相手の動きに冷静に対処。相手の上背を利用して奥襟を掴み、巴投げから寝技に持ち込もうとするザブロドスカヤの動きを封じて、殊勲のメダルを手にした。
あこがれの選手に一歩近づけた喜び
2017年のIBSAワールドカップまでは63kg級で試合に臨んでいたが、コーチの勧めもあってさらに大きな70kg級に転向。「苦しい時期もあったが、メダルを取れたので階級を上げてよかった」と、それまでの厳しい表情から一転、いつもの明るい笑顔で語った。
オリンピックの78kg超級で金メダルを獲得した素根輝にあこがれているという小川は、「銅メダルを取ったことで、少しでも近づけたのならばうれしい。もっと近くに行きたい」と、この日一番の笑顔を見せた。
次なる目標は3年後のパリ大会。「次は金メダルを取ってコーチにかけたい」と決意を新たにした。
edited by TEAM A
text by Shigeki Masutani
key visual by Getty Images Sport