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車いすテニス
トップスピンが違う! 車いすテニス女子・上地結衣が因縁のライバル下して初の決勝へ
東京2020パラリンピックの車いすテニスに出場している上地結衣は9月2日、女子シングルス準決勝でアニク・ファン クート(オランダ)を2-0で破り、決勝戦進出を決めた。通算成績では35勝19敗、8連勝中と相性も良いが、パラリンピックでは過去2大会で敗れた相手。大谷桃子とのペアで臨んだ前日のダブルス準決勝でも、ファンクートらオランダペアに敗れていた。
大きな壁となっていた宿敵を破った上地は、「意識せざるを得ない存在。今回、やっと、三度目の正直。初めてロンドン大会に出たときには、考えることができなかった世界だったので、すごく嬉しい気持ちはありますけど、決勝戦をどう勝つかを考えています」と、喜びをかみしめながらも、すでに翌日の決勝戦に目を向けていた。
激闘の第4ゲームを制して勢いつける
第1、2セットともに6‐2で制したが、決して楽ではなかった。中でも2‐1でリードして迎えた第1セットの第4ゲームは激闘だった。30‐40から追いついた後はデュースを繰り返し、このゲームだけで相手のゲームポイントを6回しのいだ。
スライスと強打で前後にパワフルに揺さぶってくる相手の打球に耐えながら、鋭角のバックハンドで自らにチャンスを誘い込み、フォアの強打につなげるなど応戦。最後はラリーで粘って相手のミスを誘い、8度のデュースを経てゲームを取った。この後は第5ゲームをラブゲームで制し、さらに勢いづいた。
上地が第4ゲームで見せた粘りは、この5年間で培ったものだ。リオ大会後の上地は、新たなスキルを習得することに時間を費やした。以前の自分とは違い、頂点を目指してきた思いが苦境で生きたのだ。それは上地の試合後のコメントからも読み取れる。
「ここで負けていいのかと思い返した。準決勝まではアニークと対戦したい気持ちで来たけど、それだけで良いとは思っていない。ディーデ(・デ フロート=オランダ)が直前の試合で勝ち進んだのを見て、彼女と決勝の舞台で戦いたいというふうに強く思わせてもらえたので、あそこでぐっと離せたと思いますね」
速くて強力なバックハンドのトップスピン
生まれつき、脊髄に障がいがあった上地は11歳で車いすテニスを始め、高校3年時の2012年ロンドン大会でパラリンピックに初出場した。その後は世界のトッププレーヤーに成長し、2014年に全仏オープンを優勝。2016年リオ大会では銅メダルを獲得している。2017年には4大大会のうち3大会を制する快挙を成し遂げた。
リオ大会の前から取り組んできたのが、バックハンドのトップスピンショットだ。コントロールの利くスライスと比べると制球が難しいが、より速くて強力。2017年春に手応えをつかみ、それまではスライスばかり打っていたバックハンドに選択肢が加わった。
この試合の第2セットでもその効果が現れた。上地はバックハンドによる鋭角のショットで相手を左右に振り回すと、フォアハンドでは大きな弾道で相手をコート奥に追いやり、相手の反撃を封じたのだ。
リオ大会のときとは違う
上地本人も、この日の勝因としてバックハンドのトップスピンショットを挙げている。
「彼女(ファン クート)のスライスはすごく威力があり、角度もつけられる。世界1、2位のレベル。ただ、トップスピンを打つことで、この角度だったら(返球は)クロスにしか飛んでこないなという判断ができる。次のショットを準備するために彼女に制限をかける意味で、トップスピンはすごく有効」
トップスピンをコントロールするために、スイングに耐えられるフィジカルも強化してきた。リオ大会のときとはパワーもスキルも違う。積み上げてきた成果が出た試合だった。
翌3日の決勝で戦う女王デフロートとは、今年の対戦成績で1勝5敗と分が悪いが、上地はショットの選択肢が増えたことも生かしながら、相手が考え込むような展開に持っていくことを狙う。
「自分が取り組んできているのは、決勝に残るためのことではない」
初めての銀メダル以上が確定しても満足はしていない。リオ大会から5年の集大成。日本のエース、上地が金メダル獲得に挑む。
text by TEAM A
photo by AFLO SPORT